路上占い、あれこれ㉔【占い師は刺される】※細々と占い再開しています。

崔 梨遙(再)

1660文字です。

 僕が路上占いをしていた時、お客さんで、僕が一方的に好意を持っていた女性客がいました。名前は千賀子。年齢は僕と同じ。小柄でチャーミング。コンビニのバイトを辞めてホステスさんを始めたばかりの女性でした。小柄でしたがスタイルも良く、顔は僕の好みでした。何回か来てくれて、それから、休日を一緒に過ごすようになりました。ですが、僕は物足りませんでした。彼女は僕を『友達』と呼ぶからです。僕は彼女の恋人になりたかったのです。ですが、1度『友達認定』されると脱出は難しいのです。僕は恋人になれる『きっかけ』を求めていました。



 チャンスは割と早く来ました。千賀子が深刻な顔で相談してきたのです。


「ストーカーに困ってるねん。怖いから退治してほしいんやけど」


 僕は、“チャンスだ!”と思いました。ここで良い所を見せたらきっと恋人になれる! 僕はストーカー退治を即答で引き受けました。


 僕は、彼女が勤めているクラブの前に行きました。彼女の帰宅時間に合わせて店の前の様子をうかがったのです。すぐに、電柱に隠れて店の前を監視しているスーツ姿の男を見つけることが出来ました。僕は電柱に隠れて、電柱に隠れている男を監視しました。


 千賀子が店から出て来ると、隠れていた男も動きました。千賀子の後をつけて歩きます。僕は男の後をつけました。


 千賀子は電車で、最寄り駅の1駅手前の駅で降りました。男も降りました。なので、僕も降りました。ストーカーが現れてから、千賀子は1駅手前の駅で降りてタクシーに乗って帰るようにしていたのです。


 男は、千賀子の乗ったタクシーをいつまでも見送り続けていました。そこで、僕は男の肩を叩きました。


「なんですか?」

「オッチャン、ストーカーはアカンで。千賀子の後をつけてたやろ? もう、やめとき。言うこと聞かんかったら、僕は怒るで」

「俺の邪魔をするのか?」


 なんと、男はポケットからナイフを取り出しました。ですが、ここで引くわけにはいきません。


「なんやねん、そのナイフ? やめとき」


 その時、男は真っ直ぐナイフを突き出しました。ナイフを振り回すと予想していた僕は一瞬動作が遅れました。


 腹に刺さる・・・ところでしたが、左の手の平で止めました。大丈夫、ナイフは骨で止まりました。ですが、血は流れます。男は、自分が刺したのに、怯えた様子でナイフを手放して後ずさりしました。


「このナイフは証拠品や。オッチャンの指紋と僕の血がついてる。さあ、警察に行こうや。あんたの会社にも報告せなアカン、忙しくなるで」

「会社に知らせるのは辞めてくれ、クビになったら家族を養えない。俺は終わりだ」

「そんな都合の良い話をされても困るなぁ」

「頼む、許してくれ」

「あんた、妻子がおるんか?」

「いる、妻と子供が2人」

「なんでタクシーに乗って千賀子をタクシーで追いかけへんかったんや?」

「金が無いんだ。タクシー代が無い」

「ちょっと、財布を見せてくれや・・・あ、1万円しかない。でも、1万円あるならタクシーで追いかけたら良かったんとちゃうか?」

「ホテル代に、1万円は持っておかないとアカンやろ?」

「ホテルだけかい? あんた、店に入って千賀子に会わへんの?」

「店には月に1回しかいけない。小遣いが少ないから」

「だからって、こういうストーカーはもう辞めなアカンで。とりあえずオッチャンの名刺をくれ・・・今度、千賀子の周りをウロチョロしたら警察に行くし、あんたの会社にも連絡するで。僕は怪我したから病院へ行くし。いつでも診断書はもらえるから、あんたの会社での立場は悪くなるで」

「わかった、もう千賀子のことは諦める。許してくれ」

「ほな、もう帰りいや」



「崔君、ごめんなぁ、私のために怪我させてしまって」

「いやいや、ええねん、ええねん、大丈夫、大丈夫、千賀子のためなら、このくらい」

「ほんまにありがとうなぁ、やっぱり崔君は最高の友達やわ」

「・・・・・・」



 ストーカーを撃退した、怪我もした、それでも僕は千賀子に『恋人認定』してもらえなかった。残念!



「“ありがとう!” だけかーい!」



 占い師は、夜に叫ぶのだった。







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