第2話 図書室のヒロイン、三浦花鈴
ハーフアップでまとめた青みを帯びた髪と、小さい顔の中に存在感を強く放つ黒々とした眼が印象的な小柄な少女。
三大ヒロインの中で最も胸が大きいと思われ、着こんだセーターの上からでもその大きさが何となく分かってしまう。
そんな三浦花鈴の特徴と言えば、とにかく知識に長けていること。相談すれば大概のことは解決するらしいと噂が経っている。空いた時間は常に図書室におり、日々読書をして、知識を高めている。
それ故に図書室のヒロインと呼ばれるわけだ。
俺はそんな彼女から目を逸らして、図書が配架されている本棚を歩く。タイトルや背表紙、あらすじなどを見てどんな内容の本かを想像する。
本は読むときより選ぶ時が一番わくわくするのだ。
いつもはそうやってダラダラと本を選ぶわけだけど、今日は狙いの小説があった。
この前に読んだ小説の続巻だ。
何巻もある長いシリーズの作品なのだが、試しに第一巻を読んでみたところ見事にハマってしまった。
お目当ての小説が置いてある場所についた。
ついたのだが……二巻だけそこに置いてない。
結構楽しみにしてたんだけどな……。
しょーがない、誰かが借りてしまったのだろう。
諦めて帰ろう、と思いトボトボと出口に向かっていた。その最中。
後ろから腰をツンツンされた。
「――ッツ」
我慢して声を出すのを何とか堪える。
あまり触られたことのあるような場所でもなく、ビクッとしてしまう。
後ろを振り返るとそこには校内三大ヒロインの一人、三浦花鈴がおずおずと言った様子で手を伸ばしていた。
「ごめんなさい。そんなにびっくりするとは思わなかったんです……」
小さな声でささやかれる。
初めて三浦さんの声を聞いたが、こんなにも透き通ってクリアなものだと思わなかった。あまりにも良い声に耳が幸せな気分になってしまっている。
「い、いや、大丈夫です。それでどうかしましたか?」
「白石さん、いつも図書室に来るときは何か本を借りて行くのに、今日は何も借りていかないので……どうしたのかなって」
それだけのことなのに、わざわざ声をかけてくれたのか……。
確かに図書室を普段から利用している奴なんて、たかが知れているのかもしれないけど、心配して声をかけてくれる三浦さんの気遣いが凄い。
素直に話すべきか悩む。
普段だったら誰に心配されようとも「大丈夫です」と言って誤魔化すのが俺だ。その方が話は早く終わるし、相手にも迷惑をかけない。
だけど、三浦さんにそれは通じないような気がした。
ちょっとした異変を感じ取る観察眼、声をかけてくるような行動力。
理由ならいくつもあるけど、一番は勘だった。
「借りたいと思ってた小説が無くて……」
「なるほどですね……なんてタイトルの小説か教えて貰ってもいいですか?」
「『ケモミミ族の進撃2』という作品です」
「可愛いタイトルですね。ちょっと貸出記録を見てきます」
三浦さんは、とてとてと短い手足で小走りで図書室のPCへと向かって行った。
「うーん、今現在は貸出中ではないみたいです」
ということはこの図書室のどこかにある。
もしくは誰かが図書室から盗んだのかもしれない。
どちらにせよ、見つけるには手間がかかるに違いない。そんな手間を負ってまで、探したくもないし、三浦さんに捜させたくもない。だから――。
「そうですか。調べてくれてありがとうございます。では、自分はこれで……」
「ま、待ってください。捜してみるので……」
「大丈夫です。他に読む本もあるし……」
俺はまだ何か言いたげな三浦さんを残して図書室から出た。
玄関に向かおうとして、階段を下りているところで後ろから大きな声が聞こえた。
「待ってください、って言いましたよね! 白石さん!」
「み、三浦さん!?」
階段の上に仁王立ちして叫んでいた図書室のヒロイン、三浦花鈴。
声が大きくなってもその綺麗なボイスには何一つノイズが混じっていない。
そんな三浦さんは一段飛ばしで階段を下りてくる。
小柄な体格な彼女が足を踏み外さないか心配になってくる歩みだが、勢いはそのままで俺の隣に降り立った。
「ほら見つけてきましたよ『ケモミミ族の進撃2』」
「え、あ、はい……」
「全く、すぐに見つけられそうだったのに、勝手に帰るだなんて……」
「ご、ごめんなさい……」
「じゃあ、せめて楽しんで読んでくださいね! つまらなかったからってSNSで酷評とかしたら、見つけてきた私がぶん殴りますから。では!」
「ありがとうございました!」
そして、俺に本を手渡して三浦さんは去っていった。
図書室のヒロインって見た目は大人しそうなのに、思ったよりも破天荒な女子だったりするのかな……。
でも、まさか一日で二人の三大ヒロインと接することになるなんて……。
俺はリュックに『ケモミミ族の進撃2』をしまい、再び階段を降り始める。
次の瞬間。目の前でガラスが割れて、ソフトボールが校内に転がり込んできた。
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