校内三大ヒロインが俺の前世の嫁だと言ってくるけど、俺を取り合ったりはしない(※裏ではする)

綿紙チル

第1話 生徒会のヒロイン、桐生美琴

 ボッチとは諸刃の剣だ。

 誰かに左右されることのない自由と引き換えに、教室内、ひいては学校内では最底辺の存在として扱われる存在。

 人間の社会的地位とは、どれだけ多くの他者が好意的に評価するかで決まる。

 

 俺、白石俊也しらいしとしやはボッチについてそう思う。

 明確に考えを持っているのは、自分自身がボッチだからに他ならないからだ。


 でも、折角保護者の元を離れて自由に過ごしているのだから、学校でも何かに囚われる必要なんてないと思ってしまう。


「これにて帰りのホームルームを終わります」


 そんな先生の言葉を聞いた同級生たちは机から去っていく。

 バイトに行ったり遊びに行ったりする人もいれば、部活に行った図書室で勉強したりなど学校に残る者だっている。


 俺もとっとと教室から出て図書室に行きたかったがそうもいかない。


 教室の清掃をしなくてはいけないからだ。

 他の奴らが自席から立ち去るまで待っていたところに、四人の男子生徒が近づいてきた。名前は……まあいっか。


「白石、すまん! 俺たち、この後すぐのバイト入れちゃっててさ、どうしても教室掃除する時間がないんだ。だから、任せたいんだけど……」

「了解。お前らの分もみっちり掃除しとくよ」

「おおっ、助かる! じゃあな!」


 俺に相談してきた男子たちは振り返りもせずに教室から去って行った。

 そして、教室に残されたのは俺一人。


「さて、じゃあやるか」


◆ ◆ ◆ ◆


 そして一人で教室清掃を終わらせ、自席で一息をついた。

 

「は~疲れた」

「うん。そうだね、お疲れさま」


 俺はびっくりして後ろを振り返る。

 教室の後方にいたのは、この学校で最も有名な女子生徒、桐生美琴だった。

 

 丁寧に手入れされたセミロングの黒髪。

 きらめくような明るい瞳は、大きくて可愛らしい。

 恐らく女子の平均身長よりちょっと高めな身長が、スカートを短くしてるわけでもないのに足をスラっと長く見せている。

 一つのボタンも外すことなくきっちり着ているワイシャツとブレザーから、彼女の真面目さというものが伝わってくる。

 それは、桐生美琴という女子が生徒会の副会長をしているからだろう。


 そんな彼女はこの学校の生徒達の間では三大ヒロインの一人として呼ばれている。

 生徒会のヒロイン、文武両道のスーパーガール。それが桐生美琴なのは、何となく知っていた。


 そんな彼女にいきなり声をかけられて、声が出なくなってしまった。


「ごめんね、いきなり声をかけてびっくりしたよね?」

「一人だと思っていたので……」

「同級生だから敬語使わないで欲しいな~なんて」

「は、はい。ごめんなさい……」


 普段だったらこんなにしどろもどろな話し方はしないのに……びっくりしたのと目の前の圧倒的な美少女オーラに気圧されている。


「そ、それで一体何の用なんですか?」

「いや、特に用件は無いよ? ただ、一人で頑張って掃除してるのが目についたから、何となく褒めたくなっちゃって」

「褒めたく?」


 俺は桐生さんの言葉の意味がイマイチ分からず、首をかしげる。

 だけども、彼女はそんな俺の反応など気にすることはないようで。


「うん、君は凄い! 一人で掃除、凄すぎる!」

「…………あ、ありがとうございます」


 突如、胸の中に広がる温かいもの。

 そんな新幹線みたいな真っ直ぐな労いの言葉なんて、もう何年も聞いたことが無かった。だからか、小さな声でしか感謝の気持ちを伝えられなかった。

 

「いえいえ、私も頑張ってる君を見て生徒会のお仕事を頑張ろうって思えたから。こちらこそ、ありがとう! じゃあね」

 

 そう言って桐生さんは教室から出て行こうと立ち上がった

 俺も「じゃあね」と言いたかったが、恥ずかしくて言えない。

 だけど更に桐生さんは、俺に向けて手まで振ってくれた。俺もどうにか手だけ振ると、小さく笑ってくれるのだった。


 これが学内三大ヒロイン……可愛すぎるだろ!


 初めて接した三大ヒロインの可愛さに、心がちょっとだけざわついている。

 普通に考えれば、今日はただのラッキーで、これから桐生さんと接点を持つことはないだろう。変に心に残してしまうと厄介ファンになりかねない。


 それに今から向かう場所にも学内三大ヒロインはいるのだ。

 どうにかして心を落ち着かせないと……。


 なんて、考えながら校内を歩き目的の図書室へと到着。

 ドアを開けて目につくカウンター。そこに座っているのは、見慣れた校内三大ヒロイン。図書室のヒロインと呼ばれる三浦花鈴みうらかりんだった。


 

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