第2話 伝説の幕開け
―ピピピピッピピピピッ―
「…うぅ~ん、もう朝か。」
8時を指し示す時計を横目に、俺は9時間の睡眠から目覚め顔を洗う。今日の天気は晴れ。カーテンを開けると、正に雲一つない晴天。基本が夜行性の俺にとっては気が滅入る天気だ。
着替えた後、朝飯を食いながら新着情報が出てないか確認するが、残念ながら特に無いようだ。ちなみに、我が友人こと
『 (´•̥ ω •̥`) そんな~』という彼からの情けない連絡があった後、彼のご冥福を祈りつつ、俺はゲームの準備を始めた。
―ピロリンッ―
軽快な音と共に俺は最新式のフルダイブ型マシンに接続された。この最新式のマシンを手に入れるのにも聞くも涙、語るも涙な小話があるが、それはおいおい...
―「アバターの作成を始めますか?」
機械音声が流れ、プレイヤーの分身であるアバターの作成場所にワープする。
実のところ、このゲームのアバターはカスタマイズの種類が豊富ということもあり、アバターだけは一週間前から作成可能だったのだ。俺はゲームのアバターにそこまでこだわりがある方では無かったため、当日の朝作成で問題は無いと判断していた。
まず選択するのはアバターの種族である。
「ザ・普通の人間種に、定番のエルフ種、ドワーフ種、魚種なんかもあるな…虫種とかもおもしろそうだな。…ハーフとかにもできるのか!」
俺はまず、一番おもしろそうだと感じた虫種を見てみる。脚の数や手の数もカスタマイズ可能で、目の数も増やせることがわかった。その他いろいろいじくりまわした後、完成したのが…
「さすがにないわ~…」
そこにいたのは、脚は20対で計40本、腕は3対で計6本、合計46本の腕やら脚やらが生えたあまりにキモすぎる黒い化け物がいた。虹色に輝く羽根を付けたあたりで迷走に気付き、何とか修正しようとして、目を金色にしたり、二又の立派な角を生やしたりしてみたのだが、時すでに遅く、キモさが増しただけになってしまった。こんなのが街中にいたら通報待ったなしである。
「やっぱり、無難なのが一番なのか…?」
化け物を一旦消去し、人間種でアバターを作り直してみる。リアルの自分の面影あるイケメンが完成したところで、俺は自らの痴態に気付いてしまった。
「この俺がゲームだというのに、無難を選んでしまっているだと…」
ゲームとは自由な場であり、何にも縛られてはならないというのが俺の持論だったはずなのに…無難なアバターを作成するなど言語道断、即刻作り直すことを決めた。
「改めて考えると、虫ってキモいけどおもろいよな…ハーフにしてみたらキモさも薄まるんじゃ…」
早速、今の人間種のアバターを利用して虫種と人間種のハーフを試してみることにする。
「キモくなりすぎないように脚は2本にして、…腕は4本にしておくか、腕少なかったら虫選んだ意味無いしな…色合いがどう見てもゴキブリだから青とかにして…」
こうして完成したのが…
「これ…なかなかいいんじゃないか?」
そう自画自賛してしまうのも無理はない出来のアバターが完成した。まず、全体の印象としてはプレートアーマーを纏った騎士といった感じだ。外殻はくすんだ青、頭頂部には立派な角が生えている。眼は怪しく光り、背中には羽根が仕舞われている。人間種と虫種のハーフということで二足歩行になり、残りの4本の腕で武器やら何やらが使用可能だ。これぞ正に虫人といった見た目だ。
その他細かい修正や追加パーツをつけたりしていた結果、サービス開始時間である、正午の30分前にアバター完成となってしまった。
「無事間に合ってよかった~ギリギリ間に合わないかと思ったわ。」
時間の流れは早く、長くても1時間を予定していたのだが、思ったよりも熱中しすぎてしまった。ここまで細部に凝れるのだから運営の一週間前からアバター作成可能という施策は神采配だったと賞賛せざるを得ないだろう。さすが神運営!
最後にプレイヤー名を決める。
ここで一つ、プレイヤー名を決めるにあたって軽く自己紹介を挟もう。
俺は玄海大学に通う一年生、性は
俺は現在、親元を離れて大学近くで一人暮らしをしている。一人暮らしのおかげで自由にゲームができ、ゲーム三昧の自堕落な生活を送れている。趣味はゲームで、得意なことももちろんゲームだ。暇さえあれば家でゲームをしている。こんな生活習慣だからか彼女はおらず、サークルにも入ってないので今のところ出会いは全くない。大学に入ったら出会いがたくさんあると従兄に聞いたのだが、嘘だったようだ。しかし、こんな俺にも恋の思い出があると知ったらどうだろうか。出会いなし同盟の友人たちに聞かせたら怪しんでいたが、なんと、バレンタインチョコレートを異性に貰ったことがあるのだ。昔すぎて、顔も名前も記憶の彼方だが、俺は確かに覚えている。誰が何と言おうと覚えている!
まあ、自己紹介はこの辺にしてプレイヤー名を決めよう。俺は普段同じような名前でゲームをしている。今回も同じようなプレイヤー名でいくことにする。その名は…
―「プレイヤー名『クロガネ』でよろしいでしょうか?」
―「…はい。」
◇ ◇ ◇ ◇
VRマシンから出て、急いで昼飯の準備を始める。今日の昼飯はレンチンした冷凍うどんにめんつゆをかけただけの簡素な食事だ。
バタバタ準備を整え、VRマシンに入る。サービス開始1分前、ギリギリセーフといったところか。すでに、サービス待機画面ではカウントダウンが始まっていた。カウントダウンを見ながら、今日が人生で一番の日になることを願い、俺はその時を待った。
――…5…4…3…2…1――
一瞬が永遠にも感じられる時を過ごし、ついに…
―…0―
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