俺を笑っていた女子達が青ざめて俺を見るけど、それは俺じゃなく背後です

unknown

第一章 チラチラ視線

第1話 チラチラ見てくる理由

昼休み。

俺は静かに弁当を食べていた。卵焼きは昨日の残り。冷たいけどまあいい。


……視線を感じる。

いや、正確には三方向からレーザービームのごとく突き刺さってくる。


見るな、見ないでくれ。

でも気になるから目線を上げる。


──いた。

中学時代に俺をトラウマにした三人娘。


A=姫野梓ひめのあずさ。クラスの女王様。俺の告白文を黒板に晒し、「はい拍手~!」と全員に笑わせた女。

B=佐伯里奈さえきりな。取り巻きその1。俺の筆箱を勝手に漁って「わ、消しゴム黒っ!」とバカにした女。

C=橘結衣たちばなゆい。無言で笑っていた傍観者。目だけで人を刺すタイプ。


あいつらが──俺をチラチラ見てる。


……ふっ、分かるぞ。

「中学の頃は悪かったなぁ」「あのときは子供だったなぁ」って今さら後悔してるんだろ?

でも残念。手遅れだ。


俺はすでに、孤独に耐え、己を鍛え、心を閉じて開いてまた閉じるという複雑な工程を経て進化した。

要するに、“いじられ役の俺”はもう死んだ。第二形態だ。


だからどれだけ視線を送ってきても無駄。

俺は振り返らない。

……と、思っていた、その時。


「なあ」

隣の友人が小声で囁く。


「お前……後ろ、窓ガラス見てみろ」


え?

振り向いた。


グラウンドには誰もいない。

だが窓に映っていた。


──俺の真後ろに、知らない女が立っていた。


長い髪。感情の読めない顔。

距離ゼロ。

まるで俺の首筋を覗き込むように。


「…………」

俺、無言。


「…………」

その女も無言。


「…………」

俺の心臓だけ爆音。


……いやいやいやいや待て。

なにこれ?怖い。

ていうか女子達がチラチラ見てたの、俺じゃなくてコイツか!?


ガラスの向こうで、女の唇が動いた気がした。

言葉は聞こえない。

でも意味だけが脳に届く。


【みないで】


「…………」

俺、がっつり見てますけど?


「お、おい悠真……」

隣の友人が怯えた声を出す。


背後に立つ存在は、まだ俺に張り付いていた。

女子達は青ざめて席に固まり、息すらできていない。


──え?なにこれ。

怖いのに、状況だけ見ると俺がざまぁされてる側なんだけど!?


……残念だけど。

手遅れなのは女子達じゃなく──俺かもしれない。

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