僕の天使
レオンside
僕の前にノアが現れたとき、僕は彼女を天使だと思った。
外見が天使だというわけでは無い。
雰囲気が、目が、天使だった。
先生にノアについて聞くと日本からの転校生だと言われた。
日本語しか話せないノアにとって、ここは地獄のような場所だろう。
英語で話しかけても苦笑いを見れるだけで天使の笑顔を見ることは出来なかった。
その日から少しづつ、日本語を学ぶようになった。
互いに言語を学び仲良くなっていった僕達を神様は引き離した。
天使は人間界にはいられない。
だったら僕が無理やり留めれば、良いのだと気付いてしまった。
大学の留学制度を利用して日本にやって来た。
ノアの隣に立っているのが未だに信じられなかった。
同じ家に住んでいる事実を脳が処理するにはどれだけの時間が必要だろうか。
ノアに告白をしたがすぐに返事が返ってこないことは分かっていた。
久しぶりの再会で、今まできっと僕の事も忘れていただろう。
もう二度と離さないし忘れさせない。
恋人という関係でも満足できない僕はノアを僕だけの天使にしたかった。
『レオン』と僕の名前を呼ぶノアに幸せを感じる。
振り返るとそこにいるノアに安心感を覚える。
しかしこの瞬間だけは失敗したとはっきりわかった。
「レオン」
夏祭りの中心部から離れた場所にまさかノアが顔を出すとは思わなかった。
「さすがにないわ。のんちゃんがどんな気持ちか、考えた方が良いぞ」
この場に出くわしたあの男は僕を置いてノアを追いかけた。
その背中を追いかけようと、足を一歩前に進ませるとココアに止められた。
「行かないで。私…レオン君に置いて行かれたら一人になっちゃう」
潤んだ瞳で僕を見つめるココアの目は天使とは程遠いものだった。
「君は孤独に生きるべきです」
「え?」
驚くココアの顔を見ると反吐が出そうだった。
「その可哀想演技、辞めてください。僕は知ってます」
ここ数日で調べたココアのSNSのアカウントを見せると顔が青ざめていった。
身近な人への悪口が止まらないSNSを見て哀れに思える。
「君は僕達のゴールにスパイスをくれました。ノアが嫉妬してくれれば早く告白の返事を貰えると思っていました。けど要らないです。これ以上邪魔しないでください」
僕の笑顔を見るとココアは戸惑いを隠せないようだった。
「僕はもう二度と失いたくないです。天使の羽をもいで檻から出られないようにします。それが僕のゴールです」
ノアのフレンドだからと甘やかしすぎたようだ。
「秘密にしてほしいですか?」
スマホを見せながらそう問えば、首を縦に振った。
「ではこのことを秘密にしてください。僕達の前に現れないでください。…Bye」
失敗した。
あと少しでノアは僕を心から好きになってくれるはずだった。
嫉妬してもらえるようにと欲を持ったせいだ。
まさかココアから抱きしめられるとは思いもしなかった。
予定が狂った僕はスマホのGPSからノアの居場所を探した。
レンと呼ばれている彼はノアに好意を持っている。
しかしそこまで心配ではない。
ノアはその男を好いているようには見えなかった。
ただ、今すぐに誤解を解きたかった僕は走ってその場所まで向かった。
小さな公園のベンチに二人は座っていた。
涙を流しているノアを慰めているようだった。
大きく深呼吸をしてノアの前に立った。
二人の視線が僕に集まった。
「ごめんなさい。でも誤解です。聞いてほしいです」
ノアの目を見つめると、そこには悲しみが溢れていた。
「本当にごめんなさい」
深々と頭を下げると温かい手が髪に触れた。
「急に逃げてごめん。…ちゃんと聞く」
隣で頭を抱えるレンは呆れていた。
「のんちゃんお人好しって言われない?」
目をこすったのか少し赤くなっているノアは少し笑った。
「言われないです。色々付き合ってもらってごめんなさい」
祭りとは違って静かな公園に呼吸が整う。
「ココアは僕のことが好きです。目に何か入ったから見て欲しいと言われました。近づいたらハグされました。ごめんなさい。傷付けてしまったです」
別に嘘を言っているわけでは無い。
これは紛れもない、事実だ。
向こうが演技で僕を騙そうとしていたが、それに触れなければ僕は悪くない。
「まぁ…相手は心愛だし」
確かレンとココアは同じが中学校に通っていたはず。
「僕、驚きました。ノア、傷付けてごめんなさい。とても美しい浴衣、綺麗です」
「こいつ、こんな時まで口説くのかよ」
レンは上手く利用できそうだった。
彼はノアを傷付けることはしない。
それは僕にとって都合のいい駒だった。
相談を僕が受ければノアの心は僕のものになる。
無言のノアが口を開くと僕は安心した。
「そっか。レオンの意思じゃないんだね。話も聞かずにごめん」
僕の失敗を取り消してくれたノアに心の中で感謝した。
「ところでここがよくわかったな」
「色々走りました」
GPSのおかげだとは言えないので適当にごまかした。
「帰りましょう」
「うん、そうだね」
ベンチに座っていたノアが立ち上がった。
「ちっ。俺、当て馬キャラみたいになってんじゃん。最悪。じゃあな」
そのまま彼は祭りの方に歩いて行った。
電車の中はとても涼しくて快適だった。
家までの道はとても暑く、汗が流れる。
「暑いね」
そう言って胸元を少し緩めるノアに喉が鳴る。
「ノア、足痛い?」
歩き方が変なノアに声をかけると靴のせいで痛いと分かった。
「マイエンジェル」
そう言って持ち上げればノアの顔が赤く染まっていく。
「ちょ、離してよ!」
「離さないです」
もう二度とノアのことを離してあげられない。
ノアの羽が無くなるまで僕は首を長くして待っている。
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