第2話 少女は、魔力測定をする

 翌日、私は本校舎にいた。


「あ、レイラちゃん! 次の授業って、魔力測定があるんだよね?」


 緊張するな〜、と私の隣の席で言っているのは、リイナちゃん。

 リイナちゃんは、学園に入ってから仲良くなった友達で、授業も一緒に受けることが多い。

 というのも、この学園ではクラス制で、魔法の扱い方や、魔力量、魔法に関する知識量などによってクラス分けをされている。

 一学年でA、B、C、Dの四クラスに分かれており、優秀な生徒はAクラス、そうでない生徒はDクラスのように決まっている。

 そのため、成績が上がると上のクラスへ行けるし、逆に成績が下がると下のクラスへ行くというシステムになっている。

 この制度が導入されたときに、Aクラスのさらに上にSクラスなんてものもあったらしいけれど、そこに所属していたのは、一人だけだったらしい。


 私は、知識や魔力量が多いけれど、魔法が一切使えないからBクラスにいる。

 そして、隣でくつろいでいるリイナちゃんも魔法は使えるけれど、勉強があまりできないからBクラスにいるのだ。

 クラス内では、席は自由なため、私とリイナちゃんは授業を一緒に受けることが多い。


「魔法が使えない底辺魔法使いと、平民が一緒にいますよ!」


 リイナちゃんと平和に過ごしていた空間に、面倒な人たちが後ろから割り込んできた。

 いつも三人で共に行動しているロクデナシ三人組の一人が話してきたようだった。

 私は、魔法が使えないことだけは知られていたので、こういう扱いには慣れている。

 それに、リイナちゃんのように私の性格などの中身を見て、仲良くしてくれる人が殆どの学園とはいえ、こうした外見や能力でしか判断しない人たちが一部いるということも知っている。

 こうした人たちは、何かを言ってしまうと余計に面倒くさくなってしまうので、普段はそのままスルーをする。

 今回も私は、そうしようと思った。


「まぁ、そう言うなって。それでも一応、貴族とそこそこ魔法が使える平民なんだからなぁ!」


 そう言ったのは、三人組の大将的な存在であるラース・アルタだ。

 アルタ君は、これでも一応貴族で子爵家だ。

 後ろにいる二人も男爵家の出で、一応貴族ではある。

 だからなのか、貴族で魔法学校であるこの学園に通っているのにもかかわらず魔法が使えない私や、そもそも貴族ですらない平民のリイナちゃんのことを見下しているのだろう。

 それでも、私はこの三人よりも爵位は上の家系なんだけれどな。


「ちょっと! そんな言い方しなくてもいいじゃない!」


 いきなり、バンッ! と机を勢いよく両手で叩いて立ち上がるリイナ。

 その音に驚いてかクラスの目線が全てこちらへ向く。

 クラスの人たちは、何かあったのかな、とか、どうせいつものことだろ、とかこそこそ話している。

 そんな中、リイナちゃんはというと怒りは収まらなかったらしく、周りの視線も気にせず話を続けている。


「それに、私が言えたことではないけどあんた達だって魔法がちょっと使えるだけの貴族じゃないの。勉強が出来ないくせに、威張ってばかりで……毎日図書室で勉強しているレイラちゃんを見習いなさいよ!!」

「それをお前が言うのかよ。学力も魔法の扱いもあまり俺達と変わらないお前が」

「なんですって!」


 ちょっとその辺でやめなよ、と言おうと思った矢先授業の時間になり、チャイムが鳴った。

 そして、昨日私に授業の資料を取りに行くよう頼んだ先生が教室に入ってきた。


「何の騒ぎですか? って、またあなたたちなんですか。取り敢えず授業をするので席についてください」


 先生によって言い争いを止められたことで、双方不服そうだったけれど、私にとってはこれ以上問題が大きくならなくて良かったと胸をなでおろしている。


「それでは、授業を始めます。今日は、魔力についての内容の授業になります」


 教卓の前に立った先生は、杖を取り出すと魔力を使って黒板に文字を書いていく。


「まず、これは知っている人も多いと思いますが、魔力というものは生まれつきの量に左右されることが多いです。ですが、その人の努力次第では魔力量を増やすことができます。それでは、一般的な魔法使いの平均な魔力量を――リイナさん、答えて下さい」

「は、はいっ! ええっと……」

「あんなのも分かんないのかよ。これだから平民は」


 突然当てられたこともあって、困っているリイナを横目にニヤニヤしているバカ三人組。

 どうやら、私たちと同じ列に私たちから数席離れた位置に座ったようだった。

 私からすると、そんなことでしか馬鹿にできないこの人たちのことはあまり良い印象を受けない。

 それもあるのと、さっき私の代わりに怒ってくれたこともあるからこそっと答えを教えることにした。


「2000 だよ」

「え? あっ! えっと2000、です!」

「正解です」

「分かるなら、早く答えろよな!」


 ありがとう、と私にだけ聞こえる声でお礼をしてくれるリイナちゃん。


「では、宮廷魔法師の平均の魔力量を…… ラース君答えて下さい」

「ぱぱっと答えちゃってくださいよ」


 リイナちゃんへの態度を見ていたからなのかは分からないけれど、アルタ君を指名する先生。

 そのことを当然答えられると思っている子分的な存在。

 そのうち、兄貴! とか言い出すんじゃないかなと毎回思う。


「お、おう。……魔力量は、魔力量、は…………」


 男爵家の一人に期待の目を向けられて、余計に固まってしまうアルタ君。

 まぁ、自業自得と言えばその通りなんだろうけれど、それでもリイナちゃんには教えてアルタ君には教えていないという不公平さでほんの少しの罪悪感がでてきた。


「ラース君、君はまず、人を馬鹿にする前に、学力を上げてきてください」

「は、はい……」


 落ち込んだのかなと思っていたら、何故かこちらを睨まれた。

 こっちを睨まれても、勉強していないそちらも悪いわけで……。

 アルタ君から視線をそらそうと前を向くと先生と目が合った。

 なんか嫌な予感がする。


「それでは、レイラさん、宮廷魔法師の平均の魔力量と歴代最高の魔力量を持ったと言われている人物とその方の魔力量を答えて下さい」


 やっぱり、当てられちゃった。

 まぁ、答えられないわけではないから大丈夫だけれど。


「はい。宮廷魔法師の平均魔力量は5000程度で、歴代最高の魔力量を持ったとされている人物は、『カナト』という御方です。そして、カナトさんの魔力量は、宮廷魔法師の平均魔力量の2倍の10000程だったと言われています」

「正解です。先ほどレイラさんが名前を出したカナトという人のことを知っている人は、少ないと思います。カナトさんは、今では当たり前の様に知られている魔力量の上げ方を学会に発表するなど、数々の功績を上げた方です。ですので、今まで皆さんが使ってきた魔法書等にも名前が載っている事が多いと思われますので、時間があれば探して見て下さい」


 先生が言う通り、カナトさんは色々な本に名前が載っている。

 魔法書はもちろん、小説や絵本、料理本と多岐にわたる本に携わっている。

 特に、魔法書は初級者から上級者まで幅広く読まれており、それは分かりやすい解説や実践方法などが事細かく書かれているからだ。

 私も、カナトさんの本には本当にお世話になっている。


「さて、話が少しずれましたが、一般の魔法使いと宮廷魔法師の魔力量が違うということが分かったと思います。一流の魔法使い程、魔力量が多いということです。本日は、魔力量を測定するだけですが、次回からは魔力量を上げる方法を実際に試してもらう予定ですので、本日測定した結果から目標を決めておいて下さい」


 先生は、そう言うなり透明な水晶を取り出してきた。

 あれは、昨日私がスティー君と出会った場所から持ってきた資料の一つだ。


「それでは、魔力測定を始めます。魔力測定ではこの水晶を使います。使い方としては、水晶に手を当てると魔力量が数字で出ます。それから、色でその人の魔法属性が分かります。色が映し出される時により強い光や濃い色だとその属性との相性がとても良い事を表します」


 水晶を教卓の上に置くと、先生は水晶に手を当てた。

 すると、水晶は濃い緑色で強い光を発した。


「魔法属性は、主な属性の火属性が赤、風属性が緑、水属性が青、土属性が茶色です。そして、珍しい属性である光属性は黄色、闇属性が黒です。私の場合は、魔力量が2500、色は緑色ですので風属性ということが分かります」


 水晶の中に何か文字が書かれている。

 きっとこれが、先生が言っている魔力量と適性属性が書かれているのかな。

 私が疑問に思っていると、私の後ろにいたクラスメイトが手を挙げたらしい。


「先生ー! 光属性や闇属性よりも珍しい無属性や、もし、全ての魔法属性に適性があった場合の色はどうなるんですか?」

「そうですね。無属性では白色に光り、全ての魔法属性がある場合は確か、全ての属性の色が光るか、今話した色以外の色で光るはずです」

「分かりましたー! ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ説明不足ですみません。他に質問がある人はいませんか?」


 先生は、教室全体を見渡すようにして確認をするが、誰も質問がなかったようで、そのまま話が進んでいった。


「それでは、出席番号順に並んでください。それと、レイラさんは一番最後でお願いします」

「先生、何故なのか聞いても宜しいですか?」

「あぁ、それはですね、レイラさんが最初に測定してしまうと、他の人達がやりづらくなってしまうと思いますので……」


 あぁ、そういうことね。

 恐らく、私の魔力量が桁外れなことを知っているから、出席番号順でやってしまうと一番最初に測ることになってクラスメイトが測りづらくなってしまうからという理由だろう。


「……! 分かりました」


 どういうこと? と首を傾げているリイナちゃんにそれはね、と教えようとした所で先生が話し始めた。


「納得ができないというような人もいるみたいですが、見ればその理由が分かると思いますので、最後のお楽しみ程度で捉えておいて下さい」


 確かに、魔力量を答えた辺りから強い視線を感じていたけれど、さっきの先生の言葉で更に強くなった気がするんだよね……。

 まぁ、先生の話し方からして特別扱いされているって勘違いしても仕方がないのかな。

 それから、先生は人の魔力測定を見世物にしようとしないでくださいよ。


「じゃあさ、あたしが一番最初って事だよね? 余計に緊張してきちゃったんだけど、大丈夫かな」

「リイナちゃんなら大丈夫だよ。魔法も上手く扱えてるから」

「そ、そうかな。レイラちゃんに褒められたらなんだか自信が湧いてきた! じゃあ、行ってくるね」


 いってらっしゃーい、とリイナちゃんに向かって軽く手を振っておく。

 リイナちゃんが水晶に手を当てると焦げ茶に近い茶色で水晶が光った。


【魔力量:2000】

【属性:土属性】


 いたって、平均的な魔力量だったけれど、色の濃さが平均よりも上回っていたから、それだけリイナちゃんの魔法的センスが高いということが分かる。


「2000だった〜。もう少し高いと思ってたんだけど……」

「そんなに落ち込むことじゃないと思うよ。学生にしては高い方だから」

「そうかなぁ。でも、宮廷魔法師あたりに親孝行のためにも就職できるようにしたいから頑張って魔力量上げよ! 良かったらさ、次回の授業から一緒に魔力量上げようよ」

「うん、良いよ」


 やったー! と飛び跳ねながら喜んでくれてくれている姿を見て微笑ましく思う。

 今の魔力量がどれくらいかは分からないけれど、魔力は多くて困ることはないと思うから。


 それから、順調に進んでいき、アルタ君の番となった。

 アルタ君が、水晶に手を当てると赤色に水晶が光った。


【魔力量:1500】

【属性:火属性】


 リイナちゃんほどではないけれど、学生にしては高い方だと思う。

 確か、学生の魔力量は1000程度だったはずだから。


「流石兄貴です!」

「いや、平民に負けてるからもっと魔力を上げないと」


 そんな会話が私の耳に入ってきた。

 というか、本当に兄貴って読んでいるし。

 っと、そうこうしているうちに私の番だったらしい。


「次は――最後ですね。それでは、レイラさん水晶に手を当てて下さい」

「はい」


 私が水晶に手が触れる前に水晶が強く白い光で光った。

 突然の光に、目をやられてしまったのか目を手で覆っている先生。

 そんな先生をおいて私は一足先に結果を確認する。


【魔力量:100000】

【属性:無属性】


 魔力量が桁外れなのは生まれつきだったけれど、ここまで高くなってるとは思わなかったな。

 実は、カナトさん形式の魔力量増加法を毎日コツコツとやっていたので、その成果でもあるのかもしれない。

 そして、先生も結果を見る。


「まさか、ここまでとは思いませんでした」


 先生の驚きように、他の生徒たちも結果を見ようとする。

 結果を見たアルタ君やリイナちゃんは固まってしまっていた。

 かと思うと、アルタ君が口を開く。


「う、嘘だろ!? さっきの光といいい魔力量といい魔法が使えない底辺魔法使いのはずなのに、なんでそんなに魔法の適性が高いんだよ!」

「それはレイラちゃんだからじゃない? でも、あたしもびっくりした。こんなに魔法の適性が高いなんて……それにさっき言ってた歴代最高の魔力保持者のカナトさん? だっけ、その人よりも魔力量がはるかに高いなんて……」


 魔力量が多くて、光も強かったくせに、何で魔法が使えないんだ? とか、流石あたしの友達! だとか言っているリイナ達。

 リイナちゃんは置いといても、アルタ君が言っていることは本当にその通りだと思う。

 私も、水晶の結果を見ると全く魔法が使えないということに納得がいかなかったことが何度もあったから。

 でも、それは学べる教材がなかったから。

 それも、今日で終わりで魔法が使えるようになると思うと少し……うぅん、とっても楽しみだな。


 そんなこんなで、私の規格外の魔力量測定で今日の授業は終わったのだった。

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