誰かが泣いて終わる恋のはなし
@manatei
第1話 ココナッツの香り
眉上で綺麗に切り揃えられた前髪に、腰上まで長くまっすぐ伸びる薄桃色の髪。スッと通った鼻筋に、緩やかに垂れ下がる目尻の上には、顔全体の印象を締めるようなキリッとした眉毛。少々日本人離れの端正な顔立ちは、彼女を大人びた雰囲気にさせる。
しかし、彼女は中学生である。名前は
まだ、Tシャツが汗ばみ、生ぬるい風が頬をそよぐ、猛暑の名残りが体を包む9月。
ドタドタ、ギシギシと慌ただしい足音と木材の固い軋みが二階で鳴り響く。
「
「はぁーい!」
「そんなに慌てるならちゃんと昨日のうちに準備しておきなさいよ。」
「あれ?
「自分で出しなさい。」
「なんで?いつもだったら綺麗に揃えてせいらの分用意してくれるじゃないですか。」
「だってこの前ひなくんに怒られちゃったんだもん。兄貴は
「
「ああ、今日も京都本部に行くんだっけ?」
「そうそう。しばらく私も幹部会議に同行しろって大吉さんが言うからさぁ。」
「大吉兄さんに見張られてるんじゃねーの?兄貴。」
「そうかもね。あの人なかなか腹の中見せないから私も慎重に行動しないと。」
「
「あんたを待ってたんでしょうに…。じゃあ行ってくるねひなくん。妖退治諸々よろしく。」
「おー、いってら。」
そう、彼は陰陽師である。この世界での陰陽師の定義は、人々に災いをもたらす妖を退治することを生業とする者のことをいう。彼の弟、
では、
「あーあ、嫌だなぁ。毎週土曜日に本部に行かなきゃいけないなんて。なんでせいらまで。」
「さぁ?幹部の人たちが考えてることなんて常人離れしてるからね。悩むだけ無駄だよ。変人しかいないじゃない。」
「
「まあ、幹部会議終わったら本部長に武術を教えてもらえるのはいいんじゃないの。」
「えぇー!?やだ!
「…ちょっと
「え?このポテチですか?5袋目ですけど。」
「あんたさっき駅弁も食べてなかった?食べすぎ!もうダメ!」
「あ!ちょっと
京都の某山の奥にどっしりと構えている陰陽師連合会京都本部。
何回訪れても、この厳粛な空気漂う空間に慣れることはない。
広く長く続く廊下を、キョロキョロ忙しそうに視線を泳がせながら進む
「やっぱりここにいましたねー、大吉さん。」
大吉と呼ばれたこの男は、今にも中身がこぼれそうな灰皿に、無理矢理手に持っているタバコをぐりぐりと押し付けている。そのまま
(せいら、この人のタバコのにおい嫌なんだよなぁ。)
なんとなくそのまま目を離せずにいると、男は
「
「あ…おはようございます、
ピリッとした視線を向ける陰陽師が多い中、この男だけは巫女である
「今日も神奈川から京都まで来たの?大変だね~。」
「えっと、
と、たどたどしく会話を続ける。
「そーそー!よく覚えてるね。
「はい。新幹線です。」
「そっか~。こっちもまだまだ暑いし、来るだけで体力消耗するよな~。」
「……ココナッツのいいにおい。」
強くまとわりつく香りに、思わず
「ああこれ?俺の香水かな。
「うん、好きかも。」
「そう?ならさ~」
「こんなところにいた、
男は大きな音を立ててガサツに椅子を引き、
「なんでお前が一緒にいんの?」
と、彼女に向かってぶっきらぼうに投げかけた。
「いちゃ悪いわけ。
「うん。」
最初こそ
己の計画がバレてしまった
「そんなんだから友達、
「あ?お前だって友達いないくちだろ、絶対。」
「せいらは巫女だからしょうがないもん。巫女じゃなかったらいるもん。」
「はっ、どうだか。」
火花を散らす二人の間に挟まれていた
「ふたりとも仲良いねぇ。」
なんて言うものだから、
「絶対違う!」
と、タイミングピッタリに揃った怒号を左右から浴びるはめになった。
「…って、クソガキ
「な、なにさクソガキ
世羅はスタスタと自分の後ろを通る
「
「えっと、はい。幹部会議が終わるまで、ここで
「そっかー。じゃあこれで飲み物でも買って。」
「え!?あ、あのこれ…!」
「じゃあね~。」
(え、いいのかな…。)
この日はなんだか、あのココナッツの甘いにおいがずっと
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