リラ

古都綾音

第1話


里に美しい乙女がいた 彼女がリラを奏でると

鳥も獣も共に聴き 鳥はうたった

その乙女の名はサーラ

流れる銀の髪の 今の世では 存在しえない 過去の民と……その証拠の 紫の瞳の乙女

 彼女が歌うと 怪我人が 癒え国が栄えた

 サーラは 里に隠された乙女

 この乙女は 里人の宝

 熊が小熊を連れてやって来た

 腕に怪我をしている

 サーラが 歌った

 音と 声が 傷を 纏わり なで 皮膚を宿し 毛皮すら回復させる

「おかえり……」

 サーラがふ……と笑う

 ドン!ドン!と太鼓の音

 昼の仕事の時間だ

「いくわね……」

 サーラが木の根からたった

 ぴちち……ひばりも席を立つ

 獣たちも思い思いに散っていった

「サーラ!サーラ」

「ルーテル」

 サーラが 呼ばれて

 診療所の 門をくぐった

 ここには戦で 運ばれる負傷兵ばかり

 元里民である

 サーラが歌った

 伸びやかな しなやかな声に重症兵がつつまれる

「ルーテル このままでは ここも」

「いっぱいね」

 赤い髪と 金の瞳のルーテルが 頭を抱えた

 ここしか秘密を 守れる場所がないの!

 ルーテルの呟き

 サーラは 負傷兵から記憶を 消した

 彼らは癒され

 戦地へ帰っていく

 どんどん……どんどん

 太鼓が嫌な響き

「サーラ出ないで」

 ルーテルが サーラを隠し部屋に隠す

 あいつらだわ

「よおルーテル!お前の診療所随分回転が早いな」

 クレオ

 王国の役人……

 サーラが身を固くした

 秘密の 薬草でもあるのかね?

 クレオが ルーテルの頬を撫でる

 魔女でも飼っているのでは?

 大臣のお達しだ

 検める

「……!」

 サーラ!

 ルーテルが 扉になっている薬草棚に ふさがった

「おい!」

 兵士の 一人が ルーテルを ひったてる

 棚を検める

「きゃ!」

 ルーテルの悲鳴

「ルーテル!」

 サーラがリラに 指を立てる

 眠りの歌

 そっと奏でる

 ドタン複数人が倒れる音

 ルーテルが 棚をずらす

 サーラ!

 やーっぱりか!

 クレオがたった

 過去の民 クレオは耳栓をしていた

 そしてルーテルの 胸を剣で刺した!

「いや!ルーテル!」

 サーラが

 後ろ手に組まれリラが取り上げられる

 王国へいく……

 里は焼き払え!

「いやー!」

 サーラが 引きずられる

 ルーテル!

 歌えないようにしろ!

 猿ぐつわをかまされる

 んーっんーっ

 サーラが ルーテルを救いたくて涙を 流す

 うるさい!

 クレオがバシと 平手で打った

「いいお土産だ!」

 王のお好みだろう!

 珍品が お好きだからな!

 いけ!

 兵士たちが 里に散った

 そして里人が 子供が里ごと焼き払われた!

「んーーーーーっ」

 サーラが 泣いた

 クレオが リラを 抱え

 サーラを 値踏みする

 さーて

 金貨何枚になるかねー!

 涙が眦をやく

 サーラが暴れるので クレオが

 眠らせろ!

 薬品を かがされる

 サーラは くったりと たおれた

 味見もいいかね!

 クレオが

 サーラの 髪をなでた

 いーい女だ!

 クレオ 悪逆非道の 役人のクズであった


 第1節 星の運命


 サーラが目覚めると安宿の中

 ホコリ臭いベッドにほおり投げられていた

 めざめたかい?

 クレオがサーラに触れる そしてリラを放って寄越した

 そして汚い手で 猿ぐつわに 触れる

「王に献上する前に!そうだねー歌ってみな」

 サーラがギリと睨む

「このまま安楽の歌でもいいからな」

 手が自由だ

 サーラは ブンブンと首を振った

「この小娘」

 クレオが手を上げる

 と……そこへコンコンとノックの音

 クレオが 狂喜に満ちる

 買い手は多い方がいい!

「ああ大神官様!」

 クレオが慇懃に腰を折った

「クレオ殿」

 サーラは大神官様の顔を見た

「おお!過去の民!神子様にお引き合わせ出来る」

「神子?」

 サーラが くっと睨んだ

「いい目をしておいでだ!そうだね金貨5000で!」

 ……!……

 クレオが舞い上がった

 純潔だろうね?

「歌えなくなる」

 クレオが ぴくと手を震わせる

 味見したかったが……金貨5000

 いい商売だ

「売りましょう」

 揉み手をする

「お名前は?」

 丁重に大神官が聞いてくる

 キラキラした美しい目だ

 救いかもしれない

 サーラです

「おお……なんと美しいお声 」

 私 過去世の神子様にお仕えする信徒です

 サーラの縄目のある手をさすった

「手荒い目に?」

 サーラが 目を背ける

「まさかクレオ殿!あの里にいらっしゃった方ではあるまいね?」

 厳しく睨まれて

 クレオはだまった

 エルクにいらっしゃった?

 優しく問われてコクと頷く

 あの里の民は 滅びましたが

 ルーテルが生きております

「ルーテル!」

 サーラがはねる

 やはり!

 記憶は失っておりますが

 傷を負っていて

「今神殿に……」

「行きます!連れて行ってください!」

 サーラが涙ぐむ

「クレオ殿!罪科如何程か?テス様にご報告させていただく」

 サーラの足にサンダルを履かせると

 大神官がサーラを導いた

 リラも無事ですな!

 よかったよかった……

 代わりにクレオに縄をうつ

 新たな神子様への無礼!そして里人の命の代価

 罪人クレオ

 牢につなげ!

 廊下で待っていた神官兵に命ずると

 サーラを 上等な貴賓用の馬車に案内する

 さあ足下ご注意

 優しく 雅な足台まで添えて

 サーラが乗り込むと

 大神官は死者への弔いに歌っては?と笑った

「ありがとうこざいます」

 サーラの唇から 鎮魂歌つむがれる

 大神官が目を閉じて身を揺らす

 流石 過去の民の方

 大変に……大変にすばらしい

 耳を済ませる大神官

 馬車から漏れる声に皆が聞き惚れた

「どなただろう」

 貴族の姫様だろうか

 町の人々が馬車に頭を下げる

「祝福を――」

 大神官様!

 皆が深く礼をとった

「大神官様!」

 サーラが大神官の手をとった

 見ればリュウマチ

 サーラが癒しの歌を歌った

 すると

 腰が悪い老人がたち

 大神官の病気は癒された

「ああ奇跡を……」

 大神官が手をあわせた

「いえお助けいただいて……」

 こちらこそ

 値をおつけするようなまねをお許しくださいますかな?

 はい!

 サーラが 花のように笑った

 なんとお美しい!

 リンカ様もお美しいがサーラ様

 大神官がはらはらとなみだした

 リンカ様がご危篤で継承者もなく星が傷を訴えるばかり

 テス様は戦争に明け暮れ……

 嘆く大神官にサーラが心の安息をと里の店で聴いた明るい歌を歌った

「ああ……サーラ様」

 大神官が涙した

 お優しい方

 祈る大神官

 御者がリズムを足でとる

 楽しくなってサーラの舞台は彩りを得る

「つきました」

 里を出なかったサーラの目に白亜の神殿は美しい

 サーラ様……さ……

 御者が足台をすえる

 とん……と降りると神官兵が最敬礼をした

「ささ……リンカさまに」

 大神官が神殿をくぐった

 奥の間に進むと

 天蓋付きのベッドにうつくしき人が青い顔で横たわっていた

 リンカさま……大神官がそ……と耳打ち

 過去の民であろう美貌の人は

 やわらかく目を開けた

 ……ああ……

 よかった……

 手を震わせてサーラの頬に触れた

「……」

 ご……

 過去世の歌がながれこんでくる

「サーラ?」

「はい」

 サーラが手を額にいただく

 星の神子としてまもって……

 はた……

 リンカの手から生命が抜ける

「リンカ様」

 どれほど慕われた方だったのか神殿中から嗚咽があがった

「神子様」

 大神官が リンカの魂のこもった黄金のリラをサーラへとたくした

 それには宝玉がはまり

 天窓からの七色の光に照り輝く

「サファイヤです」

 神官の1人が

 リンカの指輪を託す

 深海の青!コーンフラワーの青

 美しい指輪は運命の継承と共にサーラに継がれる

「お優しい方で」

 大神官様が指を組ませると乱れた髪を整える

1000年守られたびだたれた

 1000年!

 リンカ様はまだお若いはずのに

 神子となり禊をおえられると時がとまるのです

 大神官が泣きながらいのった

 リンカ様の時代に王室

 貴族達に狩られ過去の民が犠牲に

 大神官がサーラに土下座をした

 どうか!どうか禊をお受けになり

 星をお守りください

 今こそ過去世の星を

 戻す時このままでは星が滅びます

「大神官様」

 神官の皆様……神官兵の皆様

 私に出来ることなら

「ははーっ」

 大神官が顔をあげ

 カームとお呼びください神子

 カーム様

 カームと!

 カーム

 大事な言葉のように口にすればカームが身を震わせた

 恐悦至極でございます

 まさしく至宝

「あのカームルーテルに」

「は……お連れして」

 神子様のご友人ご丁重に!

「はい」

 駆けていく神官にサーラがお願いしますといった

 勿体ないです神子さま!

 リンカ様に似た丸いお人柄ありがたや!

 神官の肩を借りてルーテルの姿!

 サーラが座る長椅子に座ると

 きょとんとした

 神子様ご記憶が……

 カームにいわれてサーラが傷だけでもと癒しの歌を歌う

 ルーテルは最初こそ不安そうだったが

 靄が晴れたように生き生きとしていった

「サーラ!」

「ルーテル!」

 2人は抱きあった

 記憶が戻るなんて……カーム達が平伏する

「あ……」

 ルーテルが長椅子をおりる

 サーラ様どうかお傍に

「ルーテル?サーラでいいわ!」

 明るく笑い合う2人に神殿が安堵に包まれた

 奇跡ばかりだ

 カームが 幾度と平伏しサーラの足に口付ける

 おゆるしを

 何をです

 サーラがカームのてをとった

 神子様!神子様に祝福を!

 神殿は湧いたのである

 そして夜までリンカの鎮魂歌が歌われ神殿に葬られたのだった


 第2節 禊


 サーラは白大理石の聖なる泉でカームの聖別の元禊を受けた

 泉の水はプラチナに輝き大きな翼を持つ女性と民たちのステンドグラスを染み通った煌めく光が水面を揺らしサーラの白絹を輝かせた

 白い細い肌を艶めく光が転がる

「神子様……さあ……」

 身の回りは少女たちがする

 紫の瞳にプラチナの水面が光をなげた

「神子様」

 可愛らしい少女は黄金の髪を白絹でゆい

 サーラの手をそっと額にいただく

 少女たちは厳選されたであろう貴族の子女

 神子のお手伝いをした……それだけで婚姻の儀式では

有利である

 でもサーラはそれに戸惑い……

 だって歳もそう変わらないあどけない少女に身の回りをさせるなんて……

「お名前は?お友達になって?」

 少女は平伏した

「私の名などお耳汚しであらせられます巫女」

「お友達になりたいの……」

 サーラが少女の手をとった

「聞かれたいとご命令ですか?」

「命令です」

 華やかにお笑いになる神子に少女は腰を折った

「ルキオともうします」

 ああ……どうか!どうかお耳汚しになりませぬよう

「いい名前」

 ルーテルが脇で苦笑している

「この神子は手強いわよ!ルキオ」

「ルーテル様」

 ルキオ小首をかしげる

「お友達!言い出したらきかないぞー!」

 戸惑うルキオ

 サーラがくすくすと笑った

「お友達になってもらうから」

 わがままなんである

 ルキオ花のように笑った

「素晴らしいお方」

 神官達はサーラの体を覆う薄衣に目を向けるも許されず範囲にちかづくこともゆるされない

「カーム!やり過ぎです」

 ひとばらいもたいがいに

「ごりっぶくですか」

「もちろん!」

 サーラは里の民と笑い合い……歌いあい……過ごしたのだ

 ルキオも友達にしたいし

 神官は兄にしたい

「私……わがままよ?カーム」

「楽しい方だ」

「野山の動物とすら……親友だったからね」

 ルーテルも人が悪い

 サーラが腕組みする

 カームはお父さん

この迷惑な物言いに周りは仰天!

「犬が欲しいの」

「そしてね」

 サーラ様!

 神官達には兄!カームは父

 ルキオは友!

 言い出したサーラは止まらない!

「ふ……」

 ルーテルがルキオの髪を混ぜた

 貴族の姫様?

 サーラはわがままだよー!

 カームは苦笑いしたのである

 何処に大神官を父扱いする

 女神があろうか?

「とにかく!今日はみんなでご飯!」

 歌いましょ

 ルキオ頭を抱えた

「神子様!」

 神官達が笑顔

 神殿をひっくりかえすかもしれない

 カームは早速血統のよい……躾の行き届いた犬探し

「野良でいいのに……」

 なりません

 御手など噛まれたら

「べつにいいわ」

 なりませーーーーん!

 カーム受難のはじまりである


 第3節 ああ愛しのリリーちゃん


 そして神子として 朝な夕なに祈り……ルキオの給仕のもと暮したサーラだが退屈

 町のお店に行って 民族音楽にも触れたいし 町の子供と駆け回りたい

 前はそれが出来たのに まあ里の中だけだけども

 サーラは朝から 星の歌を歌い 祈る

 そして怪我人 病人への祈祷が始まり

 星の歌

 そして昼に王都の祈祷会

 夜に敬老院の為に歌う

 サーラ キレそうである

「ルーテル……このまま死にそう」

「まあまあ……そう言わない」

 ルーテルが自分の髪をかき混ぜる

 ルーテルの髪が 日に透けて炎のようだ

 退屈

 サーラがぶちぶち……言いながら

 敬老院の仕事が終わった時

 カームが可愛らしい子犬を連れてきた

 サーラ初めて満面の笑顔

 きゃーーーーーつ

 抱っこー

 子犬を抱き上げてキスをする

「なりません」

 カームがとがめる

 キスはなりません

 だってこの子女の子よ

 ぷくー

 サーラふくれて ぴん……と弦をはねた

「ご機嫌が?」

 カーム ルーテルにきく

「そりゃあもう」

 こう 角を指でつくってみせる

「神子様おつかれで」

 ルキオがため息

「ルーテル……ルキオー」

 ぶちぶちと呻く

「この子にキス出来ないなら歌わない」

 神子ぉ

 大神官カーム絶体絶命である

「ふーんだ」

「リリー……このコーギーの名はリリーです」

 かぁわいい

「リリー」

 この点 カーム 上手である

 断尾してませんが

「かまわないわ尾っぽは残して!かわいそうよ」

 では?歌は?

 ルーテル ニヤリ

 歌ってくださいますな?

「はーい」

 サーラすりすり

「カーム大好き」

 単純だった

 はぁ

 ため息をつくカーム

 若々しい神子さま

「有り余ってからねパワー」

「ルーテル様からも」

 ルーテルでいいです大神官

 ルーテル笑顔

「ルーテル協力を」

 ……うーんことと次第だね?

「と言うと?」

 明日晴れそうだからピクニックをさせてやって!ルキオもつれて!私も行くから

 あー

 カームパチリとおでこを叩く

 そうきますか?

「そうきます」

 わかりました

 サーラはリリーに夢中

 お手

 ぺちゃ

 リリーがかわいくてしかたない

「神子様……明日ピクニックにでもいかれますか?」

 聞くカーム

 いいの?

 サーラはカームに抱きつく

「わーい」

 神殿中に響いたサーラの明るい声に神官達は苦笑い

 ただし……!

 ぴくとサーラ

 カームめもまいります

 リリーなどもつれて

 カームため息

  良いわ!ありがとうルーテル

 カーム目をまん丸

 ばれていた


 第4節 リリー説得する


 サーラはうれしくて朝から あれと これとーと 準備を始める

「神子様 私がいたします

 かっとんでくるルキオが後をくっついてまわる

 いいからいいから

 ルキオ朝からいそがしかったんだから

 長椅子にルキオを座らせると 腕まくり

 よーし お弁当はー

「大神官様がご用意くださると」

 きゅんきゅん

 リリーがくっついてまわる 何とも可愛らしい

 サーラがとまると

 ポテンとお座りをする

「リリー」

 サーラは撫でくりまわした

 いい匂いだ

 昨日お風呂に入ったのだ

 リリーだっこしていい?

 サーラが聞くと

 うみ?

 と小首を傾げる

 だっこ

 膝をしめすと

 リリーは臆する事なくのぼってくる

 そしてサーラを頬をなめた

 リリーってば……

 サーラは高い高いすると

「一緒いこうね――」

 とほほえんだ

 神子様溺愛し過ぎです

 躾もされませんと

 はーーい

 神官が苦笑

「神子様」

 輝くばかりの美しさであった

 銀の髪に紫の瞳

 そして額のサークレット

 指輪にネックレス

 華美に飾り過ぎよカームにはいったが

「星の神子なのですから もっと華美でもよろしいくらいです」

 つっぱねられて

「ルーテルー ルキオー」

 お泣きついたのだった

 まあ

 いけるだけいいでしょ?

 ルーテルにいわれて

 白絹のワンピースにきがえる

 汚しそう

はあ

 リリーがきゃわんとサーラに抱きつく

「お散歩もね中庭だけじゃね……リリー?」

 リリーは くんくんと

 耳をなめる

 くすぐったいってば

「本当にリリーは説得するの上手ね」

 キャハハ

 リリーに なめまわされて サーラもしょうがないと服装の件は諦めた

 しかし

 神官兵10人ついてくるってどうなのよ

 サーラプンプン

「私たちだけじゃダメなの?」

 あの辺は熊や 山賊もおりますので

「山賊?」

 聞いてなかったけど

 でるのならしかたない

「過去の民は希少ゆえ狙われやすいのです

 故に…………神子さま?」

「へ?」

 リリーの肉球をぷにぷにしていたサーラ

「おわかりですか!お立場というものを」

 しかられたけど

 ピクニックの為にここは怒らない

 はーい

「神子様」

「はい カーム大神官」

「ふざけていらっしゃる!」

 わかりましたカーム

 サーラが息をおとした


 第5節 飛び立てピクニック?


 サーラは髪の毛をくくりたかった

 ただでさえ飾りまみれで

 ネックレスやら耳飾りが重い

 オマケに髪まで鎖のついた 黒水晶と 水晶の 金の鎖をかけられてしまい

 もーう!

 なのである

「神子様なのですから!」

 ルキオがなだめる

「そりゃあ……盛りすぎよね」

走れないし転がり回れない

 サーラむーんと腕を組んだ

「カームこれでいかなきゃだめ?」

「神子様なのですから」

 きーっ

 爪にまでチェリーブロッサムからとった汁をぬられる

 これじゃあそべない!

 拷問とおなじよ?

 おててパタパタ 反論する

「神子様 少年のようなお姿で行かれたいと」

 ルキオが言う

「それだけはなりません大神官のお願いです……女神さまなのですから」

 あう……

はぁ……

ため息サーラにリリーが甘える

「しょうがないわね?リリー」

 きゃん!

リリーが鳴いた

 はあ……

いい日なのにおもたーい衣装が サーラの行く手を阻む

 私って飾り物なのかしら?

 おもったりもする

 神子さま

 そのまま……口に出てらっしゃいますよ?

「へ?」

 カームがほほえんだ

 神殿の改革になると神官達は喜んでおります

 神子様は決してお飾りではありません

 カームはそう言って恭しくサーラの手をとった

「私とて 走ったりはしゃいだりして頂きたいのです……」

「だったら」

 星を 過去世の 健康な星にもどせるのは あなたさまだけお許しください

 カームの言っている過去世とはなんだろう?

 サーラは首をひねる

「さあ……参りましょうお時間も」

 お花畑行きたいな

 サーラは思った

「お花畑いっていい?」

 もちろんです お花の綺麗なところでご飯にしましょう

 一同は大きめな馬車に乗るとルキオが

「神子様と外出なんて嬉しいです」

 ウキウキしている

 サーラはもっていた いちごの砂糖菓子を皆とわける

 そんなものいつの間に?

 と……カーム

 じつは……神官兵にかってきてもらったのである

 ……ふーむ!

 叱らんとなりませんかな?

「いいでしょカーム!おこらないであげて お兄ちゃんやさしいの」

 神官兵とおよびください!

 はい

 おこらない?

 はぁ……

 カームがため息

「おこりませぬよ!」

 ルーテルが親指をグッと突き出す

「おいしいでしょ?」

「美味しいですね神子様」

 ルキオが ほんわか笑った

 有名なんですって

 サーラもシャリと口に含んで ニッコリする

「神子様! 王都でももうすこし人当たりよく……」

 カームのお小言

「王都は嫌い」

「はぁ」

 馬車が町を出る時

 少年がかけでてきて

 馬車のサーラに 花冠をくれた

「神子様に」

サーラは思わず涙した

 ありがとう……お名前は

 ケイともうします

行く行くは神官兵になりたくて

 嬉しいわ!是非いらっしゃい……

 はい!

 少年は1つ頭を下げて

 再び走り出す馬車を見送る

 そして続く神官兵の馬車に敬礼した

「弟がふえそうですな」

 カームに微笑まれて

「うふふ」サーラは笑った

 花冠は バラを基調にし 可愛らしい野花で編まれている

 バラは丁寧にトゲが抜いてある

素敵

 チョンと頭にのせる

 お似合いですわ

 ルキオが手をたたく

 ルーテルは

「よかったじゃない」

 と手をのばす

 泣くなよサーラ

 気ずけば泣いていた

「嬉しくて」

 リリーがサーラの頬をなめる

「リリー 白粉とれるからだめ」

 サーラに避けられるも

 リリーはべったり

「きっと守っているつもりなのでしょうね」

 カームが わしっとリリーの頭を撫でた

 サーラは 里のみんなが好きだった

 明るい歌を歌いはじめた

お綺麗です

 ルキオがうっとりする

すばらしいですな!

 リラが サーラの指で弾かれると

 光の粒が舞うようであった


 第6節 傷


 サーラ達は可愛らしい花がいっぱいに咲く 花畑についた

 きゃー!

 サーラが馬車を飛び降りる

 神子様!

ルキオ 真っ青

お怪我でもされたら!

ルーテルがわらった

「大丈夫 うちらの神子様は体育会系だから」

「はぁ」

 カームはおでこを ぴしゃり

 王都でもあれだけお元気があれば

「それは無理でしょ」

 里を焼いたり里人を戦に駆り出したのは王都の王だから

「それは」

 カームが顔を曇らせる

「そう……ですな」

 リリーおいでー

 サーラの声に一足飛びのリリー

 花の中を 駆け抜けて飛び出していく

 がばっ

 サーラに 飛びついて

 サーラはきゃあきゃあ騒いでいる

 ああ見ると まるでお子ですな

 カームが わらう

ルーテル!

 ルキオ!

 カーム!

 神官兵のみなさーん

 サーラが手をぶんぶん

 手を振り返すのは神官兵

 おほん!

 カームと咳払いに ぴ と姿勢をただした

「ここでお昼にしよーよ」

サーラがあまりに楽しげすぎて 皆はほっこりしてしまう

「良さそうですな」

 カームが言うと

 ルキオが バスケットと敷物を抱える

「持ちますよ!ルキオ様」

 神官兵が 親切に抱えた

「ありがとうございます」

 ルキオぺこり

 いやあ これくらいは

おほん!

 ぴ

 一同かたまる

「浮かれすぎずに」

 念を押されて

全員でランチといきたいが

 神官兵は 離れて堅パンを食べていた

「神官兵さん」

 サーラはサンドイッチを食べながら

 心配そう

「こっちに来ればいいのに」

「なりません!」

サーラは サンドイッチを 抱えて駆け出した

「神子様」

「はい!」

 神官兵に差し出す

「そ……そんな滅相もありません神子様」

「お手づからいただくなんて」

 いいからいいから……ね

 ニッコリ サーラが笑むと 皆蕩けそう

 カームの睨みに ピッ と正す

「カーム!」

 サーラに睨まれてカームが黙る

「座って食べてね荷馬車みたいなので疲れたでしょ?」

この子達も馬車馬に 餌を用意したバケツに 手を差し入れる

「はい!おたべ」

 神子様ぁ

 お優しすぎます

 みんなが涙を流した

 えへへ

 手を後ろ手に組むと鼻歌を歌って戻っていく

「神子様」

 お仕えできて光栄です

 皆こう思うのであった

 と

 バチ

 空に傷が出来た

 真っ黒な傷!

「何!」

 ルーテルが ルキオを 抱きしめた

「星の傷です!」

 これが?

「サーラ様!星の歌を」

「傷が広がる!」

 サーラはリラを持ち上げると

 そっと労わるようにうたった

 傷ついた星はきっと痛いだろうから


 第7節 星の民


 サーラの歌声は 傷口の空間を撫でるように すべる

 優しく優しく

 澄んだ声で

 黄金の竪琴は 柔らかく柔らかく

 歌声にそう

 そして傷口を縫いきって

 縫った傷すら消して行く

 ほろ……

 最後のアルペジオが終わった時

 皆の心を何かが満たした

「神子様お見事」

 でもね……カーム

「なんだか悲しい……」

 サーラが俯く

「それは星が泣いているからです……人は悪事に手を染め 星を侵し 傷つけてきました」

 カームが リリーを撫でた

「やってはならない事を沢山」

「戦 自然を冒涜した魔法実験」

 そして……

「そして?」

「あってはならない!星の民狩り……そして!過去の民の独占」

「星の民?」

 星渡りの方舟を 有するという選ばれた方々です

 そして過去の民は……

「もう……もう……お分かりですな?」

「うん……」

「己の利の為に歌わせようとし……歌わないと殺される……しかし……誇り高い あの方々は従わなかった」

「そう……そうね」

「ルーテル……」

「うん……もう過去の民はサーラ残すのみかもしれない」

「星の命はもう尽きています」

「そんな……」

「星癒しの過去世を歌える方が 神子様で尽きる……そうなれば星は終わります」

 サーラも 座った

「王族は己の身しか考えず 大神殿に財力を注いで来ました……しかし我々は……星渡りの方舟に民草を乗せて逃がしたい……おわかりですね」

 カームの覚悟は本物だった

「自分は例え滅んでも……」

「カーム」

 星の民にお会いください

 あの方々は 地下におられます

「神子様……」

 ルキオが手を取る

「お手伝いさせて下さいませね」

 お城の騎士様の中に 味方が いらっしゃいます

 ラウル様といいます

「きっとお守りくださると……」

「ラウル様……」

 サーラはふと不安になった

「大丈夫です クレオのような輩ではありません」

 カームが 太ももをぱちり……と 叩く

「私も老い先短い身……神官も神官兵も民草も守りたい」

 ご同行は 出来ません

「でもカーム大神官 サーラがいなくなったら」

「はい……そうですな……滅ぶ覚悟です」

「いや!」

「サーラ」

 ルーテルが サーラの肩を抱いた

「どうか星の民を お連れください お城には2ヶ月待ちに入ってもらいましょう?」

「待ち?」

 そうです

 お加減が悪いと……

 だめですかな?

「いい!いいけど!無理しないでね!」

「神子様」

 リリーが サーラの手を舐めている

 それがあたたかい

「分かっております」

「そうしないと追っかけまわすから!」

「こわやこわやです……」

 カームがわらった

 さあ……町へ戻りましょう!

 傷が ここまで来ているなら 町も危うい

「はい……」

 サーラが 立ち上がる

「ルーテル!ルキオ!リリー」

「ん……」

「はい……」

「きゃん!」

 一緒に星の民に会ってくれるわよね

「もちろん!」

 みんなは頷いた

 さあ……

 一行はそっと……立ち去る

 あとは 優しく花が揺れるだけ

 サーラは 過去世の歌を 歌いつつ泣いた

 なんて可哀想な星

 少しでも巻き戻して……ね

 そう……そう……願った


 第8節 ラウル様


 サーラ達は 町へ戻る しかしそこには 魔力に満ちた獣が放たれていた

 やはり……星の傷からの 星の血です

 あの獣は

 カームが 唇を 噛んだ

 神子様!我々でひきつけます

 神殿の地下より

 星の民の元へ

 ラウル様も待機……

 ラウル様

魔物に 果敢に挑む

 大剣の主!

 金の髪 金の瞳の 騎士

 なりません!

ここは!

「構わんカーム殿!神子様と地下へ!」

 制止するカームに 騎士はいい!

 道を開いた!

 さあ!

「いえラウル様あなた様こそ星の民のご嫡男」

「ごちゃごちゃいわれるな!カーム殿」

 魔物は 巨大な鉤爪を ふりおろした!

 ぎぃ……

 大剣は ラウルの顔をうつしこむほどに研がれているが……爪の威力に軋んだ

「……」

 サーラがある歌を歌った

 過去世の創世の歌!

 リンカの 遺した歌

 緩やかに

 あたたかに響いた声に 魔物が ぴたり 動きをとめた

 ポロ……

 弦の音が弾かれる度

 ほどける魔物達

 そして

 サーラは 思いを込めて癒しと 創世を 束ねてうたった

「これは!この歌はまさか!星癒しの……」

 ラウルが サーラを 見つめた

「さあ……」

 そぅと……サーラが

 音の羽衣にのせると

 魔物はとけ 傷ついた人々は 癒されていった

 正しく!

 素晴らしい

 この歌を歌いこなすなど!

 過去の民ですらむずかしいはず!

 ラウルは サーラの 右手を とると

 己の 額へと サーラの 指を抱いた

「神子様どうかラウルと……」

「ラウル様」

「様など無用!ラウルと……」

 星癒しを 歌える方

 もうお会いなど叶わぬかと

「ただ束ねただけです」

「素晴らしい」

 ラウルが 片膝をついた

「ラウル様こそ……星の民の」

「身に余る血でございます」

 ラウルが 静かに 唇を震わせる

 騎士として生きて来ましたが ここからは このラウル星の民として 貴女様を

 そして 目をふせた

「私には歌うことしか」

 サーラが言う

「貴女様がいて初めて星渡りの方舟は動くのですよ」

 ラウルは 優しい目をした 青年である

 サーラは ドクンと 心臓が 脈うつのをかんじた

 その出会いはなんなのか?

 サーラは しらない

 ルーテルだけは サーラの 気配に 感じていた

 年相応の 娘らしい変化を

「ラウル様」

 ルーテルが ラウルを よんだ

「はい」

「サーラを どうか」

 はい

 私にできますなら

 サーラを 守ってください

「かしこまりました!ご婦人」

「ルーテルです」

 ルーテル様

「ルーテルと……」敬称は 慣れません

「はいルーテル殿」

 敬語もいりません

 気安くどうか

 しかし……

「ラウル様」

 了解したルーテル!

 まいりましょう

 ルーテルと サーラへの温度差に サーラの 胸は きりといたむ

 なぁに?これ?

 サーラの足元でリリーが ラウルと サーラの 影をつないだ

「くんくん……」

 リリー……サーラが リリーを抱いた

「きゃわん」

 ペロ……

 サーラの不安を知っているかのように舐める

「きゃん」

 ラウルが 手を伸ばす

「これはかわいい……おチビさん」

「リリーです」

 声に震えがまじる

「リリー百合とは?女の子ですね」

「はい」

 サーラは 目線を上げられない

 ラウルは臆することをせず真っ直ぐ目を向けて来る

「ご不安で?」

「いえ……」

 キツく否定してしまって失礼だった

 だけど

 見られない

 ドキドキする

 なんだろう

「まいりましょう神子様」

「いやです!」

「サーラ?」ルーテルが触れる

 パチッ!

 手を邪険に払う

「サーラと……」

 自分でもわからない

 なぜこだわってるのか?

「サーラと呼ばれるまでいきません!」

 神子様

 カームがラウルと顔をあわせる

「わかった……サーラ行こう」

 悟った声に胸がふるえた

「はい」

目を上げるとほほえまれてサーラが

 頬をそめる

 「まいります」

ルーテルが少し寂しそうに目をさげた

「ラウル様」

サーラが 噛むように名を呼ぶ

「ラウルと」

やり返される

「ラウル」

呼んで耳が熱い

「行こう」

ラウルが剣をおさめ

肩に背負った

銀の鎧の肩は逞しく

頭2つほど高い

「はい」

カーム殿!

城は籠城の様子

王はもう堕ちる

「神殿とで無事では済むまい

一緒にまいろう」

 ラウルがカームをよぶ

「いや民を捨てて行く訳には」

「カーム」

サーラが袖をひく

「神子様ご無事で」

墓碑の間の奥にカームと墓を見てサーラがもどりかける

「いくなサーラ」

カームは死を覚悟していた


「だめ!」

神官兵が石扉をしめる

カーム!

喉が切れんばかりによぶ

石扉は重く絶縁していた

「サーラ」

ルーテルが 懐から 手紙を出した

神子様

これを読まれるなら王都陥落と

戦は醜い

私も神殿と共にまいります

神子様泣きませぬ様

リリーの首輪に

星の叙事詩を忍ばせました

これを歌われたなら方舟の鍵となります

町は残すよう嘆願して逝きます

神子様

もどられたなら

民草をお救いください

あなたのカーム


「だめって!だめっていったのに!」

サーラが震えた

ダメつて!

サーラ!

ばし

サーラがルーテルの頬を打った

知ってたのね

だめっていったのに!

カーム!

がたがたと震える

ルキオは

サーラを宥めようと する

「見殺しにするの?」

ルーテルはいいのね!

いや

言えない

戦況を聞いて死ぬと聞いて

そうしてまでサーラを逃がせと言われたなんて

ラウル!

サーラが ラウルのマントをひいた

もどって!

開けて!

ねぇ!

サーラが泣き叫ぶ

その口にルキオが手ぬぐいをあてた

睡眠薬

遠く

意識が落ちる

ラウルが

サーラを抱き上げた

すまない

剣戟の 音

叫び!

神殿は落ち

リンカで神子も堕ちたと聞き敵は 神殿を焼いた

神官は見せしめとして処刑されカームは逝った


第9節 涙の先に見えたもの


 サーラは ラウルの腕に運ばれながらうなされていた

 追われる……追われる……

 背から 剣で切られて

 カーム!

 いや!

 カーーーー厶!

 サーラの背が硬直した

「サーラ……」

 あたたかい声……

 包むマントの匂い

 力強い腕……

 サーラの目が開いた

「カームが……」

 紫の瞳から涙があふれる

「か……カームが!」

身悶えして

 足掻いた

 ラウルは……静かにおろす

「黙っていてすまない……」

 虚脱に満ちたサーラの瞳を 救うように見るラウル

「私が悪い……貴女には言えなかったカームは……死ぬつもりだった……覚悟をしていた……リンカ様が没せられた時に王都陥落の時には……サーラを逃がせと……」

「そんなの知らない……聞かない!聞きたくない」

 サーラはかぶりをふった

「ルーテル!ルキオ!裏切り者」

 ルキオが 張り裂けんばかりに目を見開いた

「お許しください」

 リリーのみが……サーラに ピッタリと寄り添っている

「最後に貴女と会えた……それが救いだったと……まるで娘に会ったようだと……そして心の底から愛しておりますと……」

 ばし!

 サーラの手が自分の頬を打った

「バカ!バカ!私が死ねば良かった!代わりに死ねば!」

 己を打ち続けるサーラの手をラウルが抱きしめた

「どうか……どうか……罵るならばラウルを……打つならばラウルを……」

「死ね……死ね……神子になって……救った気になってわがまま言って……愛してもらった!逃がすなんて!一緒に死にたい……」

「なりません……」

 クーン……

 リリーが鼻を鳴らした

 そしてサーラの打ちすぎて真っ赤になった頬を舐めた

「サーラ……」

 いっそ……死ねてれば!

 自分の首をしめてしまいたくてサーラが ラウルの腕を振りほどく

「神子様」

 カーム……

 カーム!

 今ね

 空耳すら聞こえたのか

 カームの声がした気がする

「神子様!」

 リリーの首輪に小さな宝玉

 思念球です

 ラウルが リリーを撫でながら……そっと外した

 そしてサーラの震える手に預ける

「カームが……」

「神子様……お慕いしております……民草を……どうかお守りを……カームの祈り……神子様叶えてください」

 パウ……と 光が放たれカームが映る

「神子様!娘にしてと……父と呼ばせてと……仰った貴女がどれだけ愛おしいか……どうか方舟を……」

 リリーが しっぽをふった

「サーラ様できるだけ神官と 神官兵は逃がします……町も残すように嘆願いたします!勝手で……」

 途中で……チカチカと 揺れる

「消えないで……」

 サーラが 手でぎゅ……とにぎった

 星の命運がかかっています!

 方舟を……サーラ……愛しい子!最後に……1度だけ呼ばせて下さい……

 サーラに……会えて幸せでしたよ……

 すくわれました

 か……か……カーム……

 サーラが 肩を震わせる……

 嘆かないでください……良いですね?

 でないと追っかけまわしますよ!

「は……はい」

 サーラが……コクとうなづいた

「カーム……大好き……」

 サーラは 鎮魂の歌を口ずさむ

 震える声で低く……

「リラを……」

 ラウルが渡すと

 サーラが受ける

 ほろ……

 指が弦を撫でた……

 全ての亡い魂に……涙や慟哭ではなく……眠りの歌

「サーラ」

 ルーテルが……少しだけ遠慮がちに声をかける……

「ん……」

 サーラが頷いた……

「ごめんね……」

 ルーテルが縋る

「わかったよ……ルーテル……ルキオ……」

 私ね……わかったよ……

 愛してるからこそ……

 黙っていたんだよね……

 ね……

 笑顔が湧いた

「サーラ」

 ラウルが見とれるように……その笑顔を胸に刻む

「サーラ様」

 ルキオ……

 サーラが……ルキオの 頭をぽんと撫でた

 きゃん……

 リリーが……ぶんぶか しっぽをふって

 3人の周りを 回る

 ラウルの瞳を真っ直ぐに見たサーラは

「星の民とお会いします……」

 呟いた

「ありがとう……サーラ」

 ラウルが金の瞳で受け取る

「きっと長老がお待ちだ……」

 ラウルの 剣の 柄の紋章が光を放った

 サーラ星の叙事詩を……


 第10節 星の叙事詩


 第一節 星降る誕生

天(あめ)ひらけ 銀砂のごとく

光は海に こぼれ落つ

ひとつの星 涙をまとい

地に降りて 神子となる


第二節 旅立ちの道

黎明(れいめい)の風 頬を撫で

千の星名(ほしな)を胸に抱き

白き竪琴 ひきならし

運命(さだめ)の歌を 道に撒く


第三節 試練と影

闇は寄り 声を奪い

波は荒れ 舟を沈めんとす

されど神子 弦をはじき

ひとつひとつ 闇を裂く


第四節 帰還と祈り

星の門(もん) ふたたび開き

仲間の名を 夜に刻む

竪琴の音 やがて消え

ただ祈りだけ 残りけり


 サーラの 指先が 弦を 爪弾くと…… 唇が 優しく 高く そして低く 詩を刻んだ

 キン……キン……

 クリスタルを 打ち鳴らすように澄んだ音色 美しい古代の紋様の 彫られた壁が カチリ カチリと 横滑りする

 そして 剣の 紋章の 真ん中に 嵌められた 玉が キラリと 輝いた

 き……ん

 壁がずれいくと…… 美しい水路が現れる

「星の砂でこした水が流れています……」

 ラウルが そうっと ひとすくい 口に運んだ

 ここだけにしか流れない

 水源の 限られた 水です

 サーラが それに習った

 水が手に慕わしい

 手を切るのでも無く

 冷たすぎるのでも無い

「ふぅ……」

 サーラが 水を含んでため息をついた

 疲れた体が 癒えていく

「優しい水なのね」

「きゃん……」

 リリーが ぺろぺろと 水を舐めると サーラの 頬を舐めた

「リリー……」

 サーラが ぽわぽわと 撫でる

「きゃん……」

 尾っぽを ぶんぶかふり……

 クルクル回る

「ラウル……戻ったかね?」

 歳なら90歳だろうか

  おじいちゃんが 近寄って来た

「長老様!」

 金の瞳……だが 片方が月のような銀である

「ようこそ 神子様……」

 長老様が にっこり笑う……

 なんだろう?カームに似ている

「カームに会いたいですかな?」

「え?」

 会いたいですかな?神子様?

「は……い……それはもう……」

 ならばこちらへ……さぁさ……

 天幕の中へと導かれる

「神子様!」

 そこに笑顔でいたのは…………!

「嗚呼……カーム……」

 サーラが ぺったりと 座り込んだ

 そして涙が次から次へと流れる

「時渡りです……」

 長老が サーラの 髪を撫でた

 カームは1度没しましたが あまりにも 神子様の祈りが強かったので……

 時が孵ったのですよ!

 孵った?

「左様…… 時の 卵が孵りました……」

「神子様!」

 カームが 両手を広げる

  だっ……

 サーラが 飛び込んだ

「カームったら!カームったら!」

 ぽすぽすと 胸を叩く

「どこも痛くはありませぬよ!」

 カームの声は朗らかだ

 きゅーん……

 リリーが お座りして カームを 見つめている

「リリーや!」

 カームが呼ぶと リリーも だ……と 飛びついた

 そしてカームの顔を舐めて ベチャベチャにする

「おやおや……」

 カームが笑った

「みーんなで泣いたのよー!」

 サーラが プクっと むくれる

 おやおや!これはこれは!

 こわいですな……

 叱られますかな?

 叱ります!

 ルーテルが カームの 頬を つねった

 ルキオは わんわんと泣き

  ラウルは そっと 目を拭う

「カームったら!」

 お仕置!

 サーラと呼びなさい!

「サーラ」

 迷うことなく カームは 呼んだ

 慕わしい その名を

「さあて……方舟を呼びますかな?」

 長老が 凄く小さなキューブを とりだす

 神子様 星の詩ご存知ですか?

「いいえ……」

 サーラが首をふる

 ではでは!

 あそこなヒバリと ご一緒に…… ぽろ……

 弦が 己から鳴る

 静かに静かに

  そして

 歌は キューブを 囲い

 きらと 煌めいた

 キン

 キューブが開いた

 それは小さな……小さな 方舟

 でも掌に乗る程で だがしかし 透き通りはじめた……

 そして空に 浮かぶ

 星空を サラサラと 滑る

「さあ……行きましょう……」

 長老が 声を 発すると 全員は 星の海へと 滑り出していた……

「民が……」

 はい……

 転移させましたよ!

 長老が 小さな水晶を サーラに 渡す

 おもちになって……

 ラウル……

 星渡りだ……

 地球へむかう……

「はい……」

 テラへ……

 方舟がオールを出した

 星が流れ

  宇宙を 渡る

 銀の砂の星が キラキラ歌う

「綺麗……」

 はい……

 サーラ……

 カームが サーラの 手を抱いた

 サーラ!

 神子様は この代でしまいです!

 地球に降りましたら……お好きなだけ駆け回ってください……

 そしてリリーと 転げて……

 遊んで遊んで

 たまにはカームとも遊んでくださいね?

 はい……

 キラキラとした瞳でカームを 見つめると サーラは そっと カームの頬にキスをした

「お父さん……」

「おやおや……」

 カームが こそばゆそうに 首を竦める

 神官兵が サーラに 手を振る

「お兄ちゃん!って呼んでいいの!カーム」

「お好きなだけ……」

「うふふ……」

 サーラが にっこにこしながら……

 里の祭りの歌を歌った

 タンタカタン……

 タムの音……

 見れば里の民!

「皆!」

 サーラが 抱きついて行く……

 タンタカタン……

 星渡りは 星祭

 サーラの 時代から 地球で星祭が芽吹いたのであった

 タンタカタン……


 エンド


 

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リラ 古都綾音 @earth-sunlight

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