第13話

 ギィィンという低い音と空気が圧縮されているような不思議な感覚を体に感じ私は目を開けた。

 視界は真っ暗だが体は暖かいものに包まれている感覚がする。

 少し身動きをするとすぐ傍でカイネス殿下の声が聞こえた。


「ルクレア、大丈夫か」


 ギュッと抱きしめられながら聞かれて私は頷いた。


「はい。生きています」


 暗闇で何も見えないがカイネス殿下の温もりを感じたくてギュッと抱き着いた。

 カイネス殿下も開いている片手で力強く抱きしめ返してくれる。


 土砂の向こう側からぐぐもった騎士達の声が聞こえる。


「カイネス殿下!ご無事ですか」


「防御魔法をかけている。俺とルクレアは無事だ。土砂はすぐに除去できそうか」


 魔力を発動しながらカイネス殿下が言うと、すぐに答えが返って来た。


「はい。土砂は途中で止まりました」


「止まった?」


 カイネス殿下が聞き返すと、騎士は歯切れが悪く答える。


「はい。今掘り起こすので、出てきたら現状を見てください」


 大勢の騎士達が私たちの周りの土砂を避けて、すぐに表に出ることが出来た。

 カイネス殿下に抱えられながら埋まっていた場所から出る。

 山はかなりの大きさがえぐれている。

 この量の土砂が城壁を超えて町へ流れたらかなりの犠牲者が出ただろうが、なぜか途中で土砂が止まっている。

 カイネス殿下は私を抱えながら現状を確認して部下の魔法騎士を振り返った。


「この中に室長が埋まっているのか?それともあいつはもう逃げたのか?」


 魔力を発動していたせいかカイネス殿下は少し疲れたよう言う。

 疲労しているカイネス殿下を見ながら騎士は首を振った。


「埋まったままです。今から掘り起こしますが、なぜかここで土砂が止まっているので、カイネス殿下と同じように防御の魔法をしているかもしれませんね」


「応答は?」


「ありません」


 カイネス殿下が現状を聞いている間に、騎士達が集まって室長を掘り起こそうとしている。

 騎士達が土を掘り起こしてき、室長までたどり着ついたようだ。

 ぐったりとした腕は生気を感じず、ピクリとも動かない。

 私たちのように防御の魔法をかけていたわけでないようだ。

 土まみれの室長が引きずり出される。

 ぐったりとして身動きをしない室長は素人の私が見ても息をしているように見えなかった。


 室長の腕には大切そうにサファイアの宝石が抱えられていた。

 まさかあの中に二人分の命が入っているのだろうか。

 そう考えると恐ろしくなりカイネス殿下の首に抱きついた。


 騎士が近づき確認をしてカイネス殿下を振り返った。


「死んでいます」


「そうか」


 カイネス殿下が答えると一人の騎士が大きな宝石を持ってくる。


「これを抱えていました。……どう思いますか?」


 苦い顔をしながら魔法騎士がサファイアをカイネス殿下に手渡した。

 研究室から持ち出したサファイアだが、2倍以上の大きさになっており石のようにゴツゴツしている。

 青い色をしているのでかろうじてサファイアだと認識できるぐらいだ。

 カイネス殿下は手に持っている大きなサファイアの塊をまじまじと見て首を振った。


「二人分の命を吸っている。厳重に保管をしろ」


「二人?」


 不思議そうにしている魔法騎士にカイネス殿下は疲れたように頷いて私を抱えながらも騎士の肩を叩く。


「専門家に回してよく調べてから封印方法を考えよう」


「はぁ」


「しばらくは俺が預かる」


 そう言うとポケットに大きなサファイアの塊をポケットに入れると私を抱えて歩き出す。

 

 「早く肩の怪我を見てもらおう」


 静かに言うカイネス殿下に怪我をしていたことを思い出す。

 右肩を見てみるとすでに血は止まっているようだ。

 いろいろなことがありすぎて怪我をしていたこともすっかり忘れていた。


 外は暗闇で吐く息が白い。

 後ろからついてきた騎士がどこからか持って来た外套を渡してくれた。

 それをカイネス殿下は私の体にかけ、また歩き出す。

 当たり前のように私を抱えているカイネス殿下の顔を見上げた。

 髪の毛は短いが、どの角度から見てもうっすらと記憶が蘇って来たカイト様と同じ顔だ。


 池に突き落とされて殺されたことと、カイト様が大好きだったことしか思い出せない。

 それでも同じ彼を好きになった。


「少しだけ思い出したんですよ。私がシエラでカイネス殿下がカイト様だったって。アイリスに体を乗っ取られながら少しだけですけどね」


 静かに言うとカイネス殿下は驚いたように私を見下ろす。

 言葉が出ないほど驚いているカイネス殿下に私は微笑んだ。


「髪の毛、長い方も好きでしたよ」


 カイネス殿下は感極まったかのように顔を歪ませるとギュッと私を抱きしめる。

 彼の暖かさを感じながら、かすかに震えている体を抱きしめ返した。


「もしかして泣いているんですか?」


 揶揄うように言うと、カイネス殿下は首を振った。


「泣きたいほど感動をしているが、泣いていない」


 そう言いつつも声は震えている。

 やっぱり泣いているんじゃないかと思っていると白い雪がカイネス殿下の肩に乗った。

 ヒラヒラと降ってくる雪を見上げて私は白い息を吐いた。


「雪が降ってきましたよ」


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