第2話 邂逅

「端的に言えば、強い魔女の力を借りたいってわけ?」


とっぷりと日の暮れた賑やかな酒場で二人の魔女は夕食を共にしていた。

メアは魚のムニエルを静かに口に運び、ジェーンは骨付き肉を口いっぱいに頬張る。


「ほう。あたひだけひゃ、ゴクン、っは、全然ダメそうでさ……」


「口の中は空にしてからしゃべって。汚い」


「悪い悪い」


荷馬車から降りた後、ジェーンは尚も殺そうと襲ってくるメアをなんとか宥めすかし口説き落として食事にまでこぎ着けていた。


話によれば、ジェーンは魔女の魂である“コア”の大部分を失った魔女だった。物心ついた時には森に一人で名前すら記憶になく、あったのは小さな2つのコアの欠片だけ。あてもなく残りのコアを探し求め、宝石商や博物館を手当り次第に襲撃した結果、いまや立派な指名手配犯になったとのことだ。


「バカじゃないの?」


「キラキラしたもんがいっぱいある所に紛れてると思ったんだよ。結局見つからなかったけど」


「やっぱりバカじゃない」


「次!次行くとこには絶対ある。これまでと違ってコアが共鳴してる感じがするんだ」


小瓶に収まった小さな欠片を胸に抱く。確かにまるで鼓動のように輝いて見えた。

メアはそれを見てふぅんと一言もらすと興味なさそうな顔で机に頬杖をついた。


「そこに同行してくれってこと?」


「そういうこと」


「却下」


「なんで」


「あたしにメリットないじゃない」


「礼は必ずするよ。約束する」


「信用できない。……それにできるだけ先を急ぎたい」


「じゃあ今後旅に同行するっていうのはどうだ?1人より2人、背中を預ける相手も必要だろ?」


「だからいらないってば」


「……じゃあ今日もしもあたしが追っ手だったらどうしてた?」


真剣な顔をしたジェーンにメアはぐっと口ごもる。


「それは……」


そのとおり、あのとき帝国の追っ手が相手ならろくな抵抗もできずに連れ戻されただろう。ましてや国を捨てた裏切り者の処遇など推して知るべしだ。

そして確かにジェーンは魔力量もそれなりにあり、突然の魔法戦にも冷静だった。特に初見で即死魔法を見抜いた分析力と、対抗に無効化魔法を選んだ判断力には目を見張るものがある。間違っても足でまといにはならないだろう。


品定めが済んだことを察し、ジェーンはニッと笑った。


「決まりだな。魔女の出逢いは何かの縁。よろしく、メア」


「はあ……勝手にすれば」


大きなため息をつきそっぽを向いたまま、けれど今度の握手は拒まなかった。



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2025年12月21日 19:00

救国の魔女は亡命する 遠寺 燕司 @todera_enji

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