君からの通知

通知音が鳴るたびに、俺は反射的にスマホを手に取ってしまう。

バイトのシフト変更やゼミの連絡なんかじゃない。

欲しいのは——真由からのメッセージだけ。


最初に個別でやり取りを始めたのは、ほんの些細な会話だった。

「図書館、コンセント空いてる場所ある?」って真由がつぶやいたとき、思わず「隅の机なら」って答えた。それだけだったのに、通知のアイコンが一対一で光るようになってから、俺の毎日は妙に騒がしくなった。


「ピロン」

今日もまた鳴った。

画面には——『おつかれ! 今どこ?』

たったそれだけで、胸の奥が熱くなる。俺はすぐに返そうとして、でも数秒だけ指を止めた。

早すぎても必死に見えるし、遅すぎると冷たいと思われる。

そんなくだらない計算をしてしまう自分に、苦笑する。


そして、勇気を出して送った。

『今日、帰り道一緒にどう?』


……送信済み。

通知を見た真由がどんな顔をするか、想像するだけで胸が騒ぐ。きっと少し赤くなる。そういうときの真由を、俺は何度も見てきたから。


実際に並んで歩きながら、俺はつい口にしてしまった。

「通知見たときの顔、すぐわかるよ。真由、すぐ赤くなるから」


真由が慌てて「え、見えてた?」って返す。その仕草が可愛すぎて、俺も笑うしかなかった。

本当はその瞬間、言いたかった。

「俺もだよ。お前の通知が来るたびに、やばいって思ってる」って。


でも口に出せたのは、それをちょっとだけ薄めた言葉だった。


ポケットの中で、またスマホが震える。

友人からのメッセージ。

けれど俺の心を占める通知は、ただ一人からのものだけだ。


——画面を見なくてもわかる。

君からの通知は、俺の一日の中でいちばん大事な合図だから。

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君からと僕から。 如月 愁 @yokoshu

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