第五話 真意
ミゲルとソヨルはアマンドに話を聞くため、アマンドの元へ急いでいた。
「ミゲルさん、お身体大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。これくらい大したことない。」
そう言いつつも、ミゲルの息は上がっている。城を失くしたアマンドが棲む屋敷は拠点からだいぶ離れたところにあり、かれこれ四半刻程走っていた。
「さあ、着きましたよ。」
「はあ…、何も走ることはなかったのでは…?」
少々不満を漏らしながらも、戸を叩く。「誰だ?」という返事が聞こえたので軽く挨拶をし、アマンドの元を訪ねた理由を話す。すると、戸が開かれアマンドの従者が顔を出した。
「アマンド様なら2階の執務室にいる。」
二人は従者に頭を下げると執務室に向かった。
「ああ、ミゲルにソヨル。何か用かい?」
執務室に入るとアマンドはいつも通りの穏やかな笑みで二人を出迎えた。
「アマンド様、単刀直入にお聞きします。本日アマンド様が下さった文書を拝読させていただいたのですが、この編成を提案したのはアマンド様なのでしょうか。」
ミゲルがアマンドの目を見つめ、慎重に尋ねた。
「ああ、半分はそうだね。」
「半分?」
ソヨルは首を傾げる。
「オレ…、いや私はてっきりアウルス国王の指示によるものなのかと思っていたのですが…。」
「そうだね。確かに、君たちを軍の中心にしていこうと提案したのはアウルス国王だ。だが、私もそれに賛同したので半分は私の提案ということだね。」
「なぜお二人はそのような編成にしたのでしょうか?」
ソヨルは恐る恐る尋ねる。
ミゲルもアマンドを力強く見つめ、拳をぐっと握っている。
ソヨルはそんなミゲルを落ち着かせようと拳の上にそっと手を重ねた。
そんな様子からミゲルが言いたいことが分かったのか、アマンドは「落ち着きなさい。」と言った。
「アウルス国王の思惑は分かっているよ。恐らく、軍の統率を執りづらくしたいのと、力がある者を監視しやすくしたいという目的があるのだろうね。」
「では、なぜアマンド様はこの編成に賛成したのですか!団長や副団長に任命された私とソヨルはともかく、他のメンバーは納得していない者も多いのですよ!」
ミゲルは珍しく声を荒らげる。ソヨルはミゲルを宥めようと肩に手を置く。ミゲルはそれに気づくと「すみません…。」と呟いた。
「いいや、こちらこそ混乱を招いたようですまないね。でも、その混乱も予想の範疇なんだ。」
「どういうことでしょうか。」
ソヨルはアマンドに次の言葉を促す。
「結成したばかりのこの軍はとても纏まっているとは言えない状態だ。だが、そんな状態の軍を上手く纏めることができたのなら君たちみたいな若者にとっては大きな成長の要因になるはずだと思ってあえて若い者を中心とした編成にしたのだよ。」
「私たちに成長の機会を…?」
「若く強大な力を持つ君たちには、いずれ将来のノックス王国を任せたいと思っている。しかし、君たちは強大な力を持っていても未熟な人間だ。だからこそ、未熟な者どうし手を取り合って補い合うことができれば、より強大な力が生まれてアウルス国王の思惑を打ち破ることも可能だと思うのだ。」
アマンドは二人の目を真っ直ぐに見つめた。
アマンドの瞳では国を取り戻す決意の炎が燃え上がっている。
二人はアマンドの思いを聞くと自分たちがアマンドの思いを汲み取ってやることができなかった悔しさから己を恥じた。
恐らくそのようなところが自分たちは未熟なのであろうと感じた。
しかし、それと同時に今の軍の状態を考え、軍の面子が到底アマンドの考えに賛同してくれるとは考えることができなかった。
「アマンド様、私は未熟過ぎて軍の皆を纏めるどころか、話を聞いてもらうこともできないのです。こういう時はどのようにしたらいいのでしょうか。」
「僕も知りたいです。僕は副団長ですから団長が背負うものは僕も同じように背負うべきです。」
二人は縋るように尋ねた。
「そうか、私の言うことが参考になるかは分からないが、一つ言いたいことがある。話を聞いて欲しいと思うなら、君自身も相手の言葉に耳を傾ける必要があるよ。それも表面上の言葉じゃなくて、心からの言葉さ。分かるか?」
「心からの言葉?」
「何事も大切なのは相手との対話さ、その対話からお互いの思いが通じ合って出てくるのが、心からの言葉なのだよ。」
「そうなのですね。」
「とは言ってもミゲルはまだ軍に合流して間もなかったね。焦る必要はないよ。ただ、団員との対話も仕事の内だということだけ覚えていてもらえば大丈夫だろう。」
アマンドは優しい笑みを見たミゲルはほっと胸を撫でおろした。しかし、その瞬間気味の悪い感覚がミゲルを襲った。ミゲルは異変を悟られないように慣れない笑みを浮かべる。
アマンドは机の引き出しから一枚の紙と一本のペンを取り出した。
「私の指示が混乱を招いてしまったようだからね。一筆したためておこう。そうだ、他に聞きたいことはないか?」
「いいえ。ありがとうございました。でも、僕たちの為に忙しい中お時間を割かせてしまって申し訳ありませんでした。」
「なに、気にするな。私が碌に説明もせずに編成を決めてしまったのがいけないのだ。…ん?ミゲル、顔色が悪いようだが大丈夫か?」
その言葉にはっとしてソヨルがミゲルの方を向くとミゲルは青い顔をして俯いていた。
「ミゲルさん!?」
名前を呼んだと同時にミゲルは膝から崩れ落ちた。ミゲルは足が泥沼に引きずられていくような感覚を覚えると、意識を手放した。
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