第四話 不協和音
軍の団長としてミゲルが紹介された日から数日後、軍の面子は軍の拠点に集められた。
これからの軍の方針を決める為に軍議を行うことになったのだ。
ミゲルとソヨルは団長と副団長として皆を纏める役割を務める為、皆よりいち早く拠点に着いて仕事を始めていた。
「今日は上手くいくだろうか…。」
ミゲルが自身なさげに呟くと、ソヨルはミゲルに優しく微笑みかけた。
「大丈夫ですよ。でも、この前は上手くフォローできず、すみませんでした。おかげで面倒なことに巻き込まれてしまったでしょう?」
「それは気にしないでいい。あの後なんだかんだレオとは打ち解けられたし。」
「それは良かった。レオさんは情に厚いところがありますからね。それほど心配はしていませんでしたけど。」
ミゲルは嬉しそうに笑うソヨルにつられて笑みを浮かべる。
二人は会話を交わしながら仕事を進めていると、拠点の戸が勢いよく開かれた。
「おっはよー。あれ?ミゲルとソヨルもう仕事始めてるのか?」
レオは目を丸くして、二人を見つめた。
「ああ。軍議の準備とかいろいろな。そういうレオも随分と早いな。」
「こういう集まりに遅刻するとアンリが五月蠅いんだよなー。そういや今日はアンリとアンナは来るのか?」
「ええ。いらっしゃいますよ。ミゲルさんは二人にお会いするのは初めてですよね。」
「ああ。」
3人が何気ない会話を交わしていると他の面子たちも続々と拠点に入ってきた。
「ほら、アンリしっかり挨拶するんですよ。」
「言われなくても。分かってるって。」
そんな会話をしながら入ってきたのは、金色の髪の青年と同じく金色の長い髪を一つに結わえた女性であった。入ってくるなり二人はお揃いの青い瞳でミゲルを見つめた。
「あんた誰?」
青年はミゲルに訝しげに問う。すると隣にいた女性は慌てて青年の脇腹を小突く。
「初対面の人に対してそんな口の利き方はないでしょう!この方はミゲルさんといってこの軍の団長さんなのですよ。」
「団長!?あんたが!?」
青年は驚愕すると、また女性に脇腹を小突かれる。
「もう、失礼なことばっかり…。ああ、申し遅れました。私はアンナ・ド・アルヴェールと申します。こちらの口の悪い男子は私の弟のアンリです。先程から失礼な態度で大変申し訳ありません。」
「いや、この間の挨拶のときも驚かれたし、仕方ない。」
ミゲルは申し訳なさそうにするアンナに言うと、アンナは首を振った。
「いいえ、この子は貴族だということを鼻にかけていつも威張っていて、厳しく言っていただいた方がありがたいです。」
「別に、鼻にかけてなんかいない。」
アンリは口を尖らせると、ミゲルの全身を凝視する。
「ただ、身長は平均的だけど体格は良くないし、女みたいな顔しているし本当に団長なのか疑わしいだけだ。」
「お前が言うかよ…。でも、侮るなよ。こいつはこう見えてすげえ強いんだぜ。俺を一瞬で負かしちまうし、傭兵時代もすごい実力の持ち主だって言われてたらしいしな!」
レオは気まずい雰囲気を吹き飛ばそうとミゲルを褒める。他の団員にも聞こえるようにしているのもわざとであろう。
「お前ら五月蠅いぞ。さっさと席に着け。」
全員が声のする方に視線を向けると、カイが苦虫を嚙み潰したような表情で立っていた。
「全員揃ったな。それじゃ団長、今日の議題を。」
カイがミゲルを促すと、ミゲルは白い封筒に入った紙を取り出した。
「議題というか、まずはアマンド様から預かった手紙の内容を発表させてもらう。」
ミゲルはそれだけ言うと、少しの間黙り込んでしまう。
「どうした?早く言えよ。」
レオが心配しながらも続きを急かすと、ミゲルは少し困ったような表情で言葉を続けた。
「『今回結成した軍の編成について、団長・副団長のミゲル・ソヨルは元より、カイ・レオ・アンナ・アンリのより強大な魔力を持つ者が中心となって軍を纏めていくように。』とのことだ。」
「ふーん。って、ええ!?」
レオは驚きの声を上げる。すると、それが合図になったかのように他の団員たちもざわめき始めた。
「なんでこんな若造たちに…。」
「こいつらにこの軍が纏められるかよ…。」
「魔力だったら俺だって優れてるのに…。」
漏れ出す不満の声があちこちから聞こえる。すると、団員の一人がミゲルに向かって言った。
「ああ、わかった。お前らあの元国王に取り入ったんだろ。」
「そんなわけねえだろ!」
レオが声を荒らげると、ミゲルがそっと制止した。
「静かに。今から話すことをしっかりと聞いてほしい。確かにこの手紙はアマンド様が書いたものだ。でも、今この軍は表面上はアモル軍の軍だ。アマンド様が独断で軍の編成という重要なことを決めることができるだろうか。」
「というと?」
アンナが問う。
「今回の編成に対する指示はアモルの国王であるアウルス国王によるものと考えられる。アウルス国王がどんな考えでオレたちを前線に出したいと考えたのかは分からない。ただ、オレが思うにまだ若い者が中心となった軍は統率が執りづらいのでそれほど脅威にはなり得ないという点と、魔力・体力共に優れている者を監視しやすくなる点を考慮した上でこの編成になった可能性が高い。」
「この軍で革命を起こそうとしていることを勘付かれているということですか?」
「そうだな。その可能性は大いにある。」
辺りは再びざわめく。ミゲルは咳払いをすると話を続けた。
「正直、今の状態では革命を起こすことは不可能であると思う。オレも団長としてまだまだ未熟であることは承知している。でも、アマンド様の思いは必ず実現したい。そのためには皆の協力が必要不可欠だ。オレに従うというよりもオレの未熟な面を補うという形で協力してほしい。」
「ミゲルさんだけじゃないですよ。未熟なのは皆一緒です。僕からもお願いします。どうかアマンド様の思いを叶えて差し上げたいのです。」
ソヨルは頭を下げるが、皆の困惑は消えないのか、皆黙ったままだ。
「あのさあ、水を差すようで悪いけど僕は皆を率いてくなんて無理だから。」
皆がアンリを見つめる。アンリは周囲の視線などお構いなしに話を続ける。
「だって、僕まだ16だよ?まだ子供と言っても差し支えない年齢の者に大きな責任が伴う役割を任すなんて頭おかしいんじゃないか?正直、そんな指示を承認する人に忠誠心なんてないね。」
アンリはそう言い切ると席を立ち、拠点から出て行ってしまった。
「すみません。勝手に席を立って…。でも、私も今回の編成には納得できません。」
アンナは頭を下げながらも、アンリの言葉は否定しない。アンナもアンリの後を追うように席を立つと、拠点を後にした。
「おい、どうすんだよこの先…。」
レオは頭を抱えると、カイが口を開いた。
「どうするもこうするも皆に納得してもらうしかないだろう。俺は説得に回るから、今から団長と副団長はアマンド様に今回の編成がアウルス国王によるものなのか聞いてこい。俺も気になることは気になるからな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
ソヨルは再び頭を下げると、ミゲルを促し、拠点をあとにした。
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