あなたは私に合わなくてよ
ブリージー・ベル
読み切り完結
愛とは美しい薔薇のよう
なんて、古臭い宣伝文句みたいな台詞。棘が刺さると痛くて、朝露みたいに涙を流し、相手の香りは濃厚な香水のように記憶に刻み込まれ、あなたの愛で花ひらくの。
ぐはっ
真紅の血を吐きそう。
愛に棘なんていらんわ。
花ひらくのはあなたの愛のチカラじゃなくて、私の飽くなき美への欲求による努力!
好きな人にほんの少しでいいから「可愛い」と思ってもらいたいからこそ、女性はメイクや手入れを頑張る・・こともある。
でも、自分で自分を少しでも可愛いと思えるほうが毎日ご機嫌で過ごせるじゃん。
自分の価値観を相手に全振りするなんて、地雷系(死語)じゃないだろうか。
だからね、私はあなたと別れる。
あ、振られるのがプライドに差し障るなら、私が振られたことにしてもいいよ?
今どき、彼女を大切にできない男なんていらないわ。
え?
俺と別れたらお前を好きになってくれる男なんていないって?
そうね、そんなことを言っちゃうあなたを本当にクソ男だと思うわ。
なんでこんな男と付き合ってたのかしら。タイムマシンがあったら、付き合うことを決めた自分に会いに行って説教するわ。
あと、あなたと別れて一生1人で生きていくことになっても構わないから別れるの。
あなたと一緒に歩くぐらいなら、私1人で歩いていくほうが楽しいし充実すると思ったから今別れるの。
え?
俺がプレゼントしたものを返せ?
ふふっ
そういうだろうと思って、全部持ってきたわ。
ほんっとちっさい男ね。
そんなあなたを支えようと思ってたなんて、私って本当に良い女だったと思う。
あ、今このときはいい女じゃなくて結構よ。
自分がどんないい女でいるかは私が決めるの。別れるあなたに決めてもらうことじゃない。
荷物確認して。
後からアレが足りないとか言わないって誓約書を書いて。あと使用してたんだから多少の傷みについても追及しないって書いておいて。これでも大事に使ってたんだから。
私があげたプレゼント?
好きにすればいいわ。返さないでね。いらないから。
やだ私ったらかっこいい。
あ、申し訳ないけど私の電話番号とメルアドを消してくれる?
履歴も消して。
携帯は買い換えるけど念の為ね。
二度と俺にかけてくるんじゃないぞって?
ふふ
あはは
なにそれ最高に面白い。
そうね、たまには寂しさに震える夜があるのかしらね。
でもそれはあなたに会いたくて震えるわけじゃない。
孤独な私に酔いしれて震えるの。やだ私って孤高の存在?誰にも頼らず生きていけるいい女、まじ最高って震えるの。
寂しいからってクズな男に依存せず、1人で寂しく過ごせている自分にうっとりして震えるのよ、最高でしょ。
頭おかしいのかって?
ふふ。
そうね、おかしいのかもしれない。でもそうだとしてあなたには関係ないでしょう。
さあ、さっさと誓約書にサインをしたら去ってくれない?
あ、ここは私が奢るわ。
みみっちいあなたは私に1円だって払いたくないでしょう?
ええ、さようなら。
ドタドタと乱暴に音を立てて出ていったわ。
やっと、やっと別れられた。
これであの人も私に未練など何一つ残さず歩んでいけるでしょ。
1度は愛した人だもの、不幸になってほしいわけじゃない。
自分の至らなさを改善して、次の恋人に活かしていってどうぞ幸せでいて。
カップに残ったカフェオレを飲み干す。この店、冷めても美味しい。
ここに来るまでに数日かけて思い出を全て整理して捨てた。彼の匂いが少し染み付いたリネンは替えがないからまだ捨てていないけど。
新しいリネンと、私だけのためのカップを買って帰ろう。
彼のことを気にしないで動ける幸せ。
彼のことばかりを考えていた日々にも幸せはあった。
今の私に必要なのは孤独の幸せ。
今日からは見たい時に見たいテレビを見て、食べたい時に食べたいものを食べ、入りたいときにお風呂に入る。
そして、泣きたいときに泣く。
幸せを決めるのは私。
今度もし私が恋をすることがあったら、孤独を愛しながら相手のことも愛せるわ、きっと。
1人でいる覚悟を決めた私は、今すごく綺麗でしょう?
例え私が薔薇ではなくても花だとしたら、一輪で綺麗にひっそり咲く花でいたい。
なんてね。
そんな古臭い例えに心で笑ってしまう。
そうよ、いつまでも綺麗に咲くプリザーブドフラワーなら現代的かな。
テーブルを片付けやすいように少し整えて店を出る。
□ □
「ねえ、今の人」
「え?すれ違った綺麗な女の人のこと?」
「うん。なんかこう・・すごくいい匂いがしたね」
「そう?わからなかった」
「あんな人になりたいなあ」
「あ、わかる」
「凛としてたね」
あなたは私に合わなくてよ ブリージー・ベル @breezy-bell
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