第5話 甘い罠の連鎖
DMに届いた「応援しています」という一文は、浜田順太郎――土竜の心を瞬時に射抜いた。
オーバーグラスの奥で細い目が潤み、彼は震える手で返信を打った。
「ありがとう…! 俺なんかを好きになってくれるなんて」
だがやり取りは長くは続かなかった。
「会いたい」という土竜の言葉に対して、返ってきたのは冷笑混じりのスクショだった。
翌日にはTwitterのタイムラインに彼の必死な文面が晒され、まとめサイトに「土竜、またネカマに釣られる」と記事が並んだ。
一度では終わらなかった。
新たなアカウント、新たなアイコン。
「ずっと前から動画見てました」「本当の土竜さんを知りたい」
そんな言葉に、彼は毎度心を開いてしまった。
だが待っていたのは、同じ結末。
甘いメッセージのやり取りは数日で切り取られ、笑い者として拡散される。
「また釣られてるw」「学習しろよ土竜」
気づけば十度以上、同じ罠に足を踏み入れていた。
それでも順太郎はやめられなかった。
彼にとって「本当に自分を求めてくれる存在」の幻影だけが、生きる支えだった。
嘲笑と恥辱にまみれながらも、次こそは、と信じ続けた。
そしてある日、ひときわ手の込んだDMが届いた。
差出人は「美咲」という名のアカウント。
プロフ写真はどこか日常的で、他の女アイコンよりも現実感があった。
さらに過去ツイートには友人とのやり取りや趣味の写真まで並んでいた。
「土竜さん、みんなは笑ってるけど、私はあなたの真剣さが好きです」
「ネタにされるのは悔しいでしょ? でも私は本気で応援してる」
順太郎の胸は久々に熱くなった。
今までの軽薄なアカウントとは違う。
これは本物だ――そう信じられた。
やり取りは日を追うごとに濃密になり、やがて「直接会いたい」という話になった。
不安よりも希望が勝った。
「やっと、俺のことを理解してくれる人に会える」
順太郎はスマホを握りしめ、待ち合わせの日時を打ち込んだ。
「じゃあ、来週の日曜。駅前で」
オーバーグラスの奥の細い眼は、久しく見せなかった光で輝いていた。
彼はまだ知らなかった。
それがこれまでの十度の罠よりも、遥かに残酷な結末へ導くものだということを。
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