魔剣使いの英雄譚

銀根

1話



魔剣使い。



莫大な魔力を秘め、自我を持ち、限られた者にしか扱えないと言われる剣を操る者。

かつて、自分もそんな存在に憧れ、なりたいと思った。



「おめでとうございます。ウェスト様。貴方に魔剣を扱う能力を授けたと、神託が降りました。」



5歳の時、神官からその言葉を告げられた瞬間、涙が出るほど喜んだのを、今でも鮮明に覚えている。



「おめでとう! ウェスト!これで君の夢に一歩近づいたね!」



「ありがとう! お父さん! お母さん!僕、頑張るよー!」



あの神託から、早13年。今、俺はグレイス皇国軍の小隊に所属している。

ダンジョン探索中、突然の魔物襲撃に遭っていた。



「ゼーン! そっちにブラッドウルフが向かった!グランドベアは俺が食い止めるから!」



「わりぃ! 頼むウェスト!」



ゼーンは即座に動き、ブラッドウルフの群れに向かっていく。



「来い……魔剣<フレイムエッジ>……!」



ゼーンが呼びかけると、赤いオーラを纏った剣が召喚される。

それを手に、ゼーンは群れに斬りかかる。



魔剣。

魔剣使いだけが召喚できる、専用の剣。

通常の剣とは違い、魔力が込められ、扱う者は人知を超えた力を発揮できる。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ゼーンは魔剣を振り回し、ブラッドウルフを次々と蹴散らす。

その姿は、まるで嵐のようだ。



(凄いな……ゼーンは。いつも、こんな力で戦ってるのか。俺も……やるべき仕事をやらなきゃ。)



心の中で呟き、俺はグランドベアの方へ向き直す。

巨大な体躯、鋭い爪。一撃で人を粉砕する怪物。



「シフロン! 支援魔法を頼む……!」



「はい! ルミナスちゃん、ウェストさんへ支援魔法の付与をお願い……!」



シフロンが呼びかけると、彼女の魔剣<ルミナス>から、薄緑色のオーラが溢れ出す。

それが俺の体にまとわりつき、一瞬で身体能力が上がるのを感じる。

速度、力、耐久力。すべてが強化される。



「ありがとう、シフロン……!」



「はっ……! はいっ……!ウェストさん、頑張って下さい……!」



「あぁ……!」



頷き、俺はグランドベアに向かって走り出す。



グオオオオオオオオオオオオオオオ!



グランドベアが咆哮を上げ、巨大な腕を振り下ろす。



地面が震え、空気が裂ける音が響く。



「ちぃっ……!」



紙一重で回避。

直撃したら、即死だ。体が震える。



(クソ……またか。魔剣さえ使えれば、こんな苦戦なんて……。いや、考えてる暇はない!)



大型の魔物討伐用に開発された、大型狙撃銃<アークブレイカー>を構える。

軍の最新技術、実弾と魔力弾を両用できる怪物兵器。



ズドンッ! ズドンッ!



弾丸がグランドベアに飛ぶが、回避される。

しかし、狙いは外れても、衝撃波で相手の動きを乱す。



グオオオオオオオオオオオオオオオ!



グランドベアが怒り狂い、突進してくる。腕を振りかざし、俺を狙う。



ドン!



命中。体が吹き飛ばされ、壁に激突。



「かはっ……!」



口から血が噴き出す。

痛みが全身を駆け巡る。



(肋骨……折れたか。内臓もヤバい……。支援魔法がなかったら、死んでた……。また、俺はみんなに頼りきりだ……。)



心の中で葛藤が渦巻く。才能がない俺。神託を受けたはずなのに、18歳になった今も、魔剣を召喚できない。

周りからは「落ちこぼれ」と陰で囁かれる。

小隊の仲間は優しいけど、それが余計に胸を痛める。



(いつまで、こんな……。みんなみたいに、強くなりたいのに……。)



「ウェストさん……!? 今、回復魔法をかけます……!」



シフロンが駆け寄り、<ルミナス>の回復魔法を放つ。温かい光が体を包み、傷が急速に癒える。



「ありがとう、シフロン。いつも助かるよ。」



「ありがとうございます……! ……!? ウェストさん、前……!」



シフロンの叫びで、反射的に体を動かす。

グランドベアの爪が、空を切る。



「しつこいな……!」



ズドンッ! ズドンッ!



一発がグランドベアの目に命中。



グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



咆哮が響く。相手が怯む。



(今だ……!)



「まだ立てるか……! ならこれはどうだ……!」



ズドンッ……! ズドンッ……! ズドンッ……! ズドンッ……!



グランドベアの頭上、天井に向け連射。

弾丸が命中し、天井が崩落し始める。

ゴロゴロと岩が落ち、グランドベアを押し潰す。



グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



「はぁっ……! はぁっ……!」



息が上がる。魔力量が少ない俺にとって、長期戦は命取り。

短期決戦が理想だ。



(頼むから……今ので絶命しといてくれよ……。)



しかし、瓦礫から苦しげなうめき声。



グランドベアが這い出てくる。



「まだ生きてるか……! だが、魔弾の装填時間は稼げた……!」



<アークブレイカー>の銃口を向け、魔力弾をチャージ。

青白い光が銃身に集まる。



「これで終わりだ……!」



引き金を引く。

ズドン!



魔弾がグランドベアの頭に直撃。

爆発音が響き、相手が絶命する。



一方、



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ゼーンもブラッドウルフを全滅させたようだ。



戦闘終了。



「はぁっ! はぁっ!」



俺は膝をつく。

体力と魔力が尽き、体が動かない。



一方、ゼーンとシフロンは魔剣のおかげで、まだ余裕がある。



(また……俺だけが……。みんなの足を引っ張ってるんじゃないか……。)



心がざわつく。



「大丈夫か……ウェスト……?」



ゼーンが駆け寄り、肩を貸してくれる。



「大丈夫……! ありがとうな、ゼーン……それにシフロンも……!」



「気にすんな! 親友の心配をするのは当然だろ!」



ゼーンは笑顔で、俺の肩に手を置く。



「ウェストさん……! 怪我……回復魔法で治しますね!」



シフロンも優しく、魔法をかけてくれる。

二人とも、魔剣の力で俺を助けてくれる。

いつもそうだ。



俺、ウェスト・ザーバスは、幼い頃に魔剣使いの神託を受けたはずなのに、今も才能が発現しない。

軍の小隊メンバーは優しく気遣ってくれるけど、周囲からは「落ちこぼれ」と呼ばれる。



(俺に……魔剣を扱う才能が発現すれば……。みんなに、もっと力になれるのに……。)



そんな思いが、毎日胸を締め付ける。




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