第23話 一筋の光 ~side フェン~

まえがき

 再びフェン視点で生徒側の様子を描きます。

 崩落に巻き込まれた彼らは、はたして無事なのでしょうか……。

===================================




 山道が崩れ落ちた音が止み、あたりは不気味な静寂に包まれた。

 戻る道は瓦礫に塞がれ、夜までに下山するのは不可能。

 フェンは胸を張り、仲間たちを見回した。


「……ここで一晩過ごす。大丈夫、アタシが全部なんとかする」


 口から出た言葉は勇ましかったが、心の奥では焦りが渦を巻いていた。

 何とかしなければ。

 群れを守らなければ。

 成果を上げなければ。

 手段は何一つ思い浮かばないのに、結果ばかり求めてしまう。


「ま、まずは火だ! 日が落ち切る前に火を焚かないと、暗闇の中で魔物に襲われでもしたら終わりだ!」


 フェンはそう言うと、その辺に落ちていた小枝や落ち葉を集めた。

 そして石ころに自身の爪を立て、ガチガチと火花を散らす。

 どこかで見た、火おこしの手法。


「……くそ、このっ……」


 けれどいくら火花を飛ばしても、大きな火は起きない。

 それも当然、集めた可燃物は、一昨日まで降っていた雨で湿気ってしまっていた。


「チッ……ああ! もういい!」


 痺れを切らしたフェンは大きく舌打ちをする。

 力強く放り投げられた石は、茂みの奥へと消えていった。


「……おい、オレなら――」

「――そんなことより、食糧の確保が優先だ!」

 

 何か言おうとしたドラコを、勢いよく遮るフェン。

 どうせ、自分に突っかかってくるだけだ。

 無視して構わない。

 そう思っていた。


「この中で食糧を持ってきている者は?」


 問うが、誰も反応しない。


「誰も無いのか……!」

「……だってぇ、チラッと見て帰るだけって言ってたからぁ」

「ぷる。そう、だよ。それに、もってないの、フェンちゃんも、おなじ」

「ぐっ……」


 柔らかなボディとは異なり、まっすぐ突き刺さるノアの言葉。

 フェンは何も言い返せなかった。


「ま、まあいい! 一日くらい食べなくたってなんとかなる!」

「……何の根拠があって、一日くらいと言ってるんだ」


 ドラコの冷静なツッコミ。

 普段「バカなヤツだ」と下に見ている相手からの一言は、フェンをさらに苛立たせた。


「結局、死に直結するのは食糧でも火でもない。魔物に襲われることだ。とりあえずは、それを阻止することだけを考えよう」

「……それ、なら。ノア、けっかい、はれるかも」


 ノアが木の棒を拾って、地面に何やら紋様を描き始める。

 フェンは慌てて駆け寄り、手を掴んだ。


「勝手に行動するんじゃない! アタシの指示を待つんだ!」


 あれも、これも。

 全部、自分がやらなきゃ。

 そうじゃなきゃ、リーダーの意味がない。

 だが火は点かず、食料は散らかり、結界は半端で途切れる。

 息は荒くなり、手は震え、頭の中は真っ白。


「……何をしているんだ、キサマ」


 ドラコの呟きが突き刺さる。


「フェンちゃん。ちょっと……はりきりすぎ、かもぉ」


 リリムのため息が追い打ちをかける。


「ぷるん……ぐす、ぐす」


 ノアにいたっては、大粒の涙をこぼし始めた。

 なんだ、この惨状は。

 フェンはぐるりと辺りを見回して、泣きそうになった。

 自分が一番、ちゃんとしようとしていたのに。

 自分が一番、しっかりしているはずなのに。

 自分が一番、リーダーをやれるはずなのに。

 これではまるで、悪者みたいじゃないか。


「だ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ! アタシが全部やるって言ってるだろ! お前たちは黙ってアタシの言うことに従えばいいんだ!」


 声は上擦り、響きは虚ろだった。

 反論の代わりに広がったのは、冷たい沈黙。

 フェンは必死に胸を張ろうとしたが、足元が崩れ落ちそうな感覚に立ち尽くすしかなかった。


 その時。


「――その辺にしておこう」


 陰鬱な山の中に、落ち着いた声が響いた。

 その声は、いつも聞いている声。

 慌てて振り返った先に、見慣れた姿が立っていた。


「せ、先生……」


 声が震える。

 悔しさか、安堵か、自分でもわからない。

 上手くできなかったことが悔しい。

 助けに来てくれたことで安堵した。

 そして、助けられて安堵した自分が悔しい。

 アレンは微笑んでフェンに歩み寄り、ぽんと頭に手を置いた。

 温かい掌。


「よく頑張ったね。ここまで来られただけで、とても立派だ」


 その優しい言葉に、張り詰めていた力が抜ける。

 フェンは俯き、頭上のアレンの手を、両手で握りしめた。


「……でも、アタシ……何もできなかった」

「そんなことないさ」


 アレンは散らばった落ち葉や小枝を拾い上げ、手際よく組み直しながら続ける。


「誰も死んでない、全員が無事。……ね? 一番大事なことが守られてるでしょ?」

「……アレン先生」


 フェンがとうとう涙をこぼすと、アレンは一度目を見開き、やがてふっと優しく笑みをこぼした。


「――さあ、皆よく見てて。野外学習の醍醐味だよ」


 フェンの胸に、今までとは違う熱が広がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る