第21話 打ち上げ花火

射的のコルクがクマのぬいぐるみをかすめる。

「ぜんぜんとれないよ~怜とって~」

一瞬で最初にもらったコルクがなくなった。


「はいはい、一緒にとろうね」

騒ぐ陽菜ひなちゃんをなだめてから屋台のおじさんに500円玉を渡し、コルクを5つもらって射的銃に詰める。


陽菜ちゃんの後ろから腕を回し一緒に射的銃の引き金に指を添える。

れい、近い...」

「今集中してるから静かにしてて」

私もほっぺたがふれあうのはドキドキするけど、なんとしても一緒にあのぬいぐるみをとりたい。


「打つよ、せーの」

少し熱くなった陽菜ちゃんの指を押す。


ポンっという音をたててコルクが飛び出し、当たったぬいぐみが落ちる。


「やった~!怜ありがとう!」

顔を真っ赤にした陽菜ちゃんが笑顔でぬいぐるみを見せつけてくる。


かわいすぎる。


「写真撮ってもいいかな?」

「いいよ!」

スマホを向けるとぬいぐるみを抱えてピースをしている陽菜ちゃんが画面に写る。

シャッターボタンを押そうとした瞬間あることに気付いてスマホを降ろす。


「どう?かわいく撮れた?」

スマホを降ろした私を見て、もじもじしながら聞いてくる。


「やっぱり写真撮るのやめた」

「かわいくなかった?」

そう答えるとしょんぼりした様子で聞いてくる。


「写真よりも現実の方がかわいいから目に焼き付けることにした」

いざ言ってみると恥ずかしくて顔がほわっと熱くなる。


「うれしいこと言ってくれるじゃん、そろそろ花火始まるし見に行こ!」

ぬいぐるみに顔をうずめたあと、そんなことを言って私の手を引っ張る。



ヒュー ドドン


打ち上げ花火が始まった、私たちは河川敷に腰を下ろして空を見上げる。


「きれいだね~」

「...そうだね」

なにか考え事をしているのか少し遅れて言葉が返ってくる。


「なにか考え事してる?」

「うん...私、怜に伝えたいことがあるの...」

気になって聞いてみると、私の目をじっと見つめてくる


「私、怜              い」


      ドーン ドン ドドン 


花火の音にかき消されてしまった


「なんか漫画みたいだね、なんて言ってたの?」

「えーっと、怜に名前を呼び捨てで呼んで欲しいって言った」


花火の光を受け、顔が紅色に染まっている陽菜ちゃんが答える


「確かに私はちゃん付けで呼んでたね、わかったよ陽菜」

「...」


陽菜がぬいぐるみで顔を隠す。


「怜、かっこよすぎ...」

ぬいぐるみから顔を離したかと思ったら私の胸に飛び込んでくる。


油断していたので倒されてしまった。

「危ないってば、押し倒してキスでもするつもり?」

あははと笑いながら冗談で言ってみる


陽菜の顔がだんだんと近づいてくる

「えっと...陽菜?さすがにそれは冗談じゃん...」


「冗談でもそんなこと言ってくるからだよ」

陽菜がほっぺたにキスしてくる


「唇はお預けだよ~したかったら自分からしなよ?」

立ち上がって、いたずらっ子な笑顔でえへへと笑いかけてくる


そんなのずるいよ...




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