第16話 遠足

中間テストも終わり、今日は遠足で水族館に行く


バスで外の景色を眺めていると、となりに座る白石しらいしさんが肘をつついてくるので耳だけ傾ける


「片道一時間半をバスで行くのって結構きつくない?」

「それはそうだけど寝ててもいいんだから授業よりいいじゃん」


「スマホ使えないのきついよ~」

典型的な現代っ子だな~

「じゃあしりとりでもする?」

返事がないので横を見るとすでに寝ていた、さっきまでの元気はどこへやら...

肩に重さを感じながら私も目を閉じる



「ふたりともいちゃついてないで早く起きなよ!」

後ろの席に座っている明石あかしさんに叩き起こされる


「あ~よく寝た~」

白石さんが目を覚ましてぐーっと背伸びをする


バスから降りて班ごとに点呼をする


「まずイルカ見たーい!」

結芽ゆめは昔から変わらないわね」

ぴょんぴょん跳ねている明石さんを、班長のたちばなさんがやれやれといった様子で落ち着かせている


「私はクラゲ見たい...」

詩音しおんちゃんはクラゲ見たいって~」

控えめに中野なかのさんが手をあげていると、それに気付いた白石さんが橘さんに教えている。優しいな~


「水瀬さんはどこか行きたい場所でもある?」

橘さんが私に聞いてくれる


「私は特にないかな~みんなとまわれれば楽しいよ」

本当はみんなじゃなくて白石さんとまわりたいんだけどな...


「嬉しいこと言ってくれるじゃない、白石さんはどこ行きたい?」

橘さんが同じように白石さんにも尋ねる


「私も特にないかな~、でもみんなといっぱい写真撮りたい!」

少し考えたあと、満面の笑みで答える


「イルカショーは時間が決まってるみたいだからクラゲから見ましょ」

遠足のしおりに目を通しながら橘さんが答えると中野さんが小さくガッツポーズをする、かわいい


クラゲが展示されているところは真っ暗で水槽だけが色のついたライトで照らされていた


「きれいだね~」

青や黄色にライトアップされたクラゲの写真を撮りながら白石さんに話しかける

「透明なクラゲとライトアップを合わせるの考えた人天才だね、詩音ちゃんもそう思わない?」


中野さんの返事がなかったので、まわりを見渡すと明石さんも橘さんもいなかった


「白石さんどうしようみんな居なくなっちゃったよ」

「はぐれた時はスマホ使っていいって言われたからRimeメッセージアプリしとこうか」


『はぐれちゃったみたいです、どこにいますか?』

ポケットからスマホを取り出し、班のメンバーでつくったグループにメッセージを送信する


『置いていってごめんなさい、結芽がイルカショーの席を先にとっておきたいって言って聞かなくて』

すぐに既読がついて橘さんから返信がくる


『席ってまだ空いてますか?できれば合流したいです』

そう送ろうとすると白石さんが腕を掴んでくる


「せっかくだし、ふたりでまわらない?」

上目遣いで頼まれると私も断れない


『イルカショーが終わるまで白石さんとふたりでまわります』

メッセージを打ち直して送信する


「どこからまわる?」

「一旦レストラン行きたい」

何を見に行きたいのかと思ったらレストランだった、食いしん坊


「結構いろいろあるね~クレープとかソフトクリームとかあるじゃん!」

クラゲを見ているときよりも目がキラキラとしている気がする、白石さんには水族館よりも食べ歩きとかのほうがいいんだろうな

「甘いもの大好きだよね」


「まあね...最近食べ過ぎて太っちゃたけど...」

だんだんと声が小さくなっていく

「そんなことないよ、わかんないわかんない」

お世辞とかではなく本当にわからない、実はボクシングでもしていて厳しい体重管理でもしているのだろうか?


「じゃあよかった、クレープ食べよ!」

ふたりでクレープ屋に並んでメニュー表を見つめる


「私はチョコにしようかな」

「私はストロベリーホイップにしよ~」


「あの人たちカップルかな~遠足デート私もしたい~」

「わかる~あんなかっこいい彼氏欲し~」

同じ学校の女子グループが隣を通り過ぎながらそんな話をしている


「私たちカップルだって~」

白石さんがえへへと照れながら話しかけてくる

「じゃあ今日だけ名前で呼び合おっか?」

「いいね!よろしく怜」

冗談で言ったつもりだったのに白石さんが乗ってくるので引くに引けなくなってしまった


「よろしくね、陽菜ちゃん」

結局ひよってちゃん付けで呼ぶことにした


「ご注文はお決まりでしょうか?」

お店の人に呼ばれて現実に引き戻される

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