第6話 某日0911時 北海道札幌市魔法少女協会道央本部4階会議室 松本方面総監の手記

 魔法少女という存在は私が国防の徒となるべく憧れの存在であったのは、間違い無かった。

 彼女達は我々自衛隊と同じ日陰者であったのは確実で、日夜法整備のままならない状況下で常に支援無い状況で戦っていた。

 1995年の阪神淡路でも我々自衛隊や警察と共に現れるキメラから被災者を守り、瓦礫除去や災害救助と活躍してくれたし、実働任務は勿論近年ではその活動が大幅に認められた。2011年の3.11に至っては最早我々が協力を仰ぐ前から現地や各都道府県から続々と支援が入って来た。キメラと戦うと言う選択肢をしなかった魔法少女達も持ち前の力を使って人員捜索や瓦礫撤去、様々な支援をしてくれた。

 そんな先人達の活動を無にしようとしているのが、魔法少女至上主義者とその集まりであるマギアである。


「今回は、誠に申し訳ありませんでした」


 北海道自衛隊におけるトップが北部方面総監、つまるところが私でありその隣には北海道の行政トップである道知事の幸村さん、警察権を持ち治安維持機構でのトップたる道警本部長の坂本警視監に対して、1人の魔法少女は頭を深々と下げた。

 齢は17か8にしか見えない、等身大西洋人形と呼んでも違和感が無いほどの美人だ。名前をクワトロ・セブンと言う。魔法少女協会のトップであるザ・オールド・ワンの名代としてこの場にいる。つまりは、彼女が今回の責任者でもあるのだ。

 そして、そんな彼女が深々と我々に頭を下げる。その行動に思わず思考が停止してしまった。


「か、顔をお上げください!?」

「そうです!

 何を謝る事があるのですか!」

「今回の件で怪我人こそ出ましたが死者は出ていません!」


 我々三人が慌てて立ち上がりクアトロ・セブンに告げる。実際、被害者もキメラによる腕や背中の裂傷と避難中に転んだだの持病が悪化しただのと言う物でキメラに直接関係する怪我人の方が少ない。


「いいえ、我々は同じ魔法少女がこの様な不始末をしでかした事を謝罪せねばならないのです。

 東京の方でもザ・オールド・ワンが緊急記者会見を開いております」


 クアトロ・セブンの言葉に合わせて部屋に置かれた60インチ程あるテレビが付けられた。タイトルには緊急記者会見と書かれており、昨日の件についてのザ・オールド・ワンによる報告が行われ始めた。

 クアトロ・セブンの後ろに立つ魔法少女は壁に背を預けて記者会見を見る。なんと言うか、ペイルライダーのイーストウッドや夕陽のガンマンのモーティマー大佐を思わせる雰囲気だ。

 腰に下がってる銃もリボルバーである。

 ザ・オールド・ワンと並べばウェスタン魔法少女になるだろうと余計な事を考えていたら、事の説明が終わり、ザ・オールド・ワンが謝罪をと立ち上がり頭を深々と下げた。

 一斉にフラッシュが焚かれる。顔を上げ、彼女が着席すると司会が質問を集めた。


「旭日新聞の諸月です。

 魔法少女至上主義集団マギアの犯行は貴女方魔法少女協会が関与しているのですか?」

「いいえ違います。

 彼女達の行動については我々は関与しておりません」

「では何故謝罪をしたのですか!」


 それは先程説明した。しかし、これは彼等マスコミの常套手段だ。相手を怒らせて失言を取りに行く。


「それは私が魔法少女協会の会長であり、魔法少女の1人だからです」


 クアトロ・セブンの言葉と同じである。


「我々魔法少女は元来貴女方の側にいて、キメラ、 外的身体変形及び反社会性人格障害者から貴女方の安全を守る事こそが本来の使命、と我々魔法少女協会は考え行動しております。

 しかし、遺憾ながら我々だけでは手が回らず、そして目も届かない故にこうして各都道府県庁、警察、そして自衛隊に多大なるご支援を頂きながら何とか 外的身体変形及び反社会性人格障害者から国民の皆々様を護らせて頂いています。

 例え我々魔法少女協会に属さない魔法少女であっても、それは魔法少女です。貴女方国民の皆様に対して“マギアの魔法少女は我々とは違う魔法少女”といったところで貴女方国民の皆々様からすれば全て同じにしか見えないのです。

 故に貴女方国民の皆々様を護らせて頂くと決めた我々魔法少女協会は貴女方国民の皆々様に同じ魔法少女が大変なご迷惑をお掛けしたと謝罪をしなければならないのです。

 それが、魔法少女協会の会長として日本の魔法少女を束ねる組織の長として取る最初の行動なのです。

 この度は同じ魔法少女が国民の皆々様に対して多大なるご迷惑と不安を掛けてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 ザ・オールド・ワンが再度深々と頭を下げ凄まじいフラッシュが炊かれる。


「言葉だけでは何とでも言えます!

 マギアはどうするつもりですか!」


 諸月は止せば良いものを更に口を開く。


「殺します」


 しかし、次の瞬間にザ・オールド・ワンが発した言葉に会見場の空気が止まる。ザ・オールド・ワンの薄く開かれた目は中東を経験したアメリカ軍兵士やウクライナ戦争を生き残った兵士達の様な殺意と狂気と恐怖とを混ぜこぜにした様な不気味な目だった。


「彼女達はやってはいけないことをした。

 故に、我々は日本国、警察、公安、自衛隊と協力して彼女達を殺します」

「こ、殺すのはやり「いいえ、当然です」


 諸月が言葉を発する前にザ・オールド・ワンは答えた。


「外患罪も等しい行為です」

「なっ!」


 思わず立ち上がってしまった。外患罪、言ってしまえば外国と共謀して日本に攻撃を仕掛けて来た人間を罰する刑法で、外患誘致罪と外患援助罪の二つがあり、誘致罪は死刑になり援助罪は死刑または無期懲役になる。


「あと、幸か不幸か魔法少女に関する人権は今のところ日本国では認められていません。

 現在、警察権及び 外的身体変形及び反社会性人格障害者対処権を保有している魔法少女には見つけ次第致命傷を与える事を命令しています。殺しても罪では無いし、犯罪でも有りません」


 私は思わずクワトロ・セブンを見る。彼女は頷くだけだったが、言わずとも理解した。詭弁ではあるが、事実、人権は無い。魔法少女と中の人は例え同じ性別でも遺伝子レベルで違う。

 ただし、網膜や虹彩、指紋と言った物は変化が無いので一応の個人識別は可能になっている。しかし、外見が同じだけで内面は全く異なるので人間と言う定義に当て嵌めても良いのか?と言う疑問が出て来たのである。同時に、


「国民の皆々様を不安と混乱に陥れる魔法少女は外患です。

 非常に強い言葉を使って説明して参りましたが、国民の皆々様には多少ご迷惑をおかけするやもしれないですが、普段通りの生活を心掛けてください。

 不審な魔法少女やマギアに関する情報があれば協会の方にご連絡を下さい。マスコミの皆様に至っても決して不安を煽る様な事はせずいつも通りの記事をお書き下さる事をお願い致します。

 同時に、例え独自取材をしたいとしてマギアに接触した場合、我々魔法少女協会は勿論、日本国政府からも非常に厳しい扱いを受けることとなります。

 それは我々魔法少女協会の本意では有りませんが、本件に関しまして我々はそう言う覚悟で望んでいるのだと言う事を御認識下さい。

 テレビやラジオをお聞きの皆様もどうぞ、我々の魔法少女協会と属する魔法少女にお手をお貸し下さい。

 我々未だ未熟で道半ばの故に、どうか、どうか、皆様の温かいご支援と手厚い協力をお願い致します」


 ザ・オールド・ワンは深々と頭を下げると、司会が本日の会見は此処までですと強制的に切り上げ、質問できなかった記者たちが憤慨しながら次々と質問を浴びせる。言いたい事は言った。後はやるだけだ、と言わんばかりに胸を張り、堂々と退場していくその姿は、謝罪会見と言うには余りに似つかわしくない姿であり、また、彼女達の本気をうかがわせた。

 クワトロ・セブンを改めてみる。彼女もまた、何時も通りの瀟洒なたたずまいであるが、その真っ赤な瞳は飢えた猛獣を思わせる程に透き通っていた。


「クワトロ・セブンさん」


 私は立ち上がって彼女に向き直る。


「我が北部方面隊、是非とも協力をさせて頂きます」


 私は深々と頭を下げて、魔法少女協会に協力することを誓った。

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