漫才11「トリオ」

幌井 洲野

漫才「トリオ」

<これは漫才台本です>

セリフの掛け合いをお楽しみください。


※「ユズナ」は、拙作「桜色の万年筆」に登場した、小説家ユズナのことです。この作品は、カクヨム様に作品を上梓されている「夕砂」様のお名前を、ご本人承諾の上、登場人物として使わせていただきました。作中に出てくるキャラクターの設定や言動は、すべてフィクションです。


【トリオ】


三人 「どうもー、アヤミとアズサとユズナで、アヤアズナです~、よろしくお願いします~」

アズサ「てな、ウチら、アヤアズやったんちゃう? ナァがついとるけど?」

アヤミ「あんな、いま、三人で紹介したやんか。しょっぱなからボケかまさんといて。ユズナさん来とんのや」

アズサ「あ、思い出した。いま三人で紹介したな」

アヤミ「意外に記憶力が短いな」

アズサ「ま、意外にな」

アヤミ「ユズナさん、こっち見とるで」

ユズナ「こんにちわ」

アズサ「あ、どうもー、いつもおせわになってますー、て、ユズナさんて誰や?」

アヤミ「ウチら、今日はコンビやのうてトリオやで。さっき楽屋で三人で打ち合わせしたやんか」

アズサ「あ、思い出した! ユズナさんて、アヤミの次にウチが担当した小説家さんやんか」

アヤミ「あんなあ、アズサ、ボケはそのへんでええから、そろそろ漫才始めさせてもろてよろしいか?」

アズサ「はい、すみませんー。よろしうはじめましょか」

アヤミ「な、アズサ知っとると思うけど、ウチな、小説家させてもろてん」

アズサ「は、そうなんですか? 初耳です~」

アヤミ「あんた、ウチと一緒に今ここにいるんは、あんたがウチの担当になって小説出してくれたからやんか」

アズサ「あ、確かに、そないなこともありましたな~。目ぇ遠くして思い出した」

アヤミ「さよか。時の過ぎるのは早い言うけど、ここまでの人はさすがによう見いひんな」

アズサ「ウチ、スピーディーに生きとるからな」

アヤミ「その割に、出番からここまでけっこう時間かかっとるやんか」

アズサ「もう、ウチらの漫才、中身が濃くて濃くて、時間かかるのもしゃあないんや」

アヤミ「あんた、そのスカスカ漫才を濃いて言うあたり、出版社の編集者のわりに、日本語なっとらんな」

アズサ「そなことないよ。ウチの日本語、完璧やて、ユズナ先生も言わはるし。ね、ユズナ先生」

ユズナ「はい、アズサさんの日本語は、もう完璧で完璧で、完璧すぎて、完璧と思います」

アヤミ「ユズナ先生、なんやイヤミ入っとる気しいひんか?」

アズサ「なんや、アヤミ、あんた、ユズナ先生まで敵に回すと、残りの人生辛いで」

ユズナ「はい、私、自分の敵は味方にしません」

アヤミ「なんや、ユズナ先生もウチらと同じボケ入ってきとん?」

アズサ「ウチらのワールドに接すると、どんな人でもウチらと同じボケツッコミできるようになんねん」

アヤミ「それは、幸せいう意味? それとも不幸になるいう意味?」

アズサ「これを幸せになる意味て思う人は不幸になるで」

ユズナ「あの、私、ここにいていいでしょうか?」

アヤミ「あ、楽屋戻ってもらってもええんですけど」

アズサ「だめやん。ユズナセンセ、いま楽屋戻ったら、ウチの買うてある回転焼きに絶対ワサビいれよるから、ここにおって!」

アヤミ「アズサな、あんたの方が、思い切りユズナセンセ、敵に回しとるで」

ユズナ「私、今川焼にワサビなんか入れませんよ。入れるなら、ねるねるねるねぐらいですね」

アズサ「あ、ウチ、ねるねるねるね、大好きや。おおきにユズナセンセ」

アヤミ「ユズナセンセ、回転焼きにねるねるねるね入れたら、美味しんですか?」

ユズナ「いえ、入れたら、すぐその場を去るので、食べた人の感想聞いたことないんです」

アヤミ「それ、いちばんタチ悪いやつやん」

アズサ「そういえば、ウチ、出番の前に楽屋で食べた回転焼き、なんや粘ってスースーしとったな」

アヤミ「もうユズナセンセ、やっとるやんか」

ユズナ「えへ」

アヤミ「えへ、ちゃいますやろ、ユズナセンセ」

ユズナ「なんか、このぐらい仕込んでおかないと、アヤミさんとアズサさんの漫才がグダグダになるような気がして、ちょっと仕込みましたー」

アヤミ「へぇー、やっぱ、大モンは、やることがちゃいますなぁ」

アズサ「ユズナセンセ、あれ、イヤミやから気ぃつけはってな。アヤミて、一文字変わるとイヤミになりますよって」

ユズナ「はい、もう、私、大先生のイヤミさん、いえ、アヤミさんと、大編集者のアズサさんに囲まれて、こんな幸せなことありません」

アヤミ「ユズナセンセのほうがウチらよりよっぽどイヤミやんか」

アズサ「アヤミ、ユズナセンセそんなにほめても、何も出えへんで。ユズナセンセ、今日、ここ直行で来はってんやから」

アヤミ「ウチ、ユズナセンセのことほめたん?」

ユズナ「あ、はい、おほめいただきありがとうございます。そう来ると思って、ワタシ、京都駅で生八つ橋買ってきました」

アヤミ「そう来ると思って、て、ユズナセンセ、てごわいな。それに、大津人に京都駅の生八つ橋て、ほぼ地元のお持たせですやん」

アズサ「いいえ、いただけるもんなら、いただいときます。おおきに」

ユズナ「アズサさん、ホント、いい人ね」

アヤミ「なんや、ウチだけ、悪もんになってしもたやんか」

アズサ「そないなことないで。ユズナセンセは、人間の深いところをあぶりだす作品書かはるからな。アヤミの深いところがあぶりだされてん」

ユズナ「そこまで見抜くとは、アズサさん、さすが名編集者!」

アヤミ「はいはい、ウチが悪もんで結構です。おおきにありがと」

アズサ「ユズナセンセ、アヤミもああやって反省しとるし、な、許したって」

ユズナ「はい、じゃ、楽屋戻ったら、三人で今川焼食べましょ」

アヤミ「ねるねるねるね入りの?」

ユズナ「ワサビも入れときました」

アズサ「やっぱり入っとるん!」

アヤミ「ええ加減にせえ」

三人 「どうも失礼しましたー」

(了)

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漫才11「トリオ」 幌井 洲野 @horoi_suno

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