SCENE#71 Ashes of Time3:黎明の剣士〜氷炎の旅路

魚住 陸

Ashes of Time3:黎明の剣士〜氷炎の旅路

第1章 凍てつく神殿と氷の守護者





氷牙の導きで、無明たちはついに氷の神殿へとたどり着いた。しかし、その荘厳な姿とは裏腹に、入り口は複雑な古代文字のパズルで閉ざされていた。氷の扉に刻まれた紋様は、まるで星々の軌跡を閉じ込めたかのようだ。





「このパズルを解き明かさねば、神殿の門は開かないとされています。知恵と勇気を併せ持った者でなければ、星霜の神の眠りを妨げることは許されない…」と氷牙は告げる。





無明は、花玲が語っていた星の巡りや、古き伝承の記憶を辿る。翠玉もまた、砂漠で学んだ古代文字の知識を駆使し、パズルに挑んだ。二人は言葉を交わすことなく、互いの知恵を一つにしていく。





「この文字…花玲なら、どうするだろう?…そうだ!生命の循環を表現するんだ!」





「ええ、わかったわ!生と死、そして再生を繋ぐ、永遠の循環を!」





二人の剣が描く螺旋が交差した瞬間、氷の扉は鈍い音を立ててゆっくりと開いた。神殿の内部から漂う空気は、外の冷気とは異なる、静かで重々しいものだった。広間の中央には、古代の自動人形、氷の守護者が待ち構えている。





「…侵入者…排除…」





守護者の目が赤く光り、低い機械音が響き渡ると同時に、その巨体が襲いかかってきた。無明は守護者の重い一撃を受け流しながら、翠玉と氷牙に叫んだ。





「俺が守護者の注意を引く! その間に弱点を探してくれ!」





しかし、守護者の攻撃は強烈で、無明は次第に追い詰められていった。その時、彼の脳裏に花玲の幻影が蘇った。





「無明…あなたの剣は、私を守るためにある…」





幻影に気を取られた一瞬の隙を突かれ、無明は腕に傷を負ってしまった。しかし、その傷が彼の心を奮い立たせた。




「俺は…もう一人じゃない!」





復讐の呪縛から解き放たれた無明の剣は、希望の光を放ち、守護者の左腕を粉々に打ち砕いた。巨体が崩れ落ちるのと同時に、三人は神殿の奥へと導かれていった。






第2章 魂の転移と傀儡の剣士




守護者を倒し、光に包まれてたどり着いたのは、無数の魂の結晶が閉じ込められた古代遺跡だった。そして、その中心にある魂の転移装置の前に立つ男の姿に、思わず無明は言葉を失った。





「残月!なぜ、ここに…!」




しかし、確かにそこにいるのは、瞳の光を失い、まるで別人の魂が宿っているかのような残月の傀儡だった。




氷牙は告げる。





「奴は、影の統治者に魂を転移された、ただの傀儡だ!奴の身体と魂を利用して、この地の力を手に入れようとしている!」





無明は怒りと悲しみで身動きがとれなかった。その姿を見た翠玉は、力強く彼に語りかける。





「無明、どうか迷わないで!あなたの剣は、彼を…そして、私たちを守るための剣よ!」





翠玉の言葉が、無明の心に宿る迷いを断ち切った。彼は涙を堪え、再び剣を構えた。彼の剣は、復讐の光ではなく、希望の光を湛えた「黎明の剣」へと進化していた。その眩い光は、残月の身体を操る古代の力を打ち砕き、一瞬だけ彼の意識を取り戻させた。





「…無明…」




残月の口から、か細い声が漏れた。無明は、その一瞬の隙を突き、悲痛な表情で紋様を貫いた。残月の身体は光となり、消滅した。





「残月…俺は、お前の無念を必ず晴らす! 許さないぞ、影の統治者…!」






第3章 終焉の塔と影の統治者





残月の死後、遺跡は崩壊し、その跡地には、突如として巨大な氷の塔が出現した。塔の頂上からは、世界に向けられた影の統治者の宣戦布告が告げられた。





「この世界は、あまりにも脆弱だ…だからこそ、我々が、より完全な世界を創り出す必要がある…」




無明、翠玉、氷牙は、固い決意を胸に塔へと向かった。塔の内部では、影の兵士たちが次々と三人を襲うが、彼らの剣は迷いなく、兵士たちを打ち砕いていく。そして、塔の最上階で、彼らは影の姿を持つ統治者と対峙した。





「貴様が、影の統治者か! なぜ、このようなことを…!」





無明が問い詰めると、統治者は嘲笑い、無明の攻撃をすり抜けた。




「無駄だ!我は、影…この世の全てを映し出す闇だ…」





絶望しかけた無明だが、翠玉や村人、そして花玲と残月の顔が脳裏をよぎった。





「違う! お前は、ただの影だ! 俺の剣は…希望だ!」




無明の剣は、もはや影を斬るのではなく、希望の光を放っていた。剣に宿るその光に、統治者の身体は少しずつ残像を残しながら消滅していった。その瞬間、塔は崩壊し、三人は無事脱出した。






第4章 黎明の光、そして新たな旅路




朝の光が降り注ぐ雪原に戻った三人は、生まれ変わった大地に静かに佇んでいた。




「すべてが終わったわね……」




「ああ。だが、俺たちの旅はまだ終わらない…」




氷牙は、二人に深々と頭を下げ、この雪原に真の平和をもたらしてくれたことに感謝を述べた。無明は、この剣が、復讐の光から、希望の光へと変わったことを実感した。しかし、彼らの旅はまだ終わらない。





氷の神殿で発見された古代の地図には、秘密結社の紋様と共に、新たな古代文明の遺跡「火の都」が記されていたのだ。影の統治者を倒してもなお、秘密結社の真の目的、そしてその背後にいる『真の首領』の存在は謎に包まれたままだった。





無明と翠玉は、氷牙に別れを告げ、新たな旅路へと歩み出した。彼らの剣は、花玲の真実と、残月の魂を安らかに眠らせるために、そして、この世界に真の夜明けをもたらすために、新たな冒険へと向かっていく。彼らの背後には、昇り始めた太陽の光が、行く道を照らしていた。





第5章 火の都の予言と新たなる仲間




火の都を目指して旅を続ける無明と翠玉は、広大な砂漠を再び横断していた。しかし、以前とは異なる奇妙な熱波が大地を覆い、空気はひどく乾燥している。この異常な気候は、秘密結社の暗躍と無関係ではないと二人は直感した。





「この熱波…まるで大地が枯れていくみたいだ。火の都に何かが起こっているのかもしれない…」





「ええ、早く急ぎましょう、無明。一刻も早く、火の都へ…」




火の都に近づくにつれて、二人は奇妙な旅人と出会った。その男は、全身を薄汚れたローブで覆い、顔を隠していた。しかし、その手には、見覚えのない奇妙な杖が握られていた。男は、火の都に古くから伝わる「火の民」の一人であり、名を炎牙(エンガ)といった。彼は、秘密結社の魔の手が火の都に迫っていることを無明たちに告げた。





「あなたたちの剣の紋様…それに、その剣から感じる強いほどの力…もしや、あなた方は、伝説の剣士ではないか?」





「伝説の剣士…?」





「火の都には、古くから伝わる予言がある…『氷と砂漠の剣士が、黎明の光を纏い、火の都の危機を救う』と…」




炎牙の言葉に、無明は驚きを隠せなかった。自分たちの旅が、いにしえの予言と結びついていることに、運命的なものを感じたのだ。炎牙は続ける。





「だが、予言には続きがある。『火の都を救うためには、火の心を持った者との共闘が不可欠。しかし、その道は、裏切りと試練に満ちている』…と」





予言に記された「裏切り」という言葉に、無明の胸に一瞬の不安がよぎる。旅の途中、炎牙は自身の過去を語りはじめた。





彼はかつて、火の民を束ねる族長の息子であり、「火の心」と呼ばれる古代の力を制御できず、仲間を傷つけてしまった罪悪感から故郷を捨てた臆病者だった。しかし、無明と翠玉の言葉が、彼の心を再び奮い立たせる。





「過去の失敗は、未来への糧となる。俺たちと共に、もう一度、火の都に希望の火を灯そう!」





炎牙は、火の都を救う「真の火の剣」の存在を明かし、無明たちを導くことを決意した。




「…そうか。ならば、私と共に来い。火の都で、あなたたちを待つ真実と、新たなる敵の存在…そして、火の都に隠された古代の力を、その目で確かめてほしい!」





こうして、新たな仲間、炎牙を加え、無明と翠玉は、古き予言と未知の運命が交錯する「火の都」へと旅を続ける。彼方から、乾いた灼熱の風が彼らに容赦なく吹き始めてきた。彼らの剣は、今、新たな試練の始まりを告げていた…





◆過去に投稿した第1章と第2章と続けてお読みください。

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