#11 気楽に行こうぜ

「さあ一回戦から白熱した戦いを見せてくれた裕也とテスラ!!

次の勝負を彩るのはこのプレイヤーだ!!」


そう叫ぶ実況者兼審判。

実を言うと裕也の戦闘中にも色々と解説をしていた。

満身創痍の裕也の耳には入らなかったようだが。


大きな歓声がアリーナに立つ2人を包み込む。

向かい合うふたりは互いに笑い合う。

葉月の前に立つ、大きな身体の男の名はウリア。


「こんな嬢ちゃん、3秒で終わっちまうぜ?」

「ふふ、まあまあ...」


ゴングが鳴る。


「仲良くしよーよ...!」

「え?」


魔法行使エプティションの詠唱を無しに魔法を発動した葉月。

彼女が持っているのは良い運動神経だけでも、容姿の美しさだけでもなく、有り余る魔法の才能であった。


―――が、脚に氷を纏わせ強化した蹴りであっても自らよりも巨躯な男には致命的なダメージにはならない。


「ッ...いった......どれだけ硬い身体なの!?」


砕けた氷の破片の合間から眼を覗かせたウリアは言う。


「鍛えてんだよ、この大会の優勝賞品のために」

「優勝賞品...?」

「ああ。それを狙って低俗な輩も来る。最初に嬢ちゃんに気持ちの悪いこと言ったのはそういう奴らだ」

「ッ...」

「...与太話はもう大丈夫か?降参もできるんだ。俺だって家族のためとはいえ自分の娘と同年代タメの子を傷つけたくない」


ウリアはそう言うと葉月の方を見る。

降参待ちだろう。


「......おじさんにもおじさんの戦う理由があるんだね」

「ああ。分かったなら――「でも」


声を遮る。観客が息を飲む。

それと同じく、風結達も静かに葉月を見守っていた。


「でも、あんなに友達が頑張ってくれたんだ。私がここで簡単に降参するわけにも行かないでしょ?」

「...知らないからな」

「大丈夫。おじさんも家族のために...本気で来て」


両者が戦闘の構えを取る。

葉月の右脚には先程と同じく氷が纏われていた。


「...魔法行使エプティション社会見覚ハルシネーション


一見何も起こっていないように見えるウリアの固有魔法アルカナム

構えの体制のまま、動かないウリアに葉月がまたもや蹴りを入れる。


その脚は、ウリアに当たることの無いまま地面に着地した。


「え?」


すり抜けたのだ。文字通り。

ウリアの首から斜め左に向かって入れたキックが。


一瞬の思考停止に陥った葉月を、ウリアは見逃さない。

葉月のうなじに強い衝撃が走る。


「あっ...?」


気を失いかけた葉月が唇を噛んで意識を保つ。

滴る血が、服につかないよう振り返るとそこにはウリアが立っていた。


「これが俺の固有魔法アルカナムだ。相手に幻覚を見せる社会見覚ハルシネーション

直接攻撃できねえから身体を鍛えてんだ。今ので分かっただろ?降参してくれ」

「...しないよ。どれだけ言われても」

「......」


倒れそうな体制を持ち直し、そのまま回し蹴りをする。

軽く止められたその脚を持ち、ウリアが前へと投げた。


「うああ!?」


場外へと飛ばされる葉月。

審判がカウントを始める。10数える内にアリーナの上に戻らなければ場外負けのルールだ。


「早く戻んないと...」


その時だった。

観客のざわめきの中から、小さな子供の声がする。


「パパあ!頑張ってえ!!」

「ッ!?おい!見に来るなって言っただろ!!シュナ!!!」


観客席を見たウリア。

葉月にとって攻撃するのにはこの上ないほどのチャンス。

―――が、葉月がその場から動くことは無い。


「8!9!」


葉月がウリアを見つめる。悲しげな顔をする男を見た。

ウリアは降参を求めていたが、こんな形での勝利は要らなかったのだろうか。


「10!!」


ゴングの音がなる。


「試合終了!!!

勝者、ウリア・ベングラッド!!!」


こんな終わり方でも、歓声は沸き起こる。


ゴングが鳴り終わって、実況者の声で試合終了と言われたのを確認してから葉月がアリーナに戻る。

ウリアの前に立ち、しっかりと目を見つめてこう言った。


「...私と同年代じゃないでしょ!!!」

「.........へ?」


先程のウリアが言った、自分の娘と同年代の言葉が気に入らなかったのだろう。

観客席に居る明らかに自分より小さい子供と同じに見られて怒った葉月が言った。


「あんなに小さくないから!!」

「わ、わかった、分かったって」

「もー!......あの子のためにも頑張ってね」

「...敵を応援するなよ」


そうして第二試合が終わる。

待機所に戻った葉月を責める人間は居ない。


「お疲れ様」

「うん。ごめんね、負けちゃって」

「大丈夫大丈夫!そもそも勝たないといけないってわけじゃないしね」

「そうなの!?」


驚いた表情の葉月が言う。

その拍子に噛んでいた傷口からまた、血が流れでる。


「あぁもう!怪我してるんだから大人しくしなよ!?」

「う、うん。それで、勝たないといけないってわけじゃないし...ってどう言うこと?」

「あ、それは私の考えなんだけど」


そう言って天菜が続けて話す。


「ナターシャさんも、キルルさんも、どっちも勝てって言ってないなって思って」

「ちょうどいい練習になるとか言ってたろ。気楽に行こうぜ」


風結も天菜に続いて言った。

一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に変わった葉月が言う。


「そうだね!」



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