テイク-33【醜い世界でも咲いた花】
矢は稲妻のごとく、切先は獣のごとし。
空気を押し裂く鋭い一撃が、空間に閃光のような線を走らせた。
力と力がぶつかりあう――落日が決まると、誰もが思った。
だが。
真花と奏の間に、炎の障壁が割り込んだのだ。
「この炎は……」
「やーん♡ まさかまさかのお出ましね」
赤髪の短髪、褐色肌、襟元を縁取る赤の差し色。
弾んだ声が、彼女の名を呼ぶ。
「久しぶり、真花」
――炎堂輝夜だ。
「輝夜そこをどけなさい! もう少しで真花を仕留め……」
「下がるよ、奏」
「何を言って……」
「皇さんからの指示だ」
「嫌! 私がこの手で裏切り者に頭を垂れ謝罪をさせるの! あともう少しなの! 放っておいて」
押し返すような声と熱が、空気に波紋をつくった。
「奏、今の君は真花に勝てない。それはアタシだって同じ」
伏せられた黒目が、ちらりと真花を見やる。
右手には剣を。左手には、赤黒い魔法が宿っていた。
「奏を突き刺すんじゃなくて、かすり傷でも負わせてその傷口から血を根こそぎ引っこ抜いてやろうって考えてたんじゃないのかい? そうだろ? 真花」
真花は肩で笑う。
「お見通しってわけ……流石は初期メンなだけあるわね」
「もうすぐ警察と報道陣が来る……しかも国家が指定した報道関係の奴らじゃない。きっと、ここにいたら面白おかしく、事実と異なる記事を書かれるに違いない」
力の圧が収まったのを確認した輝夜が、炎の障壁を解いた。
そのまま、台の下敷きになっている霊羽のもとへと、足を向ける。
「はっ、事実と異なる記事って書かれて苦いことでもあるわけ?」
刀身を白い鞘に納めながら、真花が挑発するように声を投げた。
「書かれてまずいことなんて一つもないわ。ただ、事情も知らない人間が予想で作り上げた言葉なんて不愉快だと言っているの」
奏は長い髪をなびかせながら、真花にまっすぐ言葉をぶつける。
「じゃあ、あたしが代わりに、今からお出でなする記者達とこれまでの事実を洗いざらい話すから。覚悟しててね♡」
おどけたように、ピースを向けた。
不愉快。まるで不愉快。
けれど、奏は顔色ひとつ変えなかった。それどころか――
勝ち誇ったような顔で。
「どうぞご勝手に……世界中の人達が、真花を信じてくれたらいいんだけどね」
その一言を最後に、奏に続いてマジエトの奴らは姿を消した。
✳✳✳
(とてつもなく強かった……きっとあのまま戦っていたら、真花は生き残れても、俺とエリオンは……)
まだ震えが止まらない手を見つめたまま、龍二は立ち尽くしていた。
そこへ、真花が軽やかに舞い降りる。
「あたし達も去ろう」
「え? けど記者や警察の人に話すんじゃ――」
「話さなくても、録画してある動画を流せばいいのよ。ヘンタイダーを倒したのはあたし達って、証明できるでしょ」
「けど……」
そんなに上手くいくのだろうか。半信半疑の言葉が、ふいにこぼれた。
「真花の言う通りだ! ヒーローはその場にいないのがお約束だ」
「エリオンまで……」
「そうと決まれば、撤収〜!!」
真花率いる真華決着団は、忍者のようにパチンコ店を後にした。
◇◆◇◆
おしくら饅頭のようにひしめき合う報道陣の群れ。
進入禁止の黄色いテープ。
騒がしい現場を背景に、黒いバンの中――深くタバコを吸い込んでいる斑が、小さく独り言をこぼした。
「ここからがスタートや……桜庭真花、いまは笑ろててもええ……すぐに、泣き声しか出んようにしたるさかいな」
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