魔法少女チームを追放されたのでイケメン集めてお前ら殺します

ベルガ・モルザ

プロローグ:追放♡暴行♡ゴミ扱い♡ぜーんぶ最初に詰めといたよ!

テイク-1【恋愛ができるって聞いたから、世界救ってきた。】


 春の陽射しは、ぜんぶを祝福しているみたいだった。東京の街が、まるごと笑ってる。

 空は吸い込まれそうなほど青くて、雲がすこし白々しく流れていく。

 舗道からビルの窓、非常階段の手すりにまで人がぎっしりで、ざわめきが波みたいにうねっていた。


 


「真花ちゃーん!!」


 


「我らのセンター桜庭真花さくらばまなか!! ありがとう!」


 


 白を基調に、襟と袖にピンクを差した魔法衣装。スカートの下から覗く黒のスパッツが、妙にリアルな印象を残している。

 真花と呼ばれた少女?は、花びらで飾られたオープンカーの中央に立っていた。ライトブラウンの髪はセミロング。光を浴びた瞳が、キラキラしたピンクに揺れる。


 


 その手がふわりと振られるたびに、あたりが爆ぜたように沸いた。

 拍手。歓声。泣きそうな笑い声。

 見上げている顔の、どれもが崩れていた。

 ――救われた側の顔。


 


 車列の終点、市庁舎前の広場。

 壇上には、あらかじめ設えられた銀のマイク。

 その横に立つのは、この国の大統領(おばあちゃん)。


 


「ヘンタイダーを全て倒してくれて、どうもありがとう」


 


 声色は柔らかく、装いは淡藤色の和洋折衷スーツ。

 しなやかにお辞儀をしたとき、スカートの裾がふわりと揺れた。



 


「アタシは、ただガムシャラに世界を救っただけです…… ね! みんな!!」


 


 真花の視線が、左右へ走る。


 


 右に、長い黒髪をまっすぐ流した少女?。

 左に、短髪の赤髪少女?。

 ふたりとも、真花と同じ制服姿で、笑っていた。


 


Magie♡Etoileマジエトワール殿。貴女たちの勇気と犠牲によって、我々の世界は、闇の脅威から解放されました。この表彰状と盾を、偉業を称え、贈りたいと思います」


 


 銀の盾。白紙のように眩しい表彰状。

 真花の両手にそれらが渡されたとき、歓声がまたひときわ跳ねた。


 


「ありがとうございます!!」


 


 その声に、大統領が目尻を細める。

 マイクスタンドの前に進み出ると、まっすぐな声で演説をはじめた。


 


 内容は――長い。

 国の未来とか、希望の象徴とか、そういうやつ。

 真花は途中で飽きた。

 手の中の盾が重くて、紙がくしゃりと折れそうだった。

 こっそり横を向き、黒髪の少女?に差し出す。


 


「真花がもらったものなんだから、失礼よ」


 


「いいからいいから〜 奏が持ってたほうが絶対映えるって」


 


 返事を待つ前に、ぐいっと押しつけた。

 奏――そう呼ばれた少女?は、しぶしぶ受け取る。


 


「では以上で、私の話は終わります。皆さん、もう一度Magie♡Etoileマジエトワールの皆さんに、大きな拍手を!!」


 


 拍手。歓声。風船が飛ぶ。

 色と音が、あたりを塗り替えていく。

 ――この世界で、いちばん幸せなのは自分だ。そう思える。


 


 あぁ〜♡


 


 これでやっと♡


 


「さぁ、車に乗ってください! 事務所に帰ります」


 


 スタッフの指示で、メンバーたちが乗り込んでいく。

 車内は静か。けれど――


 


 やっと♡ やっと♡ やっと♡


 


「帰ったらパーティーでもすっかー」


 


 後部座席のいちばん奥から、赤髪の少女?がぽつり。

 その声に、前席から奏が返る。


 


「ダメ。この後はインタビューだって言われたでしょ」


 


 真花は笑っていた。胸がいっぱいだった。


 


 これでイケメンと……


 


 両腕を天に突き上げる。


 


「恋愛ができるー!!!」


 


 


 誰も返さない。誰も笑わない。

 耳の奥で、自分の声だけが残っている。


 


 


 


 ……気づくと、事務所の控室にいた。


 


 誰も、口を開いていない。

 微妙な距離感。

 冷めた目。

 表情のなかに、ひくついた眉の動きが一つ、二つ。


 


「ア、アハハ……」


 


 笑ってごまかそうとしたけれど、

 もう、遅かった。

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