明晰夢

結 紗良沙

アリの行列

 気が付けば私は、どこまでも白く、物影も人影も、光によって投影される影さえもない異様な、どこまでも平らに広がっている空間にいた。

 しばらく歩いたところで、私は足元に端の見えないアリの行列があることに気づく。その行列はどこから来てどこへ行くのか。無限に続いていると思わせるほどの長さの行列である。別にすることもないので、そのアリの行列を眺めながら、時々アリをいじめながら暇をつぶいしていた。

 ふと顔を上げると、向こうから一人、人が歩いてきます。男なのか女なのかよくわからない人物である。

「この行列。どこにつずいているのですか?」

という私の問いかけに、その人物は無口のままで、アリの歩いていく方を指さした。

 私は、歩いてきた人物が誰なのか。何を伝えたかったのかわからない。

 その後も言葉を交わすことなく、その人物が去っていくのを見届けた。

 アリの行列を追って歩いてどれほどの時間が経過したのか分からないほど、ぼーっとしていた時のこと。わっと視界が暗くなる。上を見上げると、私のいるところに大きな影を落とすとてつもなく大きな、球体のような物体が宙に浮いて浮いていた。それが何か危険なものであることは、考える必要すらない。

 私は逃げる。全力で走ってその突然現れた物体から逃げる。

 逃げ切れたのか。それを確かめようと後ろを振り返った瞬間。私の意識を奪う―――。


 意識が戻った時。私はまた、何もない。ただ広いだけの白い空間にいた。そしてまた。すぐ近くにはアリの行列がある。

 アリの行列を観察していると、遠くから一人、人が歩いてくる。その人物は、私の目の前で立ち止まり云った。「これは、あらゆるものをはかいできるボタンです。」だがその人物は口を開いていない。そういったように錯覚しただけのようだ。

「これは一体、何なのですか?」

私は思わず質問をする。その質問に、人物は答えることはない。

 頭の上に現れた大きな物体が、足元に黒い影を映す。

 私は分かっている。これがさっき私を襲った物体であることを。

 私は途端に怖くなり、この場から走って逃げる。全力で。走れなくなるまで遠くへ逃げる―――。


 私は気が付くと、またアリの行列を眺めている。いや、踏みつけて遊んでいる。

 前を見ると、倒れている女がいる。意識はあるようだ。ただ、何か違和感を感じる。

 後ろに振り返ると、黒く大きななにかが私めがけて飛んできた。私は女の手を引き逃げようとしたが。

 それはまた、私の意識を奪う―――。


 私は、気が付くと走っている。何か恐ろしいものから逃げるために走っている。

 私は三人の人物に囲まれて立ち止まった。

 一人は男か女か分からない。一人は見覚えのあるモノを左手に握っている。一人は血を噴き出している。

 鮮やかな血の色は、白い空間に長くいる私の目には刺激の強い色だ。

 手に何も持っていない二人も、そろって左手を出す。いつの間にか現れている白い台には、一人が持っていた「ボタン」がおかれている。三人の左手は、それを押すことを進めてくるかのように白い台へ向いている。

 私は押した。無言の圧に耐えられずに押してしまった。

 私はまた。意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る