第30話 帰り道



「あーあ くそっ! なんだよおめーは!!!

一番ダメなのに 一番やっちゃいけないことなのに

おめーが変わりもんだからいろいろ話しちまったじゃねぇか!!! 知っちまったじゃねぇか!! 支離滅裂だったとしても!」


言いたいこと言ってスッキリしてんじゃん本条

表情も変わった わたしが霊能者だったら『憑き物が落ちましたね』って言ってやりたいくらい


「でもな ひさびさに嬉しかった 楽しかった」


「わたしはちょっとちがう」


「なにが? ホントはこんなのやだったんか?」


「そうじゃない! わたしにとって今日の出来事はひさびさなんかじゃない 初めての経験だったの!!! 言いたいこと全部言えた!みたいな経験今までなかった!」


「なるほど、確かに だったらおれも初めてだわ

かあさんにはケンカする度にいろんな文句言ってたけど いつの間にか諦めてた おれはここまで大きくなれたから『かあさんの人生』とか言って考えれるけど カイトやサキにとっちゃまだまだかあさんは必要なんだよ」


「だからガマンしてたんでしょ? ぶあつーーーい殻つくって 閉じ籠もって」


「なんでもお見通しですね? 神楽先生!」


アハハハハハハッ バカみたいに二人して笑った



「今日はありがとな神楽」


「こっちこそ」


「べつに神楽に言われたからどうこうじゃないけど まぁちょっと考えてみるわ 今みたいにスッキリした状況なら見え方も少し変わってくるかもしれんし」


「どっちでもいい それは。 本条が自分で考えることだ 好きにしたらいい」


「だけど、わたしはわたしだから 変わらないわたしで本条に接してくから」


「あぁそうしてくれ 助かる」


いつの間にかお互いの表情は空の明るさではなく外灯の明るさでしか確認できなくなってた


「すっかり暗くなってんな 気をつけて帰れな神楽」


「それはお互いさま わたしは自転車だしスイスイだ」


「そか んじゃまた月曜だな」


「うん また月曜」


お互い後はさよならの挨拶だけかと思ってた


「あのさ神楽 連絡先交換せんか? 帰ったらおれの本棚の写真送りたいな って」


少し言いにくそうに話す本条 気持ちわかる

本条の読んでる本は確かに気になってた


「なるほど名案! わたしも本棚写真撮る!」


わたしと本条は連絡先を交換した


「んじゃホントにバイバイ またなー!」


そう言って本条は走って帰って行った

わたしはところどころ外灯に照らされる本条の姿を少しの間見送ってた


本条と話した帰り道 めちゃくちゃ体が重かった

肉体的にも精神的にも疲れてるのがわかった

本気で話すってこれだけパワーがいって体力使うんだって思った 体の疲れとは裏腹に充足感があった

17年間生きてきて一番の充足感と言っても過言じゃなかった


「ただいまぁーー!」


遠く長い道のりに感じた我が家に着いた

玄関に入った時 家の灯りにホッとした

毎日毎日ずーっと見てるハズの景色なのに


「おかえり 遅かったね 買い出しちゃんとできたの?」


ママの声が聞こえるのと同時に夕飯の匂いがしてきた


「ママぁー 今日の夕飯クリームシチュー??」


ママへの返事よりも先に質問してた

だってもうヘトヘト&おなかペコペコだったから


「せいかい もうすぐ食べれるから早く用意してきなさーい」


わたしはクリームシチューを食べてる自分をイメージしてた なんなら味も脳内再生されてた

《ぐぅ~〜〜》ってお腹が鳴ったように感じた




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