第13話 帰り道



ー キーンコーンカーンコーン ー


6限目の終了のチャイムが鳴った

わたしは本条くんが約束をすっぽかさないとも限らないので急いで校門へと向かった

6限目は選択授業で本条くんとは別だったから


「ネオンちゃん急いでるのね 本条くんとの約束あるから?」


事情を知ってる花凜ちゃんが声をかけてくれたがわたしはとりあえず今は急いで校門に行きたかったので

「うん! そう!」とかるく返事をしながら先を急いだ クスクス笑いながら「慌てなくても大丈夫だよ」って花凜ちゃんが言ってるのが聞こえたけど


校門に着いたけど下校してくる生徒はチラホラだったので さすがにまだ来てないなと思った

しばらくして花凜ちゃんが友だちとやってきた


「まだわたしたちの授業終わった時は本条くんたちの授業終わってなかったよ せっかちなんだからネオンちゃん」


「そうだっけ?」


なるほどそれでさっき大丈夫って花凜ちゃん言ってたんだ


「じゃ先に帰るねー」


そう言って花凜ちゃんは友だちと帰って行った


「うん また明日ー! バイバイ!」


そう花凜ちゃんに挨拶してわたしは視線を校舎にうつす いた!一人でカバンを後ろ手にさげながら本条くんがやってきた


「ほんとにいたんか 物好きなやつ」


そう言ってわたしの前を横切ろうとする本条くんにわたしは並んで着いて行った


「約束だから ちゃんと聞かせてもらうから」


わたしはわたしが一方的に押しつけた約束でも守ってもらおうと思ってた


「んー、そうね なにから話そ ちょっとオレのこと知ってもらわんと意味わかんねと思うから」


「てか、おまえ背高くね??」


そう言ってわたしの方をチラッとうかがう


「なに今更言ってんの?? 帰る時間もあるんでしょ 端的に手短にお願い」


わたしは別に本条くんに興味があるんじゃないから

ただ『赤毛のアン』と本条くんの関わりに興味があるだけ


二人並んでとぼとぼ歩く

わたしが話しを切り出そうとしたタイミングで本条くんが話しだした


「オレさ 親の都合で小さい頃から転校多かったんよ 知らないと思うけどここも転校してきた 1年の夏休みに」


え、高校で転校とかできんの? 去年の夏休みってわたしが陸上必死だった頃よね 


「知らなかった それで?」


「友だちできてもすぐ離れることが多かったから いつの頃からか友だち作らないようにしてたんよな どうせ離れるんだし」


「それってつらくない? 学校楽しくなんなくない?」


「だからつらくならないようにしてたんだよ 仲良くなったら転校とかなってつらくなるだろ」


どうでもいいって思ってた本条くんの過去のハズなのになんか感情移入してた


「学校は楽しかったし 友だちもいたけど それは学校だけのおれの顔だったんよ」


なんかわかる 


「いつの間にか一人で楽しめることを探してたんだろな それが読書だったってわけ」


なにそれ 一緒なんですけど


「『赤毛のアン』はな そんとき小4の時だっけかな 先生に薦められたんよな オレが一人で本読んでるの見てたんだろな。 アンの境遇や前向きな性格におれはなんか感情移入しちゃってめちゃめちゃハマったの覚えてる おれももっと日々を楽しもうって思えた」


なにそれ 一緒なんですけどっ!!!


「中学生くらいになるとな その日々を楽しもうってのもだんだん難しくなってくる 幼い頃の誰とでもすぐに友だちになれてた時代が懐かしくなるようにな

だからおれはアンを読んだときの気持ちを忘れないように『お守り』代わりに本を持ってんの」


「ま それでも日々を楽しめてるのかなんてわかんねえんだけどな」


なにこいつ 

上手く言えないんだけど なんかわかる


「な どうでもいい話しだろ 大した理由じゃねぇわ」


まただ なんでそういう言い方すんのかな


「どうでもよくないから 勝手に決めないでくれない? わたしの感想 わたしが思ったことは本条くんに決められたくない」


やばい わたしまた興奮してる


「思ったよりしっかりしたこと言えるんだな」


わたしに笑いながら言ってくる本条くん

わたしのことバカにしてる?


神楽かぐらはなんでそこまで『赤毛のアン』に入れ込むんだ? そりゃ女子だし読んだことくらいはあるかもだけど」


「わたしも小学生の頃いろいろあった まぁ中学もなんだけどね」


「一人になることも多かったし自然と本の世界にハマってく要素はあった」


「神楽が? なんで? おまえみたいなチヤホヤされそうな陽キャが??」


なんか本気で驚いた表情してんのムカつくんだけど

去年転校してきたやつになにがわかるってんだ


「あのさ わたしのことなんも知らんくせに見た目だけでそういうこと言うな?」


キッと本条のこと、本条くんのこと睨みつけてた

わたしのナニかに触れたのを悟ったのか本条くんは


「たしかに なんも知らんもんな ごめん

んで? 話しの腰折った すまん」


フーっと息を吐いて落ち着く素振りを見せてわたしは続きを話した


「小学校ですごくイヤなことあって わたしは悪くないって思ってても周りはそう捉えてくれなくて 更に一人になったような気がしてて そんな時に図書館で読んだ本が『赤毛のアン』だった」


「どんな時も自分を信じて前向きに強く生きてくアンにわたしは励まされ教えられた気がした ただの文字って思ってる本がわたしに力をくれた わたしも強く在りたいって思った」


「そのための努力も惜しんじゃダメって教わった

だから今のわたしが在る わたしにとってそういう本が『赤毛のアン』なの」


なんか本条くんの話しよりわたしの話しになってるような気がして 我に返って恥ずかしくなった


本条くんの方を見ると彼は真剣な眼差しをしてた

なにか考えてるようにも見えた


「ガチじゃん 神楽ガチ勢じゃん」


「は? なんそれ??」


「本読むだろ おまえ?」


「まあ、うん」


「だろうな 全然そんなふうに見えんのに 結構孤独なんだな」


天を向いて笑いながら言う本条くんにわたしは不思議と腹が立たなかった


「あ、おれこっちだから ここまでだな」


「え あうん」


「正直めんどくせーっておまえのこと思ってたけど

やっぱ話してみんとわからんもんだな」


「ありがと 楽しかったぜ 話し聞いてもらってなんか軽くなったわ」


「ちょ、わたしまだ話しきってないよ」


「それでもおれはこっち また機会があればな

バイバイ」


そう言いながら後ろ姿でわたしに手を振って歩いていった


「勝手なやつ」


ーまいっかー 本条くんと『赤毛のアン』の関係はわかったし理解もできた

わたしと境遇はちがってもなんか似てた


【孤独】… ヤな言葉 


でもそれが彼との共通点なんかな

もやもやしたようなスッキリしたような そんな気持ちを引きずってわたしは帰った








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