箱入り娘のご令嬢は、夜釣り青年と肝を冷やしたい

酒向ジロー

第1話 補修とクラスメイトのち肝試し

 高校二年の夏、俺は担任の教師の高橋に呼び出しを受けていた。


 呼び出し理由は、欠席した授業の補修を受けるため。

 

 補修は、所属する二年二組の教室で行われることになっており、俺は炎天下の中、自転車をこいで学校へと向かっていた。


 教室にたどり着くと、そこにはクラスメートである一条が着席していた。


 どうやら彼女も補修らしい。


 俺は、若干の緊張を抱えながら教室に入ると、彼女は顔を上げて俺を見つめてきた。


「あ、おはよう山藤君」

「えっ、あぁ、おはよう」


 普段は互いに挨拶を交わす事もない相手との交流、それはどこか不思議な感覚だった。一条の奴、俺の名前知ってたのか・・・・・・


「山藤君も補修?」

「あぁ、そんな感じ」


「サボり?」

「いや、ちょっと修行に行かされてて」

「ふふふっ、なにそれ?」


 俺の返答に一条は笑った。彼女のこんな顔を見た事がなかっただけに、俺はその顔に見惚れた。


「いや、うちの家なんか変に厳しいからさ」

「そうなんだ、大変だねぇ」

「あぁ・・・・・」


 それとない会話だが、それを境に会話は途切れた。その間に俺は自分の席に座ると、それを見計らったかのように一条が再び話しかけてきた。


「ちなみに私はサボりだよぉ」

「え、そうなのか」


 一条はクラスでも人気の優等生だ。実家が太くこの辺りでは知らない人がいないくらい有名なその苗字を背負う彼女がサボりか・・・・・・ 


「なんかさぁ、学校をさぼるのってすごく背徳的でしょ?」

「俺は罪悪感で落ち着かないな」


「私はすごく楽しかったよ」

「そうか、それより高橋は?」


「先生は職員室、それから補修の課題は教壇にある机に置いてあるよ」

「あぁ、ありがとう・・・・・・」


 ここで再び会話が途切れた。


 普段からクラスメートと喋る機会がない俺にとって、これだけ長時間会話したのはとても新鮮だった。

 しかも、それが女子相手だなんて事は、高校生活の中でも一番の青春イベントになる事だろう。


 なんてことを思いながら教壇に向かい、課題のプリントをもって再び自分の席に戻り、補修の課題に取り組むことにした。

 それからしばらくは無言で課題に取り組んでいると、ふと、一条の姿が目に入った。

 

 彼女は両手を上げて《伸び》をしており、その様子に俺は課題などそっちのけで見とれてしまった。


 するとそんな時、一条は唐突に振り返ってきた。


「山藤君っ」

「えっ、なっ、なんだ?」


「いきなりだけどさ、心霊スポットとか行った事ある?」

「・・・・・・ないけど」


「そっかぁ、一回行ってみたいんだよねぇ」

「そうなのか」


「うん、今日にでも行こうかと思ってるんだよね」

「そうか」


 これは俺を誘っているのか、それとも止めてほしかったりするのか、いったいどちらなのだろうか?


「S山にあるKトンネル、あそこに女の人の幽霊が出るんだって」

「へぇ」


 一辺倒の返事を返す俺に対して、一条は特に何かを言ってくる事も無く、嬉しそうに話していた。


「あのね山藤君、私にもしものことがあったら、山藤君が証言してねっ」

「おい物騒なこと言うなよ、まさか一人で行くわけじゃないんだろ?」


「え、一人だよ」

「は?友達とかと行くんじゃないのか?」


「私、友達いないし」

「いや、だからって女一人で心霊スポットなんて」

「じゃあ山藤君、ついてきてくれる?」


 一条の唐突すぎる依頼に疑念で溢れたが、それよりも彼女と心霊スポットに行く事ができるという青春に心が惹かれた。


「・・・・・・」

「じゃあ、今日の夜0時に学校前で待ち合わせね」


 一条はそう言ったのを最後に一切俺と会話することなく、やがて俺たち二人の補修は終わった。

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