第4話 有能すぎるNPC
人生の分岐点なるもの、誰にでも存在する。
「あなたの選択が、恐れではなく、希望を反映したものでありますように。」
――ネルソン・マンデラ
絶望に満ちあふれていた町工場の
羽を伸ばすはずの温泉旅行で異世界に飛ばされ、
体の動くままに3棟の建物火災の消火作業を行っていた。
ただ、本人は勝手に夢の中のRPGだということにしているらしい。
実際に自分の頬を叩いて「現実だ」って言ってたんだけどな。
「緊急事態!緊急事態ッ!上層の倉庫から火が出ました!動ける方、水を持っていってください!!」
見張りをしていた少年が村内を叫び回る。
「僕も貢献しないと....。」
火事が起きると、体力がある子どもは、この村では井戸か川から水を汲んで走り、
水を掛けて戻ってきた大人に渡すことになっていた。
少年はルールどおり、井戸から水をくんで階段を駆け上がる。
井戸のあり、家々の中心となって栄えている村の下層から、
火事が起きた上層までは、207段の割と急な階段を越えなければならない。
途中、先に水を渡せたのか、空のバケツを両手に下げて駆け下りる少女とすれ違う。
バケツ2つということは10L弱の水を持って駆け下りる10前後くらいの少女。
現代社会で暮らす我々からすると目を疑うような話だ。
少年も、合計10Lほど入る、水桶が2つ吊り下がった天秤状の道具を肩に担いでいる。
桶に蓋を被せて水がこぼれないようにしてあるが、
上下に揺れる水を吊り下げる棒が肩にかける負担は想像を絶する。
さらに一度走り出すと、なかなか担ぐ肩を入れ替えれないため、
疲れはより一層蓄積される。
「おつかれ!ファイト!」
八百屋のおじさんに応援をもらう。
より一層、足に力を入れる。
あれ?でもなんで大人が水を貰わずに下まで走ってるんだ?
鎮火したならその都度誰かが祝いながら村を練り歩くはずだし。
いつもと違う状況が起きているのか...?
「お?誰だ?火はちょうど今鎮火したぞ?」
なんだこのダサいおっさん。
俺は荻原悟23歳。
あれから6往復ほど水を汲んではぶっかけ、汲んではぶっかけた。
さすがは寸動鍋と土鍋、どちらも非業務用としては最大レベルのサイズ、
合計95L弱が入るのはデカく、中央の作業小屋らしき建物は
頑張れば生身で入れそうなくらい、鎮火に近づいていた。
そしたら強面のおっさんら5、6人がバケツ両手に担いで来たもんだ。
よくよく見たら川の反対側はめっちゃ急な階段がズラッと並んでいた。
...これをアイテムボックス無しで両手に水入りバケツでよく走ってきたな。
異世界(仮)怖え...。
普段あんまし運動をしない俺はもう足がパンクしていた。
外から見ても腫れていたらしく、おっさんらは速攻悟った。
「お前....見ない顔だな...。」
ハイハイ。異世界転生物の定番セリフっすね。
緊急事態の前でも一周回って言ってくるのかよ。悟った顔はなんだったんだよ笑。
NPCでも緊急イベント発生時は言うこと変わるでしょうが笑。
そう思ったのもつかの間、
「真ん中の小屋には多分人が居る!俺達は救助しつつ中から水をかけて完全に沈下する!」
いちはやく状況を理解したNPCが言った。
「なら、多分バケツ5杯あれば足りるだろう。
お前、残ったバケツで両サイドの倉庫の消化をしろ。」
隣にいたいかにもガリ勉の少年時代を送ってきてそうなNPCが続く。
つーか消火に必要な水の量直感でわかるって、どんだけ火事経験してんだよ。
「旅の者か知らんが、お主、だったらまずは左奥の倉庫から頼む。
あそこは燃料用の木材の乾燥小屋だ。
燃えにくく建ててはあるが、もうじき外壁が崩れるだろう。
できれば中の木材に引火する前に消火したい。」
ドワーフっぽいNPCから指示を受ける。
ここまで指示してくれるNPC竹端先輩なみに優秀じゃねえか。
「湿気ってる木がまだ残っているだろう。
ここらエルマトラ山地の木は爆ぜると水素爆発が起こる。
万が一、白っぽい光を発したら爆ぜる前兆だから、
そしたら一旦水をかけるのを止め、距離をとるように。」
そういって、おっさんらはバケツを半数ほど持って小屋に突撃していった。
ってかこの世界の木爆発するん!?怖すぎるだろ!?
そうもなれば、とっとと火を止めなけゃ命が危ない。
アイテムボックスから土鍋を取り出す。
そして、円盤投げの如く勢いをつけて体を一周回す。
水が屋根にまかれる。
どうやら燃えにくいというのは本当らしく、屋根の表面の炎は弱まり、
焦げてはいるもののまだはっきりと燃える前の形が残っている。
続いて寸動鍋を取り出す。
扉に中を覗く用っぽい穴が空いてたもんで、
そこをめがけて水をぶっかける。
幸いなことに中の材木に火はつかなかったらしく、
窓から黒煙が出てこない。
「オラァああああ!」
違うおっさんらが壁に水を放った。
すぐにNPC第一陣が残したバケツを見つけ、反対側にもぶっかけている。
たいていのゲーム、こうやって自分でやるタスクが出たら
もうNPCは手伝ってくれない。しかもここまで判断するNPC、
なかなかプログラマーはそこまで設定しないだろう(偏見)。
ということはこいつら、俺の夢というRPGのNPCではなく、
ちゃんと脳を持った人間なのか...。
だとしたら本当に俺は異世界に来ちまったってことか...。
俺は膝をつきたい気持ちでいっぱいだった。
その間にもNPシ....ゴホン。ここの人たちは優秀で、
ちっちゃい子供たちが水を持ってきては屈強なおっさんらが水を投げ込む。
途中、小屋から担ぎだされたけが人をあらくれみたいなやつが担いで
階段を駆け下りてった。
みるみるうちに、俺が始めた頃は世紀末みたく、
えっぐい炎だったのに、跡形もなく収まっていった。
おっさんたちは速攻、みんなに報告するっていって
道なき道、というか崖を滑り降りていった。というかほぼ自由落下していった。
異世界のおっさんたち頑丈すぎるだろ。
入れ替わるように、階段からバケツ2つを棒でくくりつけた、
なんか江戸時代の農民が使ってそうなヤツをかついだ子供が階段を登ってきた。
「お?誰だ?火はちょうど今鎮火したぞ?」
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あとがき
今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。
今後の執筆と、受験勉強のモチベーションにつなげたいので、
ご感想を寄せていただけると幸いです。
次回もどうぞお楽しみに。
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