無感情な僕と彼女の話
刺身まる
第1話
とある街のとあるビル。かなりの高さがあるこの場所で、僕は彼女の話を聞いていた。
彼女とは二年程付き合っている。名前は雪。
「私の言うことに関して反応はいつも肯定。
反発はなくいつも同じことの繰り返し。ケンカもしないしどこかに出掛けるとしても行ったことのある場所ばかり。冒険しようともしないし。髪型やファッションもいつも同じ。」
こっちを見ながら僕についての嫌み?悪口?
を言う。ってかちょっと前に旅行に行ったばかりだろう······
「毎日好きも愛してるもあんまり言われないし。ほんとは私のことどう思ってるの?嫌いなら言えばいいのに。別れたいなら言ったらいいじゃない。」
彼女はうつむきながら言う。
嫌いなんて思ったことは一度もない。日々会うことに喜びを覚えるくらいには好きだった自信がある。あっちはどうか知らないけど。
「今だってこんなに言われて言い返しもしないし。感情がないみたいに薄ら笑いを浮かべて、こっちを見ているだけ。」
そうだね、自分でも自分の顔がなんで笑ってるかわからないんだ。言い返せないのはいつものことだけど、今は本当に自分がわからない。付き合って二年にもなる彼女に一昨日から悪口を言われ続けているからかな。
「あんたなんかよりも先輩の方がよっぽど一緒に居て楽しいわ。もっとあんたも変わったらいいのに。」
うつむきながら続ける。
僕が変わったら、僕が変わったら君は僕のことをもう一度見てくれるのかな。誉めてくれるのかな。愛して、くれるのかな。
僕の料理を食べて美味しいと笑ってくれるかな。
僕が選んだ服を見てなにそれと笑ってくるるのかな。
・・僕のことをもう一度名前で呼んでくれるのかな。
「・・・聞いているのかしら。空を見てもあなたはなにも変わらないわよ。ダサイ服を着て、髪も整えずに、メイクや洗顔もやろうともしない。」
それは違うよ。これでも洗顔にはしているし保湿や化粧品も使っている。メイクはまだ君に見せられるほどのものじゃないから。髪もセットしてきたつもりさ。まだこるも練習中だけど。
「・・何で言い返しもしないの?何で私を見ているだけなの?何で、、何で先輩と一緒にいても話しかけもしないし別れ話もしないし、、、」
彼女の手が震える。
そりゃ君に嫌われたくないからね。見間違いだと信じたし扱いも変えなかった。君はまだ僕の彼女でいてくれていたことが、それだけでも嬉しかったから。間違いはたださないと行けない。でも君に何か言えるほど僕は正解を選んでいない。君と違って夢はあきらめたし、自分を磨くことも最近になってからだ。
だから君がやっている行為を、まちがっていると感じても僕は言ってはいけなかった。
「、、、しゃべって」
僕の目を見る。何日ぶりだろう。君に言われたのなら、喋るさ。大道芸のピエロみたいに踊っても良い。ここから飛び降りるのは嫌かな。
「人間ってさ。満足しないんだって。」
雪の目を見る。不思議そうに此方を見ている
その目には、僕の情けないような笑みが写っていた。
「百万が手に入ったらに百万を。一億が手に入ったら二億を。常に何か新しいことに飢えているらしい。」
「・・何を、言って・・・」
「僕はさ。欲しいものって言うのがほとんど無かったんだ。昔からね。」
でも。
「でも、君だけはさ。君だけは会ったときからずっと欲しかった。いつものルーティーンの中に、もしくは自分と言う消えかけている存在の中に、君と言う光が欲しかったのかもしれない。理由は何でも良いけど、君と言う存在が、僕の一部になって欲しかった。もしくは自分が君の人生の一部に張り付いて居ることに、何か唯一の存在証明になっていたのかもしれない。」
雪は呆然と此方を見ている。
「君が繰り返すだけの日々が嫌いなのは分かっていたつもりだし、刺激を求めて先輩と遊んでいたのも、友人から飽きるほど聞いた。
その度自分が知っていることを隠して驚いていたよ。先輩が直接分かれるように言ってきたこともあったけど。」
雪は大きな目を見開いた。珍しいな、こんなに感情を出すのは。
「もしかしたら、今ここで。僕は君と分かれるのかもしれないね。それは君の選択の自由だ。僕が口を出して良いように思ったことはない。ただ、ただひとつ言っておきたいのは」
雪の相変わらず綺麗な顔をじっと見つめながら、ただ一言だけを言う。
「僕は君を愛していくよ。分かれても、離れても。家族でも気味悪がって愛してくれなかった中、一瞬でも僕を愛してくれた、たった一人の、人で、彼女だからね。」
雪は泣いていた。
僕は慰めて良いのか少し悩んだが、しゃがんで泣いている彼女を見ていることはできず、結局慰めていた。
あとになって、雪は先輩との関係をたったらしい。あの話し合いのとき、本当は謝ったり本当に思っていることを聞きたかっただけなのだとか。良かった。別れ話じゃなくて。
あとはあの時の悪口などを謝って来たり、
朝も昼も夜も「愛してる」と言ってくるるようになったり。くっついてきたり在宅ワークに二人でしようと言ってきたり。
こんなことは仲が良かった頃でもなかったため、理由を聞いてみたら、
「私しか愛して無いんだったら私が十人分でも百人分でも愛してあげる。それが私の義務であり責任でもあるし。まぁ楽しいし事実だから苦でも何でもないけど。」
だそうだ。
あの時の話し合いは無駄でも何でもなかった。難なら言って良かったのかもしれない。
おそらくこの関係はずっと続くのだろう。
次に大事な人が増えたら、次は僕のようにならないよう、精一杯頑張らないと。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
作者です。刺身です。
取り敢えず書きたかったことは書けました。
じゃァここら辺で。唐揚げになる予定があるので。
無感情な僕と彼女の話 刺身まる @souma0926
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