明日への焔

 バエルがネプチューンをカードへ戻すと同時にディオンへのユナイトの効果も切れて魔槍が元の姿へ変わる。

 フレアフォースの効果も切れてヒレイが纏う光も消え、だが人数的な有利もありエルクリッド達に疲労はもちろん諦めの色はない。


 一方のイリアも少し落ち着いたのか放たれる重圧が軽くなり目に宿る怒りも薄くなっている。言い換えれば冷静になったと言え、これまでのやり方も恐らく通用しないと伝わる。


 余力はある、だがそれすらも一瞬で変わる相手である事がエルクリッド達にとっては不利な要素。冷静になる程に綱渡りをさせられている状況、しかし終着も見え始めていると。


「で、具体的にどうする。動きを止めるにしても結界張られたり自分ごと撃ち抜いて脱出されんじゃ意味がねぇ」


「そこが難題ですね。結界に関しては破る事はできても、その直後の衝撃波のせいで逃がす猶予を与えてしまいますし……ですが、恐らく次の攻防で終わりです」


 シェダが話を切り出すとリオが答えつつカードを引き抜き、呼応する形でローズも霊剣アビスを構えディオンも攻撃態勢へ。


 イリアの攻撃手段や能力はほぼ把握できた。あとはそれを乗り越えて撃破まで持ち込むのみ。

 そんな中でエルクリッドは深呼吸をして目を閉じ、心の中に血の水鏡に映る己の姿を思い浮かべ、そっと手を触れ鏡の中の自分の髪色が黒へと変わるのを感じながら魔力を滾らせていく。


(あたしの中にある力……前に行く為に、使わせて……!)


 エルクリッドの思いと共に赤い髪が黒へと変わっていき、そして引き抜かれるのは黒きカード。そのカードの持つ波動はバエルも一瞬目を向けるが、すぐにエルクリッドが平静でいられているのを確認すると前へ向き直る。


「隙を作ってやる、それまでお前らはその時を待て。行け、サターン」


「手伝いますよバエルさん、流石に一人では厳しいでしょう。天に描くは叡智の息吹、舞台を画いて来いデュミニ!」


 エルクリッド達へ声をかけながら前へ出たバエルがガーゴイルのサターンを、それに追従する形でハシュもワイバーンのデュミニを召喚し臨戦態勢へ。


 二人の強者の動きにディオンとローズも左右に退いて道を開け、重厚な身体を動かしサターンがゆっくり進みデュミニも翼を広げ身体を浮かせた。

 刹那、イリアが羽撃くと共にデュミニが低空飛行で前へ進み、サターンもそれに続く。天より降り注ぐ星の雨を容易くかいくぐったデュミニはイリアの真下から急上昇して近づき、サターンも流星の雨が止むと同時に急停止し両手を合わせ岩塊を手の間に作り出す。


「スペル発動ドラゴンハート! そしてもう一枚、ウインドチェーン!」


 デュミニへの強化スペルと風の鎖による拘束を同時にハシュが発動し、それに合わせサターンが作り出した岩塊をイリアへ投げ飛ばす。

 すかさずイリアは翼を硬質化させて巻き付く前に風の鎖を断ち切り、同時に作り出す小さな流星で岩塊を撃ち抜いて粉砕する。そこへ超高速で接近したデュミニが背後をとって翼の付け根を足で掴み爪を食い込ませ、その場で弧を描くように飛び始めた。


「よしデュミニ、そのまま抑えてろ! バエルさん!」


「スペル発動アースバインド」


 魔物の中でも高い飛行能力と握力を持つワイバーンに捕らわれては逃れるのは難しい。弧を描き目を回させるような動きを取るデュミニに対し自ら諸共イリアは流星を放ち撃ち抜かんとするが、それよりも速くデュミニは飛行し抑え切る。

 その間にバエルが使ったのはアースバインドのカード。だが地下より生えた木の根が拘束するという関係からイリアには当たらない、しかし、バエルはサターンを拘束しエルクリッド達の目を丸くさせた。


「サターン目掛けて突っ込め、準備は終えた」


「準備を終えたって……あっ!」


 バエルの意図を理解したエルクリッドの脳裏に勝利への道が切り拓く。闘志宿る目の輝きが増した彼女を見てシェダとリオもバエルの言葉を信じ、意を汲むディオンとローズがサターンに目掛けて走り出す。


 エルクリッドは黒きカードを見つめ使うかを考える。危険な力、だが今、いやいずれその力と向き合わねばならないのならばと覚悟を決めた。


「あたしに宿る力……前に進むのに使うよ……!」


 デュミニの拘束を脱したイリアがお返しとばかりに翼の刃で切り裂き、さらに四方から放つ流星で撃ち抜きその衝撃がハシュに襲いかかり全身から血が飛ぶ。

 だがそれにバエルは目を向けることなく、ディオンとローズがサターンと距離を詰め攻撃の為に止まる一瞬にカードを切った。


「スペル発動ゴーストップチェック、拘束された対象と動いている対象を入れ替える!」


 刹那にサターンとイリアの位置が入れ替わり、間もなくディオンとローズの魔槍と霊剣が神鳥を捉え刺し貫く。

 何が起きたかイリア自身、一瞬理解が及ばず、頭を上げた時目に映るのは火炎を燻ぶらせた火竜の姿だ。


霊術スペル発動エルトゥ・ラース! 古の焔よ、あたし達に進む力を……!」


 黒きカードが一瞬白く閃光を放ち、刹那に身に滾る力を込めてヒレイが炎の力を高め一気に放つ。その炎は白く清らかなる炎であり、見惚れてしまう程に美しいもの。

 だがすぐにシェダとリオはそれぞれのアセスをカードへと戻し、その瞬間、白き炎がイリアを捉え祭壇ごと焼き払った。


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