星の怒り
タラゼドの助言から何かを掴んだエルクリッド達が思考を張り巡らせる間、イリアは滞空し続け全てを見下ろすようだった。
神獣というエタリラ全ての上に立つが故の傲慢さか、あるいは警戒し様子を見ているだけかは定かではない。
ヒレイはいつでも飛翔し攻撃へ移れるように身構え続け、ディオン達も足に力を込めて臨戦態勢を維持し続ける。
滝の流れる音、その飛沫、空気、涼しさの中に緊張という糸が微かに震え張り詰めていく。沈黙が続く戦況の中、最初に動くはイリアだった。
ばさっと大きく音を立てながら翼を羽撃かせると空が光り、地上めがけて流星がいくつも降り注ぐ。
すかさずヒレイが飛翔しつつ口内に蓄えた火炎を吐きつけ流星を焼き尽くし、その炎を突っ切り接近してきたイリアが瞬時に翼を硬質化させ剣とし切りかかる。
「ツール使用、ミスリックアーマー!」
振りぬかれたイリアの剣がヒレイを捉えた瞬間、ヒレイの身体をミスリックアーマーが覆い切りつけられた部分から血が飛ぶ。しかし傷は浅くヒレイはイリアの頭を掴むと力任せに真下へと投げ飛ばし、だが瞬時に翼を広げ空気抵抗を増やしたイリアは留まる。
刹那、背後より迫る投げつけられた魔槍の存在感をイリアは感じ取り身を翻しながら翼を刃とし防ぎ止め、それと同時に魔槍に繋がる鎖を引いてディオンは武器を手に戻す。
「武装召令、そしてスペル発動ユナイト……流石に不意討ちしたくらいじゃ傷もつけられねぇか」
ヒレイが攻める間にヤサカをカードへ戻し、武装召令で武器だけを再召喚しそれをユナイトで魔槍とシェダは合成させる。神獣というだけ容易には突破できない、しかし、次なる一手があるのをイリアは感じ取るがそこへヒレイが急降下し翼を掴み捕らえ、動きを封じ込めながら祭壇へ叩きつけた。
「スペル発動アースバインド! リオさん!」
藻掻くイリアへ追撃のアースバインドによる木の根が身体を締め上げ、その状態で降り注ぐ流星はディオンの魔槍による黒き雷の一撃が全て貫く。
刹那、天を舞うは戦乙女ローズ。その手には霊剣アビスが握られ、ヒレイを挟む形で位置につくと空中を蹴り一気に霊剣を突き刺しに行った。
霊剣が刺さる僅かな瞬間にヒレイは離脱し、イリアも逃げようとするもアースバインドの拘束が完全に振り解けずに足に絡まって一瞬動きが止まる。
刹那にローズの一撃がイリアの胸を刺し貫く。確かな手応えとその姿を見てエルクリッド達の表情に歓喜の色が浮かぶ。
「やった……!」
「まだです!」
喜びを緊張へ引き戻す声を最初に上げたのはローズであった。確かな手応えからイリアを貫いたのは間違いないが、その目に宿る憤怒の色を察してすぐに剣を引き抜きながら離れようとした瞬間、猛々しいイリアの叫びと共に放たれる重圧が衝撃波となり祭壇を揺らし、天地を鳴動させ晴天に雲を呼び暗雲で覆い隠す。
神の怒り。心身に理解させられるそれはかつてない恐怖を煽り、揺るがぬ闘志を持っていても身体が震え上がる程のもの。
神の逆鱗に触れた、その事実は紛れもないが今更臆してられないとエルクリッド達はカードを引き抜き、刹那、翼を刃としたイリアがローズへ切りかかり、それを盾でローズは防ぎ止める。
瞬間、イリアの背後に青白い光の玉がいくつも現れ、イリアがローズを弾き飛ばすと共に光の玉がローズへ向かって放たれ襲った。
「ローズ!」
(能力の同時行使……! ですが、これでイリアの能力も明確になってきましたね……!)
腕や足が削がれリオにもそれは反射し血が流れるが、致命傷に至ってない事もありローズの分析がリオへと伝わり冷静さを促す。
翼を広げローズは急停止し顔を隠す兜も少し欠けるが前を見据え、イリアの向ける怒りの眼と重圧に霊剣アビスを向けて応じディオンが隣に立つ。
「無理をするな戦乙女、下がって構わない」
「いえ、この程度で退いては皆様の為にはなりません。まだ、戦えます」
そうか、と素っ気なく返しながらもディオンはローズの状態を横目で確認する。左上腕と右足側面、左肩と右手の甲をイリアの攻撃で削がれ血を流すも深さは然程でもない。
しかし、ただでさえイリアの剣の鋭さと力強さがあるというのにそこに流星を加えた攻撃となれば厄介極まりなく、また、ローズが貫いたはずの傷がイリアにないことから、癒やしの力は自身にも使えるとわかりディオンの額に汗が流れた。
(長期戦は不利……か。シェダ、どうする)
(攻撃力を上げて一撃必殺、って言いたいけど、まず当てるとこから難しいか)
(そうだな……しかし、やらねばなるまい)
たとえ神獣であろうと消耗はする。それは間違いない事実だ。
しかし現実可能とするには相応の力が必要であり、イリアの持つ癒やしの力を超えるとなれば尚の事である。
かの神獣を倒すには一撃必殺の威力を確実に当てねばならない。難題、だがそれをせねばと思うと臆してはいけないとエルクリッド達は前へ一歩踏み出しながらカードを引き抜く。
「ヒレイ、まだやれるよね」
「あぁ。だがまだ倒せる程神獣は弱ってはいない、それを倒すにもな」
深く息を吐きながらエルクリッドはヒレイの言葉を受け止め考える。今の状態を神獣を怒らせる段階までは攻められたと思えば前進と言え、それでもまだ終着には遠い。
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