魔法精霊ドライ=アイド 

椋鳥

幼児期編

第1話 1000年後の空から

ラヴ天才テンサイ魔法チカラ

この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。

私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。

「…………………………………………」

人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。

世はまさに、私一色のジダイ


トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッルッー

タンタンタン

見つけた あの森のなかに

ずっと 探してた タンタンタタタン

君が 落とした

星の カケラ ソウソウソウソウソウ

いまさら ごめんね

駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ

射抜きたい その笑顔 

いまならば できるはず フワフワフワフワフワ

その心に 従うよ☆

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッルッー


主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」

作 ドライ=アムガミスタ

曲    〃


異世界における少女とは?

――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。

異世界における???とは?

――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。

つまり、森の精霊。

私はそれになりたくて、それに憧れて。

何十年も彷徨っていた。そして……


【ドライ999年・キャスター島】


痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

これぞ正に忘我の一時。総頭から叫びたくなるほどの流転。

頭から爪先にまで駆け巡る糸のような感触が、私を掴む。

痛い痛い痛い痛い痛い。

夢の終わりか、はたまた革命の狼煙か。

精神こころを犯す別種の呪いいたみがいたぶるいたぶる。

痛い痛い痛い痛い。

玉響の安息など糞だと言わんばかりに揺さぶられ、地をえぐるように倒れる。

痛い痛い痛い。

既知の痛みではない、再現性が著しく低いためからこその出鱈目さ。

痛い痛い?

果たして私は痛かったのか?

もはやその痛みはどこにもない。

危機が去った余韻に浸るまでもなく、私は知る。

黒を敷き詰めただけの空間の中に、私は居ると。

何も無い中に、私一人だけが置き去りなのだと。

突如、光が来る。

頭、手、足、胴、私を構成する全てを、光が払い去る。

まるでナプキンで頬を拭き取るが如く。

私という存在がどこまでも小さく、儚く。

あっ……あっ……

「はいはい、ドライちゃん」

……”知らない天井だ”。

一体、これは。

体を無慈悲にも掻き抱かれ、全身を修道女らしき女に持ち上げられる。

今までに体験したことのない(正確には体験してはいるのだが、通常であれば忘れているのが普通)ものが、整然と襲いかかってくる。

まるでそれが、当然かのように。

妙に古めかしい木造の柱群。天井を構成するそれらから、目が離せない。

いや、動かせないのだ。

瞬きの一つも許されず、ただ揺れる。

あやすような、安心させる声。

うまく聞き取れないけれど、歌を歌ってくれているらしい。

そして私を覗き込む巨大な顔。

あらゆるものが遠く、目がちかちかする。

「ほら、おねむの時間ですよ」

無慈悲にも伸びる大きなお手々が、私をゆっくりと下ろす。

ゆりかごのようなものの上に、私の肌が触れる。

冷たくて、陽に温められた部分が少しだけ暑い。

私は、こんな風に扱われるほど華奢ではない筈だ。

そして、何もできないこの状況。

つまり……そういうことだろう。

「……うn」

軽く頭を撫でられ、仄かな暖かさが額を覆う。

いつぶりだろうか、こんな感触は。

その後私は、驚くほどあっさりと眠りについた。


朝起きた時、仮説は事実へと変貌した。

私が自然に傾いた僅かな視界の端に捉えた一枚の鏡。

そこに写っていたのは、白い布に身を包んだ赤ん坊だった。

世界が大きくなったわけではない、私が小さくなったのだ。

どうやら、私は転生したらしい。

すべてを手に入れた私は、あの時、確かに星に飲まれた。

跡形もなく、可燃性ガスのように。

※これには本人の強い創作が加わっており、事実とは異なる可能性があります。

世界のラヴに当てられたあの時を、私は忘れない。

なのに、これはどういうことなのか。

あんあんとか、うnうnとかいう小人……いや子供、赤ん坊か。

そんな存在にしてまで、私を求める者がいる。

誰かは知らないが、コインを入れてしまったらしい。

ならば、私のすることは一つ。

私として、この世界を大いに楽しもう!

弾けた私の体は再び一つの形を取り、この世に現れた。

私の精神こころは再構築され、こんな小さな体に収まっている。

こんな奇跡は、おそらく二度とない。

多少眠りやすいことなんて、気にしない。

そのせいで一日が短いことなんて、へっちゃら。

大きくなったら何でもできるんだ、そう思えるだけで私は幸せ。


【ドライ999年・キャスター島】


あれから、10日程経った。

その間に知り得たことを改めて整理しようと思う。

私の名前は、ドライ。

ドライ=アムガミスタ。

アムガミスタ3女であり、ごく普通の新生児。

多分もうすぐ体が動かせそう?

父イーデハルト、母ロンゼッタ。

一男メルヘン、1女セーラ、2女ピスト、3女ドライ。

といった普通の騎士家庭だ。

私が生きていた頃と身分制度が一緒なら、まあ、普通の家庭といったとことだ。


以前の事も丁度いいのでまとめておく。

今から話すことは、もう1000年以上前のことなので普遍性がない。

そのことは、事前に断っておく。

この国、中立国家ヴェプラムには、貴族制度はない。

代わりに、特殊な政治体型を採用していた。

君主騎士制……君主(王位継承権をもつ18歳以上の男子、または女子)と15位までの”騎士”が政権を持つ体制だ。

他国でも類を見ない特殊な政治形態だからこそ、生き残ったのかもしれない。

当時のアムガミスタ家は、中立国家ヴェプラムに居を構える中程度の騎士家だった。

まあ、ちょっといい男爵家くらいに思ってもらえばいい。

ちょっとだけ豊かだけれど、慎ましく生きる騎士家。

それが私の知る、アムガミスタ家。

私の愛した、大切な我が家。

アムガミスタ家は第15位の騎士家。

騎士には1位から15位までの位付けがなされ、その順位が高いほど権力が多く与えあられる。

逆に言えば、位が低ければそれ相応の権力しか与えられないということでもあるが。

アムガミスタ家は代々15位の騎士家として続いていたが、前世の私、1女ドライがその前提を覆した。

前世の私は、アムガミスタ家に生まれながら、君主の子としての力も持って生まれた。

ここらへんの話は長くなるので割愛する。

君主と騎士、両方の教育を受け、その後私はこの国の君主となる。

それと同時に、騎士最高位である第1位の騎士にも抜擢され、一気に権力を得る。

1年ほど、穏やかな時が過ぎた。

私は民を思い、騎士を思い、この国を愛した。

最後はまあ、あんな感じだったが。

私は前世の行いになんの未練も後悔もないし、むしろ満足している。

もうちょっと長く生きたかったな。

とは思ったけど、それは叶ったし。

これが私の覚えている、本当にざっくりとした記憶。


ああ、また眠くなってきた。


[次回予告☆]


自分が死んだ1000年後に転生した私、ドライ=アムガミスタ。

ハイハイができるようになり、家の中を探索することに……!

階段はまだちょっと怖いけど、ゆりかごからは自分で出れるからセーフ?

私が生まれた意味なんて知らないわ、この世界を、楽しむのよ!


第二話、「あの日」 明日があるって最高じゃん!?サービスサービス! 


[次回も見てね☆]










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