聖女でなくて悪かったな
もおきんるい
男だし。
ざわつく広間に、おれはいつの間にか仰向けで寝転がっていた。
周りには若いのじじいの男どもが、こちらを覗き込んでいる。
「男・・・?」
「男かぁ・・・」
「えっ・・」
「なんだよぉ・・・」
「聖女じゃ無いのか」
聖女って。おれ男だよ。
おおよそ30名くらいの男の輪に、おれは取り囲まれている。
何気に床を見る。床には変な模様が書いてあり、ぼんやり光っている。魔法陣だな、うん。アニメとかで見たことある。
つまりだ。
おれは召喚されちゃったんだな。
で、聖女召喚が、聖者?召喚になってしまった、と。
女が良かったんだね?
幼女、少女、熟女、そして妙齢の女性。とにかく女が良かったと!!
うん、期待を裏切ってゴメン。
おれもそっち側の人間だったら、男を召喚しちゃったらそんなふうにがっかりしたよ。
でも呼ばれた本人の立場ともなると、怒りが増す。
「悪うございましたね。おれが嫌なら帰してくれよ」
すると男共は顔を見合わせ、だんだん具合の悪そうな顔になっていく。
「みなさーーーん、もーしーかーしーてぇー、帰れないのかなーーー?」
「・・・・はい」
「ばっかやろーーー!!!じゃあ男だって、文句を言うなーーー!!」
「は、はいぃ、申し訳ありませんーーーー!!」
おれの怒号に、男達は一斉に地面に伏せ、土下座となった。
この世界でも、平謝りは土下座が基本なのかな?
ええいくそっ!!
仕方がない、聖女ならぬ、聖者、やってやる!!
「素敵・・」
「綺麗な黒髪・・」
「美男子・・」
神殿の女性方には概ね好評な顔だったようだ。
そうかなぁ?
普通の顔だよ。ただ太ってない、身長も177センチ。
この世界ではモテ顔なのか?
今おれは聖者のコスプレ、いや正装を身につけている。
ちょっとエレガントでお洒落。かっこいい。ギリシアの石像の服みたいだ。
はは〜〜ん?どう?この格好!!ロングドレスみたいだぜ。
で、フード付きのケープを纏っているんだ。
中はニッカーボッカーみたいなズボンとブーツだ。
さて、聖者は何をするかと言えば、聖女のする事と同じだ。
全く同じだ。大事なことは2度以下略。
治したり癒したり、そしてアンデッドを浄化したり、聖なる光で闇を払ったり。
どうだ、見紛う事無き聖女となんら変わらぬ力だ。
男でもいいんだよ、これ。
召喚する奴の好みのせいだな?女を召喚してたのは。
最近女官や女騎士、そして貴族の令嬢がおれが行く所待ち受けている。
そして黄色い歓声も上がる。
「きゃー、ヒデタダさまーー!!」
アイドルか。
おれは24歳だぞ。アイドルって年でもないぞ。
それに、騎士とか貴族子息にも、ハンサムいるじゃねーか。
金髪どころか銀髪や赤毛、薄いブルーやサファイヤ色の髪もある。
おれの黒髪はここでは珍しいかもしれないが、あっちの綺麗な色の方が良いなぁ。
はぁ・・・疲れたなぁ。
おれはソファに寝そべって溜息を吐く。
この世界に来て2年が経過。
聖者として世界を行脚、魔物を倒し、病に苦しむ人々を癒す日々。
髪の毛は腰辺りまで伸び、緩い三つ編みをしている。なんか髪がよく伸びる。聖者効果か?
俺を皆『聖者様』と慕ってくれる。
街を歩いていると、子供が駆け寄ってくる。
小さな子供がまとわりつくと、『うわあーーーー!!』と雄叫びを上げて追い回すのが楽しい。
子供も面白がって、『きゃーーー』って散って逃げていくのを、魔法で絡めとってとっ捕まえるんだ。
おんぶー、だっこー、肩車ー、腕にぶら下がるーとか言って飛びついてくるので、纏めて相手をしたり。
おれさ、前の世界では保父さんだったんだ。
だから子供が大好きだ。逆に大人の女は怖い。この世界の女、怖すぎ。
夜ベッドに忍び込んでいるのだ。ハニトラですか。出て行けと怒鳴り散らして追い出す。
でも子供なら、男も女も関係無しで来るもの拒まずだ。みんなまとめてベッドで寝る。
ハニトラ避けにもなる。楽しい。
朝、目を覚ますと、ガキ共が10人くらい布団に入っているんだ。可愛いなぁ。
しかし親は注意しろ。子供だけで、夜にここまで来るんだぞ?魔物が出たらどうする。
さあ朝だ。
みんなで朝食を食べた後、子供を家に送るついでの散歩へ、いざ。
「聖者様、ありがとう!」
「またね!」
「ああ、またな」
子供達はニコニコと笑って、親と家に戻っていく。
おれはみんなに手を振って、屋敷へと戻る。
また来週から、魔物が巣食う森へ派遣される事になっている。
この世界の人達の為、おれ頑張っているよなぁ・・・
でも、いちいち大名行列みたいな事しながら目的地へ向かうのが、面倒で億劫で。
しかも、一緒についてくるだけの騎士が、偉そうに飲み食いするんだ。つまみが少ないぞ、とか言って。
本当、うざい。歓迎してくれる街の人たちに迷惑だ。
おれ一人で行けたらなぁ・・・危ないとか言い出しそうだもんな。一人くらい従者をつければいいかな?
でも一緒に行ってくれるような奴いない・・ぼっちと言えば言えーー!!くそう。
・・というわけで、ふふふ。
予定よりも3日早く、こっそりと一人で出て来ちゃいました!
あー、楽しみだ!
そうそう、ちゃんと置き手紙は残しておいたからね。勝手させてもらうんだから。
空鮫という霊獣をペットにしているので、これに乗って目的地に向かった。
名前はシャークさんだ。
空をずっと泳ぎ続けなければならない体質なんだ。
だからおれが乗らない時は、上空高く泳がせたままだ。
シャークさんと空を行く。
風がすごく強くて、髪とローブがバサバサ靡くけど、気持ち良い。
予定していた宿のある街にまず1泊、次の街に一泊・・・これを3回。
地上の道だと10日くらいかかる行程も、シャークさんとなら3日。しかも騎士とかの食費や宿代もいらない。ローコストで自由。おれが行く度に、変な費用を使わないで欲しいんだ。騎士達、俺と行くのを旅行感覚にしているからな。ふざけるな、仕事しろってんだ。おれをダシにするなっての。
浄化を無事終え、帰宅。往復1週間とかからなかったわ。
今回の浄化作戦(作戦って)、王と神官長に報告をして、無駄な費用、日程、騎士の拘束など、意味の無いところを見直してもらい、一人で行くことを許可させた。
「遠足じゃ無いんだから。ビジネスライクですよ」
こう言ったら納得してくれた。
本当、毎度お迎えの儀式や仰々しいお祭りもいらない。騎士が偉そうに、街の人におねだりするのも見てられない。
まあ、異世界から勝手に呼び寄せて、帰れないのが分かっていて浄化の仕事させるとか。
聖女・・・女の人に絶対にさせられないっしょ?可哀想だよ。
ついでにパーティーも行きたく無い。だってお見合いパーティーだよ、あれ。
嫁を充てがうの、本当やめて。ここの肉食系女子とは、絶対にしたく無いから。
おれにだって、理想はあるんだから。
そしてまた浄化の旅に出て。
次の目的地は、深い森の小さな村。そんなに裕福では無いから、おれのためにおもてなしにお金を使って欲しくなかった。
「聖者様は本当に無欲な方だ」
「民思いの方だ」
「子供にとても優しい」
「せーじゃにーちゃん、おもしろーい!」
なんかいっぱい褒めてもらえて、ちょっと照れた。
歓迎の催しも、家庭的であったかい。
仰々しいのは勘弁だ、これくらいがちょうど良い。
ちょっと豪華な料理と、美味しいワイン。これで十分だ。
ちいちゃな子供のレディが、おれに可愛くレディなお辞儀をするので、ダンスを踊って・・というか、ほとんど抱っこ状態だが、クルクルと回って、彼女を空中に放り出してスピン、そしてキャッチ。
きゃははと少女が笑って、周りのみんなも笑って。
そうそう。こんな感じでいいんだよ、おれには。
ここの魔障はかなり濃い。
じっくりと払って、3日掛かった。
初日はいい感じの村と思っていたんだけど・・
「聖者様、お疲れ様です」
最初の浄化を済ませて村の宿に戻ると、綺麗な村娘がタオルを手渡してくれた。
「顔色が悪いようです」
「・・・そうか。村長はいるか?報告がある」
「はい、お待ちください」
しばらくすると、村長が来てくれた。
ああ、体がだるい。かなり力を使ったな・・
「ここはかなり濃いので、後2日はかかる。すまないが、宿を2日延長してくれ」
「聖者様、分かりました。お疲れのようですね、さあ食事を用意しました」
村長と共に宿屋の食堂に行くと、すでに食事が用意されてあった。
・・・・・・・・・。
「女将さん。これ、おれ食べられないわ」
「え」
「おれに何をする気?」
「・・・」
「毒とか、睡眠薬とか、仕込んでも・・おれ判っちゃうから。そういうの、よしてね」
宿のベッドには誰かがいるだろう。もしかしたら、さっきタオルくれた子かもしれない。
既成事実させる気だな?怖い、この世界怖い!!
早く仕事済ませて、家帰ろ。
そのうちおれは家に帰るのも面倒になり、王家と神殿の使者に次の場所を連絡してもらい、仕事が終わったらそのまま旅をするスタイルへと変えた。
連絡してくる使者は、毎回同じ人間だ。名はレオナ。女の騎士だ。こいつは飛竜でおれのところまで来る。
ついでに旅の路銀と、ポーション の支給を受け取る。
大変だな、こいつ。行って帰ってまた行っての繰り返しだな。
「レオナ、疲れないか?誰かと交代したらどうだ」
「いえ、聖者様にお仕えするよう命令を受けていますので」
「ただ往復するだけじゃ無いか。誰かとたまには交代しろ」
「では!たまには聖者様もお休みください!」
・・そうか。おれが仕事すると、彼女も仕事しなくてはならないのか。
そこは考えなかったなぁ・・・すまんかった。
「分かった。次の街が済んだら休む」
「しっかりと休んでくださいよ!」
「ああ」
浄化を終えて、おれはシャークさんに乗って久しぶりに屋敷に戻った。
え?
女がいる。
誰これ。
「旦那様、お帰りなさい!」
「はぁ?」
一緒についてきたレオナ(護衛のため)も驚いている。
「聖者様、ご結婚されていたのですか?」
「おれ、ここには1年ぶりだぞ?帰ってきたの・・・お前、誰?」
そしたら自称妻がおれに詰め寄った。つい圧を感じて一歩下がったよ。
「私をお忘れだなんて!!旦那様は私と結婚してくださったではないですか!」
「・・・何時?」
「去年の11月に」
「おれ、その時家に戻っていないわ。で、鍵はどうやって」
「妻だと言ったら、執事が」
「フーーレーーディーーーー!!!!!ここに来い!!」
執事に話を聞いたら、この女が妻ですって言ったと。本気か。
「なんで信じるんだ」
「お綺麗な方だし、身分も侯爵家だし、ちょうどいいから結婚したらと」
「お前、いくら摑まされた」
「・・・・・」
指を3本立てた。この3本は、どういう意味かは分からんが、おそらく大金だな。
おれは執事と女を魔法で叩き出した。
「大変ですね・・聖者様」
レオナも呆れている。本当、ここの肉食系女子は怖いわ。
おれの財産はキャッシュで用意しているから、ギルド銀行にある。
男が宝石とか、いらんもん。
内装も趣味の合わないカーテンやクロス類になっていたので、それも毟って外した。
もうこの屋敷、売っぱらっちまうか。
この地は気に入っていたんだけどなぁ・・・子供も多いし、みんな顔見知りだし。
前の世界でも、おれはほどほどモテてはいた。彼女だっていたし。
まあここ飛ばされる前、ちょうどフラれたところだったけどね。
ここにきて3年を越したよ。おれ、もうすぐ28だよ。
確かに嫁がいてもおかしくは無いだろうけど。・・・ここの女、本当怖い。
ああ、普通に恋したい。可愛い嫁、欲しい。
でもお貴族様と関わってくると、やっぱり村娘は無いわ〜って思う。
だから深窓の令嬢!
おれは何時か会えると信じてる!!
「聖者様、初めまして」
目の前に、小柄な少女がいた。
華奢で、金髪碧眼の、おれの世界でいうところの美少女がいた。
奥ゆかしくて、引っ込み思案で、笑うと可愛い。
理想の深窓の令嬢が現れたのだ。
彼女は王家の娘で姫だった。
王も結婚をほのめかした。
どうする?
おれでいいのか?
おれ、結局のところ、平民だからな。
シャークさんに乗って、おれはぼんやりとするのが日課になっていた。
スピードスターのシャークさんだけど、この時はゆっくりと空を飛んでくれる。
週に1、2度姫と会って。
やはり王族だから、責任があって、芯がしっかりしてて。いい子だ、うん。
そしておれの仕事を尊敬してくれる。ちょっと嬉しい。
おれ、この世界の偉い人達とアポなしで会える身分なんだよな。
元いた世界では、絶対に体験出来ないことを、おれはやっている。
「ねえ、シャークさん。フィドルル山まで行ってくれる?」
シャークさんはスピードを少し出して、空を泳いでいく。
おれの髪は、ゲームのキャラみたいに尻を隠すほどの長さになっていて。
山まで来て、ふと振り返ると、空は夕焼け色で、太陽が優しく眩しくて、オレンジ色と薔薇色と、そして闇色混じった紫で。
ああ、綺麗だなぁ、そう思った。
大きな魔障は浄化して、魔物が暴れる事件はあまり聞かなくなった。
綺麗な夕焼け色に染まった街や森を見ていると、思うんだ。
「この世界に平和をもたらしたのは、おれだぜ、おれのお陰だぜ」
つい声にしてしまった。
もしも聖女だったら、浄化の旅も地面の道を大名行列、そして祝賀パーティー。
余計な日にちが掛かって、金も掛かって、大変だろうね。
おれは身軽に一人で浄化の旅をしたから、さっさとさくさくと終わらせた。
おれの人生をぶった斬って、ここに連れてこられたんだけど、結果オーライ。
姫との婚姻は、ちょっとおれには気持ち的にどうだろうか、って感じ。
ゆるゆると、日は沈んで、闇色紫が、闇色になって、星が瞬く。
「聖女でなくて、おれが来て正解だったって事だな!」
聖者ヒデタダ・オオヤの浄化の旅はまだまだ続く、ってな!
聖女でなくて悪かったな もおきんるい @mokinrui
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