第14話 ソルマーニの輝跡

 ――ヴァルハラ戦域


 無惨な姿となったソレーユとルーナの機体を見つめ、操縦席から手を伸ばすセルマ……


「ぁ…そんな………」


『し、司令……G.O.D-05、06の反応、ロストしました』

「……これほどとは……各機、徹……『まだです!』」


 ジルがヴィーダルの撤退指示を遮る。

 

「私が少しでも時間を稼ぎます。その間に、居住区の避難を……セルマさん!動けるなら、フェリクスさんとヴァルハラに撤退を!」


 ジルは声を張りながら、G.O.D-03の両肩の連装砲を低出力で連射する。

 そして、レーダーを確認しながらマークスマンライフルを構え……仲間の機体を踏み躙る狂気に向かって撃ち続ける。

 スコルとハティはその攻撃を躱そうともせず、躯に纏う瘴壁で消し去る。


「ムダなことを……」

「すぐに楽にしてヤルわ」


 二つの狂気が牙を剥き、ジルの機体へと襲いかかる……


 ――ソレーユとルーナは気がつくと、光の中に包まれていた……そして、優しい声が心に響き渡る。


「……黄昏れの子よ……私の愛しき子らよ……目を覚まして」


 まるで聖母のような、透き通る声に二人はゆっくりと意識を取り戻していく。


「こ、こは?」

「ルーナ?何で!あたしたち……」


 どういうわけか、見覚えのない操縦席に二人は座っていた。


「お姉ちゃん!怪我はない?」

「え、うん、何ともないわ」

「これ、機体の中……かな?」

「そうみたい、誰かの声が聴こえた気がするんだけど」


 何が起きたのか分からず、周りを見渡す二人。

 ポゥ……とモニターが光、『ソルマーニ』と表示が浮かぶ。


「愛しい子、あなたたちの名を教えて?」

「この、声……」

「さっきの声だ」


 暖かく、慈愛に満ちた声に懐かしさを感じる。


「名前……ソレーユ、ソレーユ=シグフェイルよ」

「私は、ルーナ=シグフェイル」

「ソレーユ、ルーナ……登録を完了、ソールとマー二の神格を認証。インターフェースシステム、接続完了」


 その瞬間、二人の視界が切り替わる。

 目の前に広がるのは、月の光に照らされた一面の空……そして身体が宙に浮いている感覚に囚われる。


「え?わ!ちょ!何これ!?」

「空の上、ね」

「何でそんなに落ち着いてるのよ!」

「二人とも、大丈夫よ」

「あ、あなた」

「そうよ!あなたは何なの?どこにいるのよ?」

「私は、ソルマーニ……この神装機ソルマーニに眠る者」

「神、装機?」

「なんであたしたちが?」

「ごめんなさい、ゆっくり話している時間はないわ……下を見て?」

「下?」


 二人が下を見ると、視界が狭まり、拡大されていく。

 そこにはさっきの二体のガルムがG.O.D-03の攻撃を受けながら、ものともせず攻撃体勢をとる瞬間が映しだれていた。


「ジルさん!」

「助けなきゃ!」


 二人がそう思った瞬間、身体は急降下を始める。感じたことのない速度で落ちる感覚……しかし、不思議と恐怖は感じなかった。


「この機体は、あなた達の思うままに動かせるわ」

「うん、わかるよ」

「うん、伝わってくる」


 姉の意思が、妹の思いが、互いに溶け合うのを感じる。インターフェースシステムを通して二人の思考が一つのものになる……


 ――目の前に迫る二つの狂気を前に、ジルは勝ち目がないと悟る。


「これは、無理ね……でも」


 近接戦用のエーテルダガーを両手に構える。


「諦めない……」


 喰らいつこうと迫るスコルとハティ、左右からの爪撃を、ジルはダガーでいなして躱す。

 そして、脚部のバーニアと背部のスラスターを噴射させステップを踏むようにハティの横へ移動し、ダガーを突き立てる。

 ズン……という感触と手応えを感じた。


「近接武器は、通る?」


 ハティは刺された右肩から黒い瘴気を吹き出す。


「小癪なマネを……」


 怒りを露わにするハティは、躯の周りで円を描く様に舞う金色の粒子を一点に集中させる。

 高濃度のエーテル粒子は、まるで満月のような球体となり、凄まじい熱量を纏っていた。


「あれは、まずい」


 あんなものをまともに受ければ、機体ごと吹き飛んでしまう。ジルが距離を取ろうとしたその瞬間。

 背部から強烈な衝撃を受け、地面に伏した。


「な!あぅ!」


 もう一体のガルム、スコルに押し倒されたのだ。


「おとなしく死を受け入れろ」


 そして、ハティから金色の塊が放たれる……

 機体のモニターが赤く明滅し、熱源の接近を気叩けたたましく知らせる。

 だが、それとは別の熱源が上空から迫る。


「なに?」


 それは夜空を切り裂くかの様にジルの前に降り立ち、迫り来る金色のエーテルの塊を断ち切った。

 金色の粒子が辺りに爆散し、その輝きで機体の姿が神々しく映し出される。


 そこには、漆黒と輝銀が交差する装甲を纏う機体……胸部には太陽の紋章、背には月輪のようなエーテルリングが展開し、光を放っていた。


「これは……神装機?」


 ジルは目の前の光景に目を奪われる、しかし、スコルとハティは信じられない物を見たかのように驚く。


「なぜ……ソルマーニがここに?」

「ヤツらの神格を継ぐ者はいないはず……」

 

「ちょっと、勝手に死んだことにしないでちょうだいよ!」


 目の前の機体から聞き覚えのある声が響き渡る。


「その声……ソレーユ?」

「ジルさん!こんの、ジルさんから離れなさいよ!」


 ソレーユとルーナが乗る、神装機ソルマーニが振り返り、ジル機を踏みつけているスコルへ攻撃を仕掛ける。

 ソルマーニはスコル目掛けて宙を舞い、機体の両腰にある三日月型の双剣を両手に持った。

 その刃は光を纏い、輝跡を残しながら駆けていく。


「はぁああ!」


 ザシュッ……その刃は、何の抵抗を受ける様子もなく、瘴壁ごとスコルを切り裂いた。


「ぐっ、ヴゥ……」


 スコルはその痛みを噛み殺し、後方に飛び退いてソルマーニを睨み付ける。


「これ、凄い切れ味……」


 ルーナが思わず、感心の声を漏らす……そこへ、ソルマーニの声が周囲に響く。


「スコル、ハティ……我らの半身、返してもらう!」

「半身?お前は、ヤツらの……くくくっ」


 ソルマーニの言葉で何かを理解しのか、ハティはニヤリと口を歪ませる。

 

「そうか、ソウイウコトか!その神装機にヤツらの魂を、神格の半分を移したのだな?」


 スコルも同様に意味深な言葉を発しながら、ソルマーニを見つめる。

 

「だったら、どうしたと言うのです……黄昏の子らと一つなった今、その因果を絶たせてもらいます」

「ソルマーニ……」

「愛しい子よ、あなた達を巻き込んでしまったこと、どうか許して……」


「ふふ、ハハハ!そのような未熟な神格と一つになったところで勝てると思ってイルノカ!?」

「愚かな、ならば望み通り、人の子諸共喰ろうてヤルワ!」


 スコルとハティが左右からソルマーニを囲み、全身の瘴気とエーテルを燃え上がらせる。

 己の躯に高エネルギーの膜を作り出し、地面を抉りながら突進を仕掛けた。


「わ、わっ、突っ込んでくるじゃん!」

「お姉ちゃん、落ち着いて、これね」


 焦るソレーユと対照的に冷静に状況を判断し、機体の武装を展開する。


「ルミナス・フィールド、展開」


 背中の光環が輝きを増し、機体の周囲を球状の光壁で包んでいく。

 その壁に黒煌と白焔の塊が衝突し、瘴気とエーテル粒子が激しく散る。


「うっそ!あの攻撃でビクともしないじゃん!それで、こっからどうするの?」

「大丈夫、お姉ちゃんは、こっちの武器で、暴れてちょうだい」

「ん〜?ソール・キャリバー、これね」


 左腕の外装甲に内蔵されている棒状の物を掴むと、勢い良く引き抜く。構えると同時に刀身が紅く熱を帯び、白いエーテルの輝きを放つ。


「そう、それを振り回して、私が追い詰めるから。ルミナス・ビット」


 今度は機体の背部装甲が開き、無数の菱形のビットが羽の様に拡散……まるで星座を描くかのように空中に整列し、エーテルの淡い光を放つ。


「「いくよ!」」


 二人が声を発すると同時に、機体を覆っていたバリアが弾け、スコルとハティを吹き飛ばした。

 その後を追う様にビットが流星の如く、二体に襲いかかる。


「まずは、お前だー!」


 ソレーユはスコルに標的を定め、目にも止まらぬ速さで宙を駆け抜けて、光炎を纏う刀を振り抜いた。

 スコルはそれを防ぐために白焔の瘴壁を展開したが……シュパッ……と軽い音と感触とともに斬り裂かれる。

 そのまま、スコルの躯を両断せんと刀が一閃される。

 その刹那、後方に退いていたガルムの群れがスコルを庇うように割り込み、瘴気を霧散させて消えた。


「ああ!邪魔されたー!」


 その間にスコルとハティは残ったガルム数体とともに後方へと退がる。


「まとめて、片付けよ」


 ルーナの言葉ともに、両肩の装甲が展開しエーテルを凝縮し始める。


「ソルマーニ・エクリプス」


 右肩から紅い熱線が放たれ、左肩から放たれた白輝の光線と混ざりあい、螺旋を描きながらヨトゥンを焼き払う……

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