薄幸母と業人の息子
山岡裕曲
第1話 業人との出会い
私の名前は宇治望千夜。大学4年生をしている。
私は愛というものを知らずに育った。
毎日喧嘩ばかりの両親、やつあたりが私にくることもあった。
おかげで褒められたことなんて一回もない。
学校では老け顔のせいでいじめに遭い、女子からも男子からも避けられ、恋愛どころか友人すらいなかった。
逃げるように大学進学に合わせて奨学金を借り一人暮らしを始めるも生活が変わることはなかった。
相変わらずひとりぼっちの学校生活。休日は母親からの鬼電。内容は父親への愚痴か望千夜への嫌味だ。望千夜がメンタルクリニックに通い始めるのにそう時間はかからなかった。
「私の人生、なんだったんだろうな…」
ポツリと呟き眠れぬ夜は無意味にネットの海を徘徊していた。
その時フォロワー二桁のSNSにDMがきていた。どうせ業者だろう、そう思いながら一応確認しにいくと見慣れないアカウントだった。
「syaku_game?」
そう名乗るアカウントは「ガチ恋?」とだけ送ってきた。
まったく意味がわからずその名前を調べ始めた。
syaku_gameこと浜風悠平は配信者らしい。昔はインターネットミームとして愛されたもののセクハラや怠惰な性格が祟り嫌われ者になったようだ。
普通の女性ならここでブロックして終わりだろう。しかし望千夜の心は既にボロボロであり、彼の動画を見ながら涙を流していた
「この人も愛を知らないんだね…」
望千夜は浜風とやりとりを開始した。途中浜風から通常の人がされたら悍ましいと感じるようなセクハラを受けたが、彼女はそれすら「求められている」と高揚感を持った。
「この人は私の運命の人なのかもしれない」
そう錯覚し浜風の上京費用をバイト代から捻出し彼のパトロンとなった。
浜風は常日頃から望千夜に鼻息荒くこう語った
「オラは本当は成功する人間なんだで!でもアンチが邪魔するからうまくいかない!ハーレムを作ってタワマンに住んでアンチをミカエス!君にはそのハーレム1号になってもらいたいだで」
こんな女性を侮辱するような妄言すら望千夜には喜びをもたらしていた。
彼女はずっと自分が嫌いで自信がなかった。そんな中自己愛がひときわ強く、どんな形であれ自分を求めてくれる人が出たのだ。壊れた心は悪魔の手をつかんでしまった。
そして2人は結ばれ、男の子が生まれた。望千夜は蓮と名付けた。
さすがに「おろしたほうがいい」と言われたときには一抹の不安を感じたが父親になれば変わってくれるだろう、そう望千夜は信じていた。
結果、悠平は飯食ってうんこして寝るだけの生活を6年続けた。
望千夜は仕事を掛け持ちしなんとか食い扶持を稼いだ。
深夜に帰宅し蓮の分の食事を作り、朝早く出勤する。休日は掃除などできなかった家事をまとめてやってから寝るだけ。そんな生活を6年続けた。
飲む薬の量も増え足元はフラフラ、いつ倒れてもおかしくない状態でも限られた時間で蓮に愛情を注いだ。
一方一日中家にいる悠平は蓮に微塵も興味を示さなかった。それどころか望千夜が蓮を可愛がるのに嫉妬を始め悪口をいうようになった。
「お前なんて生まれてこなければよかった」
「お前何の役になってるんだ?」
「小学校入学したいからランドセルがほしい?そんな高いもの買えるならオラの一番大きいステーキにしたほうがいいだで!」
こんな言葉を自分の子に浴びせながら自らの悪事で生み出したアンチに怒り続けるその姿はまさに業人であった。
ある日の休日、呼び鈴がおされた
ピンポンピンポンピンポンピンポン!
「…はい」
「あー望千夜か。悠平おる?」
「…あんた凸者?」
「ご名答。またあいつ女性にセクハラしやがったからここ調べてきたってわけ」
「…悪いけどあいつ出てこないの知ってるでしょ?それに今は子どももいる。悪いけど帰ってくれない?」
「はいはい、だからこれ『旦那様』の悪行リストね。あとで叱っておくこと。」
渡された紙にはおびただしい数のセクハラメッセージがうつし出されていた。私が言い聞かせても聞く問題ではないがやる姿勢でも見せないといけないのだろう。
「わかった、あいつには言っとく」
「それと息子さんいるのは俺たちも知ってるからさ。はい、これ渡しといてね」
凸者は大きな紙袋を渡してきた。
「…ありがとう。あとこれ、私のメアド。スレに貼ってもいい。あいつがやらかしたらここに苦情送って。だからこうやってくるのはやめてほしい。」
「他の人が聞いてくれるかは分からないけどスレには貼っとくよ」
凸者は望千夜からのメモを受け取り去っていった。
悠平はびくびくしながら部屋から出てきた
「あいつ追い払ってくれただで?」
「うん、あと私何回いったかな?親しくもない女性にこういうこというのやめてよねって。蓮にも悪影響でしょ!」
「ヴー!オバエもアンチの味方するだでか!?オラはハーレム作る!だから悪くない!どうせリークしたやつネカマやし!」
悠平はフスー!ドンドンドン!と地団駄を踏みだした。
「ちょっとやめてよ!わかったから。凸も来る前に私に連絡しろっていったしきっと大丈夫だから」
悠平はそれを聞くなり
「オバエも最初からそうしろだでな。あと蓮作れなんて頼んでないだで。オラはおろしたほうがいいとはっきりイッタ!」
と捨て台詞を吐き部屋に戻った。
全く子育てに協力しない夫に絶望しながら望千夜は凸者が持ち込んだ包みをあけた
そこにはランドセルとメモ書きが入ってた
「このランドセルは息子さんに渡しとけ。どうせあいつのことだから『そんな金あるならオラのメシを豪華にしやがれ!』とか騒いでるんだろ?本当に子どもがかわいいならアレの面倒を見るのはやめるのをお勧めする」
望千夜は泣いてしまった。蓮は嘆き悲しむ母に困惑しながらも寄り添っていた。
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