第8話 とろ火
合格通知を受け取った日、美桜と真琴は夢の入口に立った。
だが、待っていたのは想像以上に過酷な訓練だった。
学校の日常は朝五時の点呼、延々と続く持久走。消化訓練に、懸垂、腕立て……
重い人形を担ぎ、炎天下で何度も往復。
筋肉は悲鳴を上げ、手のひらは豆だらけになった。
夜、宿舎に戻れば救急知識のテスト。
合格できなければ再試験、減点、叱責。
気を抜けばすぐに脱落が待っている。
——ある日、真琴の様子がおかしかった。
普段は明るく冗談ばかり言う彼女が、訓練中に黙り込み、夕食の時間も手をつけない。
「真琴、大丈夫?」
美桜が声をかけると、彼女はうつむいたまま、ぽつりとこぼした。
「……無理かもしれない。
いくらやっても体力が追いつかない。
合格しても、私やっぱりダメなんじゃないかって……」
その声は、小さな泣き声みたいに震えていた。
美桜は、かつて自分が感じていた絶望を思い出す。
何度も試験に落ちて、「やっぱり無理」と膝を抱えて泣いた。
だからこそ、美桜は彼女の隣に座り、静かに言った。
「……私も、何度もそう思った。
でも、そのたびに——あの日のことを思い出したんだ。
瓦礫の下で、助けを待つしかなかった自分を。
あのまま死ぬのはいやだって思った。
私その時さ、イジメられてたの。もう消えてしまいたいって思ってたの……
でもあの日……助けられて……わたしでも生きてていいんだって言われた気がしたの。救われたの。命も心も……だから私も誰かを助けたいって思ったの。
真琴も……弟さんのこと……本当は助ける自分になりたかったんじゃないの?」
真琴は目を見開き、唇を噛んだ。
そして涙をこらえながら首を振った。
「……諦めない。諦めないよ」
「だったら、一緒にやろう!」
美桜は真琴の手を握った。
小さな手は汗で濡れていたけれど、その握り返しは確かに強かった。
翌日の訓練。
真琴は歯を食いしばり、梯子をを登り切った。
下で待っていた美桜と目が合うと、二人は声を上げて笑った。
——
美桜の胸の奥に、強く温かい炎が灯り始めていた。
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