富岳バスケットボール・デイズ

舞夢宜人

第1幕

### 第1話:卒業、そして新たな家族


 富岳市立第一中学校の体育館裏。夕暮れの校庭には、卒業を祝う生徒たちの楽しそうな声が、遠く、微かに聞こえていた。しかし、柊一真の周りだけは、甘く、そして少しだけ張り詰めた空気が漂っていた。中学バスケ部で鍛え上げられた一真の重戦車を思わせるがっしりした体格が、二人の美少女に囲まれていた。


「ねえ、一真。中学最後の思い出に、あたしとキスしてくれない?」


 そう言って、一真の頬に唇を寄せたのは、立花由季だった。中学の女子バスケ部で鍛えられた引き締まった体を持つ由季は、一真に次ぐ長身で、見下ろすような形になることはない。しかし、その清らかな瞳は、どこか憂いを帯びていて、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えているように見えた。彼女の漆黒のストレートロングヘアーが、夕日を浴びてエナメルの光沢を放っている。


 由季の言葉に、一真の背中に回った東雲柚希の腕の力が、ぎゅっと強くなる。彼女の吐息が耳元にかかり、ゾクゾクとした刺激が走った。柚希は、由季よりはやや低いが、肉感的な体つきをしており、その豊満なバストラインが、一真の背中に柔らかく押し付けられていた。


「ずるいよ、由季。中学最後の思い出って言うなら、あたしだって同じでしょ?」


 柚希の声は活発で生意気な光を宿しているが、由季に対する嫉妬心が言葉の端々からにじみ出ていた。彼女は、一真の隣に住む幼馴染という特別な立場を、由季の恋人という立場に奪われることを恐れているようだった。


「なに言ってるの、柚希。あたしと一真はもう三年も前から付き合ってるのよ?中学最後の思い出を彩るのに、あたしが一番相応しいに決まってるじゃない」


 由季は一真と交際しているにもかかわらず、その表情には満足感だけでなく、自分一択ではないことへの不満が混じり合っているように見えた。由季の完璧主義な一面が、この状況を許せないと訴えているようだった。


 由季の言葉に、柚希の腕の力がさらに強くなる。一真の背中に押し付けられる豊満なバストの柔らかさに、一真は一瞬息をのんだ。柚希は中学時代から由季に対抗意識を燃やしてきたが、それは由季が一真に好意を寄せていることを知ったからだった。


「ふざけないでよ!あんたばかりズルいじゃない!由季と一真が付き合い始めたのだって、あんたがあたしに勝手な嘘を教えたからじゃないか!」


 柚希の言葉には、由季に不誠実なことをしてしまったという罪悪感が混じり合っているように見えた。一真は、この状況をどう収めればいいのか分からず、困惑の度合いを深める。由季も柚希も、どちらも大切な存在だ。どちらか一方を選べば、もう一方は深く傷つくことは目に見えていた。


 由季は冷静を装って、柚希を冷ややかに見つめる。その瞳は、一真の知っている清楚で真面目な由季ではなく、自分にも他人にも厳しい完璧主義者としての顔を覗かせていた。


「そんな昔のことを今さら持ち出して、恥ずかしくないの?そんなんだから、あなたは二番手なのよ」


 由季の言葉に、柚希は一瞬言葉を失う。由季の双子の妹である雄宇、そして由季と柚希の友人である詩織も複雑な思いを抱いていることを一真は知っていた。由季の完璧主義な性格は、時に周囲の人間関係に軋轢を生じさせてしまうことがある。


 由季と柚希の張り詰めた空気に耐えかねて、一真は思わず叫んだ。一真の誠実で真面目な性格は、周囲の人間を大切に思う気持ちからくるものだったが、時に自分の意見を押し殺してでも相手の要望を叶えようとすることがあり、それがこのような八方塞がりの状況を生み出してしまっていた。


「由季、柚希。二人とも、俺にとって大切な存在だ。由季は中学時代から一緒にいてくれた特別な存在だ。そして、柚希は幼馴染として、俺のそばにずっといてくれた大切な存在だ。だから、どちらか一人を選ぶなんてできない。二人とも、俺にとっては一番なんだ」


 一真の言葉は、どちらも失いたくないという優しさからくる苦肉の策だった。由季は、一番であることに満足する一方で、自分一択ではないことに不満を抱いた。由季は感情を表に出すのが苦手な分、内面では深く物事を考える性格なので、きっとこのことで悩むだろうと一真は察した。


 柚希は二番であることに不満だが、由季一択ではないという一真の言葉に安堵し、一時的に納得する。しかし、彼女の負けず嫌いな性格が、このままでは終わらないことを示唆していた。


 その夜、中学卒業の感慨に浸る間もなく、一真はリビングで父・誠一郎から再婚を告げられる。


「一真、お前が高校に進学するこの春を機に、佳代子さんと再婚することにした」


 誠一郎の言葉に、一真は驚きを隠せない。母親を早くに亡くし、父と二人暮らしだったため、再婚話は青天の霹靂だった。


「佳代子さんには、お前と同じ年頃の子どもがいる。明日、顔合わせをすることになった。お前も一緒に来てくれないか?」


 父の言葉に、一真は「ああ、もちろん」と答える。新しい家族ができる喜びと、これから始まる新しい生活への期待に胸を膨らませる。しかし、その胸の内には、由季と柚希、そしてまだ見ぬ新しい家族との関係が、複雑に絡み合っていく予感も秘められていた。


### 第2話:予期せぬ再会


 富岳駅前にある、煉瓦造りのレトロな雰囲気のイタリアンレストラン。


 柊一真は、父の誠一郎とともに、少し緊張した面持ちでテーブルについていた。受験が終わった解放感と、これから新しい家族となる人物に会うという期待と不安が、複雑に胸の内を渦巻いている。昨夜、由季と柚希との間に起こった一幕が、まだ胸の中に重くのしかかっていた。由季が一番、柚希が二番という序列をつけたことも、由季に不満を抱かせてしまったのではないか、という後悔が頭から離れない。


 そんなことを考えていると、レストランの入り口のドアが開いた。一真が目を向けると、佐倉佳代子が、はにかむように微笑んで立っている。その後ろには、見慣れた、ボーイッシュなショートヘアの少女。佐倉雄宇の姿があった。


「佳代子さん、雄宇、よく来てくれたね」


 誠一郎が立ち上がり、二人に笑顔で挨拶する。一真も立ち上がろうとしたその時、雄宇がまっすぐに一真のもとへと駆け寄ってきた。


「あなたに会いたかった」


 雄宇はそう言って、一真に飛びつくように抱きついた。


 驚きに固まる一真の胸に、雄宇の柔らかな感触が伝わってくる。彼女の頭から漂う、爽やかなシャンプーの香りが一真の鼻腔をくすぐった。


「雄宇、どうしてここに……」


 雄宇の行動に戸惑いながらも、一真は彼女の背中にそっと腕を回す。


「どうしてって、決まってるじゃない。あなたに会うために、猛勉強して同じ高校に合格したんだから」


 雄宇は悪戯っぽく笑いながら、中学時代の出来事を話し始めた。中学2年生の夏、バスケの試合会場で由季と柚希を応援しに来た一真と出会ったこと。その時、着替えと財布が入ったバッグをなくして途方に暮れているところを、一真が2時間以上も探すのを手伝ってくれたこと。


「結局、バッグは見つかったけど中身は空っぽで、あたしは帰るお金もなくて……。そしたら、一真くんがタクシー代をくれたんだ。あの時の優しさ、絶対に忘れられない」


 雄宇は一真の胸に顔をうずめ、恥ずかしそうに言葉を続けた。


「あの時からずっと、あなたのことが好きだった。だから、あたしの一番大切な人たちに、あなたのことを知ってもらいたくて……。これから、あたしたち、義理の兄妹になるんでしょ?一真くん、付き合ってくれる?」


 一真は雄宇の言葉にさらに困惑する。交際を申し込まれている一方で、義理の兄妹になるという言葉も同時に投げかけられていた。誠一郎と佳代子も二人の様子を見て安堵し、笑い合っている。


「雄宇、落ち着きなさい」


 佳代子が優しい声で雄宇を宥めると、雄宇は照れくさそうに一真から離れた。


「誠一郎さん、一真くん、ごめんなさい。うちの子が少しはしゃぎすぎてしまって」


 誠一郎は気にする様子もなく、佳代子と雄宇を席に促した。


「それにしても、二人が再会するなんて。運命を感じますね」


 誠一郎の言葉に、佳代子も微笑んで頷いた。


「実は、由季が雄宇の双子の姉なんです。両親の離婚で離れ離れになってしまって。由季は今も、雄宇を探し続けてる」


 佳代子の言葉に、一真は驚きを隠せない。由季が双子の妹を探していることは知っていたが、それが目の前にいる雄宇だとは夢にも思わなかった。


 一真は由季の卒業写真を佳代子に見せる。


「この子が由季です。僕の恋人なんです」


 佳代子は写真を見て涙を流し、由季と雄宇が双子の姉妹であることを再会を喜ぶ。しかし、一真の頭には、由季、雄宇、そして柚希という三つ巴の関係が、これから複雑に絡み合っていく予感がよぎり、頭痛を覚えた。


### 第3話:4人の邂逅


 柊一真は、由季と柚希に引越しの手伝いを頼んだ。由季は快く承諾してくれたが、柚希は少し不満そうな顔をしていた。由季、そしてまだ見ぬ新しい家族――雄宇と佳代子――と、これからどのように向き合っていくか、一真は考えを巡らせていた。


 引越しの当日、一真は父の誠一郎とともに、新しく家族となる佳代子と雄宇を家に迎え入れた。佳代子は誠一郎と顔を合わせるなり、安堵したように微笑んだ。一方、雄宇は新しい生活への期待と不安が入り混じったような表情で、家の中をきょろきょろと見回している。


「佳代子さん、雄宇、これからよろしくね」


 誠一郎が優しい声で声をかけると、佳代子は小さく頷いた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。私たちを温かく迎えてくださって、本当にありがとうございます」


 佳代子はそう言って深々と頭を下げた。


「一真くん、由季ちゃんと柚希ちゃんはもうすぐ来るって言ってたわ」


 佳代子の言葉に、一真は少し身構える。由季と柚希が鉢合わせすることになる。由季は雄宇が双子の妹であることを知っているが、柚希はまだその事実を知らない。この状況が、これから始まる複雑な人間関係の序章となることは、一真にとって頭の痛い問題だった。


「一真ー!手伝いに来たよー!」


 玄関のドアが勢いよく開き、柚希が元気な声で入ってきた。その後ろから、落ち着いた様子の由季が続く。


「柚希、由季、ありがとう」


 一真が二人に礼を言うと、柚希は一真の隣に立つ雄宇を見て、少し眉をひそめた。


「一真、この子が新しい妹さん?」


 柚希は警戒したような目で雄宇を見つめる。由季は、そんな柚希の様子を気にしながら、佳代子のほうへと視線を向けた。


「お母さん……雄宇……」


 由季はそう言って、佳代子と雄宇のもとへと駆け寄る。佳代子も由季の姿を見て、目に涙を浮かべた。


「由季、会いたかったわ…!本当に、よかった」


 由季は佳代子に抱きつき、涙を流す。雄宇もまた、由季に抱きつき、姉妹としての再会を喜び合った。由季は父親と同居しているので、一真の家に引っ越してくるわけではないが、居所がはっきりしたことで、母親にいつでも会いに行けるようになった喜びを噛みしめる。


「由季、よかったね」


 柚希は由季の様子を見て、安堵の表情を浮かべる。しかし、一真が雄宇を柚希に紹介しようとすると、柚希は不満そうな顔をした。


「由季一人でも大変なのに、もう一人増えちゃって大変じゃない?」


 柚希はそう言って、一真に協力を頼む。柚希が幼馴染として特別な存在であることを改めて意識し、一真は彼女の言葉に頷いた。


「ああ、柚希の言う通りだ。由季、柚希、二人ともありがとう。これから、みんなで仲良くやっていこう」


 一真の言葉に、由季は嬉しそうに微笑んだ。しかし、柚希は由季と一真の親しげな様子に不満を漏らし、これから始まる複雑な人間関係を予感させる。


### 第4話:バスケと予感


 新しい家族となった雄宇と佳代子が柊家に引っ越してきてから初めての朝。食卓には、誠一郎、佳代子、そして雄宇と一真の四人が並んでいた。まだ少しぎこちない空気の中、佳代子が温かい味噌汁をよそってくれる。雄宇は、昨日のレストランでの一件があったせいか、少し恥ずかしそうに下を向いていた。


「雄宇ちゃん、朝食は和食が好きかしら?」


 佳代子の優しい声に、雄宇は顔を上げ、笑顔を見せた。


「うん!お母さんの作る味噌汁、久しぶり」


 雄宇はそう言って、佳代子に抱きつく。その姿を見て、一真は少しだけ安堵した。由季と離れ離れになっていた雄宇が、母親と再会できたこと、そして新しい家族との生活を始めることに、一真は心から喜んでいた。


「一真くん、今日はどうするの?」


 佳代子の言葉に、一真は思い出す。今日は、柚希の家の庭にあるハーフコートで、由季と柚希、そして雄宇とバスケをする約束をしていたのだ。


「柚希の家の庭で、みんなでバスケをしてくるよ」


 一真がそう言うと、雄宇は目を輝かせた。


「やった!あたしも行く!」


 由季と柚希、そして雄宇がバスケのユニフォームに着替え、柚希の家の庭にあるハーフコートに集まってきた。柚希の家の庭は、一真にとって、幼い頃からずっと遊び場だった。バスケを始めたきっかけも、この庭だった。一真の幼馴染である柚希は、一真とバスケをすることを、特別なことだと考えている。


「さあ、始めようぜ!」


 一真はそう言って、由季にパスを出す。由季は、バスケ部でセンターを務めているだけあって、高い身長を活かした力強いシュートを決めた。雄宇も、負けじと素早い動きでボールを奪い、正確なパスを一真に通す。


 一真は、由季と雄宇の互角なプレーに、目を奪われる。由季のプレーは、力強く、そして正確だった。雄宇のプレーは、活発で、そして大胆だった。二人は、言葉を交わさずとも、バスケを通して互いの気持ちを通じ合わせているようだった。


「ねえ、一真。ぼーっとしてないで、あたしにもパスちょうだい!」


 柚希が不満そうに声をかける。柚希は、由季と雄宇がバスケを通して双子の絆を再確認している様子を、複雑な思いで見つめていた。柚希にとって、バスケは一真との喧嘩の仲直りの儀式であり、特別な意味を持つものだった。その場に、由季と雄宇が加わったことで、その特別な時間が、少しずつ変わっていくような気がしていた。


 バスケが終わると、四人は汗だくになって庭のベンチに座っていた。春の風が、火照った体を優しく撫でる。


「あー、気持ちよかった!」


 雄宇はそう言って、大きく伸びをする。


「ねえ、一真。汗だくになっちゃったし、このままみんなで一緒にお風呂入っちゃおうよ!」


 柚希がそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべる。一真は一瞬固まった。由季と雄宇も、柚希の突拍子もない提案に目を見開き、驚きと不満が混じった表情を浮かべる。柚希は、由季や雄宇にはない幼馴染という特別な関係を主張しようと、この提案をしたのだ。


 一真は、この状況をどう収めればいいのか分からず、頭を抱えた。由季は、一真の恋人として、この状況を許すわけにはいかない。雄宇は、由季と柚希に出遅れた焦りから、一真との関係を進展させたいと強く願っている。柚希は、由季と雄宇への対抗意識から、一真を独占したいと願っている。


 三つ巴の関係が、これから複雑に絡み合っていく予感を、一真は感じていた。


### 第5話:混浴と駆け引き


 柚希の家のハーフコートでのバスケを終えた四人は、リビングで火照った体を冷やしていた。春の柔らかい夕日が窓から差し込み、木の床にオレンジ色の縞模様を描いている。由季、雄宇、柚希の三人は、汗で湿った髪をタオルで拭いながら、思い思いにベンチや床に座っていた。その間、一真はキッチンで、冷たい麦茶を淹れていた。


 心地よい静けさが流れる中、最初に口を開いたのは柚希だった。


「ねえ、一真。このままみんなで一緒にお風呂入っちゃおうよ!」


 柚希の言葉に、一真はキッチンから顔を出し、由季と雄宇は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。一真は、柚希のこの発言が、ただの悪戯ではないことを知っていた。彼女の目には、由季と雄宇に対する明確な対抗意識が宿っていた。


「何言ってるの、柚希。ありえないわ」


 由季が眉をひそめて言う。由季は一真の恋人であり、彼のことを一番理解しているという自負がある。にもかかわらず、柚希のこの発言は、由季のプライドを大きく傷つけた。


「いいじゃない、由季。どうせ、みんな同じ女子バスケ部だし、それに一真はあたしたちの幼馴染なのよ? なんの気兼ねもいらないでしょ」


 柚希は、由季の言葉を軽く受け流す。彼女の口調は、まるで由季が子供じみたことを言っているかのように聞こえた。柚希の言葉には、由季や雄宇にはない幼馴染という特別な関係を主張しようとする独占欲が見え隠れしていた。柚希は、由季が一真と付き合っていること、そして雄宇が一真の新しい家族になったことに対する対抗意識を、隠そうともしていなかった。


「ふざけないで! あたし、由季と同じで一真くんの新しい家族なんだから。それに、柚希とは初対面じゃないか!」


 佐倉雄宇は、柚希の言葉に反発し、声を荒げる。雄宇は感情的になりやすい性格で、柚希の挑発的な態度に我慢ができなかった。


「初対面だからって何? あたしと一真は、あんたたちと違って、ずっと昔から一緒だったんだから」


 柚希は、由季と雄宇を同時に相手にしながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。狭い風呂場に四人同時にいることの物理的な窮屈さと、彼女たちの意地の張り合いに、一真は頭を抱えた。


「柚希、由季、雄宇。みんな落ち着いてくれ」


 一真は、三人の間に割って入った。


「狭い風呂場に四人同時にっていうのは、さすがに窮屈すぎるだろ。それに、みんなの気持ちを無視するわけにはいかない」


 一真はそう言って、三人の気持ちに応えたいという想いを込めて、一つの提案をする。


「わかった。じゃあ、こうしよう。三人は、俺が一人ずつ体を洗ってやる。それが、みんなの意地と期待に応えるための、俺の誠意だ」


 一真の言葉に、由季と雄宇、そして柚希は、驚きの表情を浮かべる。一真が、三人の気持ちを真正面から受け止めようとしている。その誠実な態度に、三人はそれぞれ複雑な思いを抱いた。


「じゃあ、あたしが一番だね。柚希と由季は二番手、雄宇は三番手だ」


 柚希は、一真の言葉に安堵したように微笑み、入浴順を決める。由季は、柚希が「一番」という言葉を使わなかったことに少しだけ安堵したが、それでも「二番」という言葉には不満を覚えた。しかし、それ以上に、一真と二人きりの時間が持てることに、胸の鼓動が高鳴るのを抑えられなかった。


 雄宇は、柚希が自分を三番手にしたことに不満を抱いたが、一真が自分を特別扱いしてくれたことに喜びを感じた。そして、次に一真と二人きりの時間が持てることを楽しみに、一真の提案を受け入れた。


 一真は、三人の視線を受け止めながら、自分の提案が、これから始まる複雑な人間関係の始まりになることを予感していた。


### 第6話:由季の戸惑いと情愛


 柊一真と立花由季は、二人きりで湯気が立ち込める浴室にいた。リビングでは柚希と雄宇が待機している。一真の「三人は、俺が一人ずつ体を洗ってやる」という決断から、一番手を務めることになった由季は、心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。


 由季は、一真の恋人であるにもかかわらず、肌をさらすことにこれほど戸惑いを覚えるとは、思ってもみなかった。彼女は、中学の女子バスケ部で鍛え上げられたバランスの取れた引き締まった体型をしている。それは、由季が常に自分自身を律し、目標に向かって真摯に努力してきた証だった。しかし、その完璧な体でさえ、一真の前に立つと、まるで無防備な少女に戻ったかのように感じてしまう。


 由季の葛藤を察したように、一真は彼女の背中に手を回し、優しく声をかけた。


「由季、大丈夫か?」


 一真の温かい手が背中に触れると、由季の震えは少しだけ収まった。


「……うん、大丈夫」


 由季は震える声で答えながら、ゆっくりと一真の方へ体を向けた。一真は、由季の黒髪のストレートロングヘアーをそっとかき分け、背中全体を泡立てたタオルで優しく洗っていく。一真の指先が由季の滑らかな肌に触れるたびに、由季は全身にゾクゾクと熱が広がるのを感じた。


「由季の体、すごく引き締まってるな。さすが、女子バスケ部のエースだ」


 一真は、彼女の背中の筋肉や、滑らかな肌を具体的に褒めた。由季の体は、女子バスケ部の練習で鍛えられたアスリートの体だった。一真はそんな彼女の努力を、誰よりも理解してくれている。彼の優しさと誠実さに触れ、由季の戸惑いは少しずつ薄れていった。


 一真は背中を洗い終えると、由季の前に回り込む。由季は、恥ずかしさから顔を赤らめ、一真から視線を逸らそうとした。


「由季、大丈夫だ。俺は、由季のすべてが好きだ」


 一真はそう言って、由季の瞳をまっすぐに見つめた。彼の瞳には、由季への深い愛情が宿っていた。その瞳に、由季は心を許し、硬直していた体を少しずつ柔らかくしていく。


 一真は、由季の引き締まった胸元に手を添えた。由季は一瞬息をのんだ。これまで誰にも触れさせたことのない、一真にだけ見せる特別な場所。一真の指先が、由季の豊満なバストに触れるたび、由季の心臓は激しく鼓動を打った。


 一真は由季の体全体を、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に洗っていく。由季は、一真の指先がデリケートな部分に触れるたびに、全身に電流が走るような感覚を覚える。恥ずかしさから、由季は目を閉じ、一真に身を委ねた。


「由季の体、本当に綺麗だ」


 一真は、由季の体の曲線や、滑らかな肌を褒めた。由季は、一真の言葉に恥ずかしさを覚えながらも、彼の優しさに心を温める。そして、由季は意を決し、震える声で一真に語りかける。


「この体は……いつか、一真との子を産んで、育てるための体なの」


 由季の言葉に、一真は驚きを隠せない。由季は、自分の体が一真の存在によって特別な意味を持つようになったと、彼の前で初めて言葉にしたのだ。彼女の言葉は、由季の一真への深い愛情と、二人の将来への希望を物語っていた。


 一真は由季の言葉に心を打たれ、彼女を強く抱きしめる。そして、彼女の潤んだ瞳を優しく見つめ、そっと唇を重ねた。それは、由季の不安をすべて取り除き、彼の恋人であることに改めて幸福を感じさせる、甘く、優しいキスだった。


 一真の腕の中で、由季は涙を流す。一真の優しさと、彼の温もりが、由季の心を癒していく。由季は、一真の存在が、自分にとってどれほど大きなものかを改めて実感した。そして、一真との二人きりの時間が、由季にとってかけがえのないものになっていく予感がした。


### 第7話:雄宇の告白と憧憬


 由季が浴室から出ていき、リビングに戻ると、佐倉雄宇はまるでバスケの試合でコートに立つ直前の選手のように、今か今かと待ちわびていた。その瞳には、由季との二人の時間を終えた一真への、少しばかりの焦りと、これから始まる自分だけの時間への期待が入り混じっている。


「一真くん、行こう!」


 雄宇の声は、由季のそれよりも弾んでいて、彼女の活発な性格をそのまま表しているようだった。雄宇は迷いなく一真の手を取り、浴室へと向かう。彼女の体からは、まるで今にもバスケのコートを駆け出しそうなエネルギーが感じられた。


 浴室に入ると、由季とは対照的に、雄宇は何の躊躇もなく服を脱ぎ始めた。由季の入浴シーンで感じた緊張感とは違う、まっすぐで初々しい空気が浴室に満ちていく。一真は、雄宇のその大胆な行動に少し戸惑いながらも、彼女の健やかな肉体美に目を奪われた。引き締まった太ももや、健康的な肌の色、そして由季とよく似た胸の膨らみに、一真は思わず息をのんだ。


「一真くん、どうしたの? 早く早く!」


 雄宇は悪戯っぽい笑みを浮かべ、湯船に浸かる一真の隣に座った。雄宇は泡立てたタオルで自分の体を洗い始めた。


「ねえ、一真くん。覚えてる? あたし、中学の時にあなたに助けてもらったんだ」


 雄宇はそう言って、中学2年生の夏、バスケの試合会場でバッグをなくして困っていた自分を一真が助けてくれた出来事を語り始めた。雄宇の活発な性格とは裏腹に、その声はどこか寂しそうに震えていた。


「あの時、本当に嬉しかったんだ。知らないあたしのために、二時間も探してくれて。タクシー代までくれて……」


 雄宇はそう言って、一真の肩にそっと頭を乗せた。その仕草は、由季と離れて暮らしていた間の寂しさや、由季への複雑な思いがにじみ出ているようだった。


「あの時から、ずっとあなたのことが好きだった。由季ちゃんには負けないって、ずっと頑張ってきたんだ」


 雄宇の言葉に、一真は心を打たれた。由季と柚希に出遅れた焦りから、雄宇は一真に積極的に触れ、関係の進展を求める。


「雄宇、ありがとう。俺も、雄宇のひたむきな想い、ちゃんと受け止めてる」


 一真はそう言って、雄宇の頭を優しく撫でた。


「でも、由季ちゃんには……」


 雄宇はそう言って、由季が一真の恋人であることに触れた。


「ねえ、一真くん。あたし、由季ちゃんと柚希ちゃんには負けたくないの。だから、お願いがあるの」


 雄宇は湯船から立ち上がると、一真の前に立ち、彼の瞳をまっすぐに見つめた。彼女の濡れた髪から滴る水滴が、雄宇の瑞々しい肌を滑り落ちていく。


「一真くんの…‥あたしだけの一真くんになって欲しいの」


 雄宇はそう言って、一真の胸に顔をうずめた。一真は、彼女のひたむきな想いと健やかな肉体美に心を打たれる。初々しくも大胆な行動に戸惑いながらも、その純粋さを受け止めようと努める。


 入浴後、一真が雄宇の体を拭いてやると、雄宇は一真の腕の中にすっぽりと収まり、彼を強く抱きしめる。


「一真くん、あたしのお願い聞いてくれる?」


 雄宇は上目遣いで一真に問いかける。


「ああ、もちろんだ」


「これから、毎日あたしの体を洗って欲しいの」


 雄宇の言葉に、一真は再び驚きを隠せない。由季と柚希、そして雄宇。三人のヒロインとの関係が、これからさらに複雑に絡み合っていく予感を、一真は感じていた。


### 第8話:柚希の秘密と独占欲


 由季と雄宇が浴室から出ていき、リビングで待機している間も、東雲柚希は落ち着かなかった。由季が一真と二人きりで過ごした時間、雄宇が大胆な行動で一真との関係を進展させようとしたこと。その二つの出来事が、柚希の心を激しく揺さぶっていた。幼馴染という、誰にも負けないはずの特別な関係が、由季の恋人という立場や、雄宇の新しい家族という立場に脅かされているような、そんな焦燥感が柚希を支配していた。


 一真は、由季と雄宇の入浴を終え、リビングに戻ってきた。柚希は、彼が自分の方に向かってくるのを待っていたかのように、すぐに立ち上がった。彼女の瞳は、由季と雄宇への対抗意識から、いつも以上に強い光を宿している。


「お待たせ、一真」


 柚希は、一真の目の前まで来ると、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。由季のような戸惑いも、雄宇のような迷いもない。彼女の動きは、まるで一真にその肉体を披露するかのように、自信に満ち溢れていた。由季や雄宇とはまた違う、肉感的な体つきが、湯気でぼんやりと霞む浴室の中で、女性的な魅力を放っている。


「柚希……」


 一真は、柚希の豊かな曲線や柔らかい肌に目を奪われた。彼女の体は、由季の引き締まった体とも、雄宇の健やかな体とも違う、柚希だけの魅力を放っていた。柚希は、そんな一真の視線に気づくと、満足そうに微笑んだ。


「どう? 由季や雄宇とは違うでしょ?」


 柚希はそう言って、一真に近づく。彼女の吐息が、一真の頬にかかる。その距離は、由季や雄宇との入浴時よりも、さらに近かった。


「何もかも、違うでしょ? あたしと一真の関係は、由季や雄宇とは違うの。だって、あたしたち、幼馴染なんだから」


 柚希は、身体的なスキンシップを通して、由季や雄宇よりも一真に親しいとマウントを取りたかった。一真は、柚希の正直で独占的な感情を受け止め、彼女の言葉に頷いた。


「ああ、柚希の言う通りだ。俺と柚希は、幼馴染だ。それは、誰にも代えられない特別な絆だ」


 一真は、柚希の体を優しく洗い始めた。柚希の柔らかい肌に触れるたび、一真は彼女の女性的な魅力に心を打たれる。柚希は、一真の指先が自分の体に触れるたびに、ゾクゾクと全身に熱が広がるのを感じた。


「ねえ、一真。由季のこと、どう思ってる?」


 柚希は、突然そう尋ねた。彼女の質問には、由季への嫉妬と、一真の心を確かめたいという切ない願いが混じり合っていた。


「由季は……俺の恋人だ。大切な存在だよ」


 一真は、柚希の質問に正直に答える。


「そう……でも、あたしは、由季には負けないから」


 柚希はそう言って、一真の胸に顔をうずめた。柚希は、由季と雄宇への対抗意識から、一真との関係の特別さを主張する。


「一真は、あたしだけのものになってくれるよね?」


 柚希は、一真にそう問いかける。彼女の言葉には、由季と雄宇への嫉妬と、一真を独占したいという強い独占欲がにじみ出ていた。


 一真は、柚希の正直な感情を受け止め、彼女を強く抱きしめる。一真は、柚希が幼馴染として特別な存在であることを改めて意識し、彼女の不安を和らげようと努めた。


「柚希、俺と柚希は、これからもずっと一緒だ」


 一真の言葉に、柚希は安堵する。しかし、一真の心の奥底では、柚希の行動が、由季と雄宇との関係に波紋を広げることを予感していた。三人のヒロインとの関係が、これからさらに複雑に絡み合っていく予感を、一真は感じていた。


### 第9話:由季との春休みデート


 混浴の日の翌日、柊一真と立花由季は、富岳市立総合体育館の観客席に並んで座っていた。春の柔らかな日差しが、大きな窓から差し込み、木の床を暖かく照らしている。空気は微かに汗と埃の匂いが混じり合い、天井から吊るされた照明が、その粒子をきらきらと輝かせていた。二人の目の前では、高校のバスケ部が練習試合を行っている。由季は、一真の隣で、選手たちの動きを真剣な眼差しで追っていた。彼女の瞳は、バスケをしている時と同じくらい、強い意志の光を宿している。その真剣な横顔は、一真にとって、普段の清楚な由季とはまた違う、凛とした美しさを持っていた。


 ボールが弾むたびに、「バンッ、バンッ」と低く、重い音が体育館に響く。シューズが床を擦る「キュッ、キュッ」という鋭い音。選手たちの荒い息遣い。それらが混ざり合い、静かな興奮を醸し出していた。由季は、観客席で身を乗り出し、まるで自分もコートに立っているかのように、選手たちのプレイに集中していた。彼女の目は、ボールの動き、パスのコース、選手の足の運びまで、全てを見逃すまいとしていた。由季の頬を伝う汗が、光を浴びて宝石のように輝く。


「由季、バスケ本当に好きだよな。見てるだけで、なんか伝わってくるよ」


 一真がそっと声をかけると、由季はわずかに顔を綻ばせ、一真の方を向いた。その横顔は、いつも以上に美しく、一真は一瞬息をのんだ。


「うん。だって、一真と二人きりでバスケ見られるなんて、初めてだもん」


 由季はそう言って、照れたように微笑んだ。その笑顔は、中学時代にクラス委員の仕事を通して出会った頃と何も変わらない、清楚で真面目な由季の笑顔だった。しかし、その笑顔の奥には、一真だけが知る、繊細で脆い一面が隠されていることを、一真は知っていた。彼女の目には、バスケに対する情熱だけでなく、何かを必死に追い求めているような、切ない光が宿っているように感じられた。


 ハーフタイムになると、由季は、バスケについて熱く語り始めた。


「あの選手のシュート、すごく綺麗だと思わない? でも、あの体勢からだと、ブロックされやすいんだよね。私だったら、もっとフェイクを入れて……」


 由季は、身振り手振りを交えながら、バスケのプレイについて熱心に解説する。その姿は、バスケに対する彼女の情熱と、何事も完璧にこなさなければならないという完璧主義な一面を物語っていた。一真は、そんな由季の姿を愛おしく思いながら、彼女の言葉に真剣に耳を傾ける。


「由季は、バスケが本当に好きなんだな」


 由季は、一真の言葉に少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「うん。だって、バスケをしてる時だけは、何もかも忘れられるから」


 由季はそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべた。一真は、由季が何を言いたいのか、すぐに理解した。由季は、両親の離婚や、双子の妹である雄宇と離れ離れになったこと、そして完璧な自分でなければならないというプレッシャーから、逃れたいと願っているのだ。


 一真は、そんな由季の心に寄り添うように、彼女の手をそっと握った。由季は、一真の温かい手に驚き、顔を赤らめる。


「由季、バスケ以外でも、俺が由季の心を癒せる場所になれたらいいな」


 一真の言葉に、由季の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。由季は、感情を表に出すのが苦手だった。しかし、一真の前では、自分の弱い部分をさらけ出すことができた。


「一真……」


 由季は、震える声で一真の名前を呼んだ。


「ありがとう……」


 由季は、一真の優しさと誠実さに心を温め、彼の恋人であることに改めて幸福を感じた。


 試合が終わると、二人は駅前のカフェに立ち寄った。窓から差し込む夕日が、二人の間に穏やかな時間を運んでくる。一真は、由季の手を握り、「これからも二人で色々なところに行こうな」と告げる。


「うん、行きたい。一真と一緒なら、どこでも楽しい」


 由季はそう言って、一真に微笑んだ。その笑顔は、中学時代にクラス委員の仕事を通して出会った頃と何も変わらない、清楚で真面目な由季の笑顔だった。しかし、その笑顔の奥には、一真だけが知る、繊細で脆い一面が隠されていることを、一真は知っていた。


 その日の夜、由季は一真に「今日は本当にありがとう。楽しかった」とメッセージを送った。一真もまた、由季からのメッセージを何度も読み返し、由季との関係が、これからさらに深く、温かいものになっていく予感を感じていた。


### 第10話:柚希の焦燥と決意


 柊一真と立花由季のデートの翌日、東雲柚希は、一真の家のリビングで、由季と雄宇、そして一真と四人でテーブルを囲んでいた。由季の顔には、昨日の一真とのデートの余韻が、まるで春の陽だまりのように温かく、そしてはっきりと浮かんでいた。一真もまた、由季との時間が心に残っているのか、時折、彼女の横顔を穏やかな眼差しで見つめている。その光景を目の当たりにした柚希の胸には、微かな焦燥感が芽生え始めていた。


「一真くん、昨日は由季ちゃんとどこに行ったの?」


 雄宇が屈託のない笑顔で由季に尋ねた。彼女の声には、姉の幸せを心から喜んでいるような響きがあった。しかし、その根底には、自分だけが知らなかった一真と由季の秘密の時間に対する、わずかな寂しさが隠されていることを、柚希は敏感に察していた。雄宇は、由季と離れ離れになっていた時間が長かったからこそ、由季の幸せを誰よりも願う一方で、一真との関係では由季に負けたくないという、複雑な感情を抱えているのだ。


「近くの体育館で、バスケの練習試合を見てきたんだ」


 一真がそう答えると、由季は恥ずかしそうに下を向いた。その仕草一つ一つが、柚希には二人の特別な絆を誇示しているように見えて、胸が締め付けられるような気持ちになった。


「バスケかあ……。いいなあ。今度、あたしも一真くんと二人きりでバスケしたいな!」


 雄宇がそう言って、一真に甘えるように身を寄せる。その行動は、由季に対する明確な挑発だった。由季の表情は、一瞬だけ固まり、すぐに元の穏やかな笑顔に戻ったが、柚希は、由季の瞳の奥に、完璧主義者としての不満が燃え上がっているのを感じ取った。由季は、一真の恋人である自分に、誰かが対抗しようとすること自体を許せないのだ。


 柚希は、由季と雄宇の間に漂う、静かな、しかし確かな緊張感を肌で感じていた。幼馴染として、一真のことを一番よく知っているのは自分だという自負が、柚希にはあった。しかし、由季は一真の恋人という絶対的な立場にあり、雄宇は新しい家族という関係性を盾に、一真のそばにいる権利を主張している。


 柚希は、このままでは一真が由季と雄宇のどちらかに奪われてしまうかもしれないという、強い危機感を覚えた。


 由季と雄宇、そして一真が話に夢中になっている間、柚希は一人、考えを巡らせていた。


 由季は、完璧な自分でなければ一真に愛されないと信じている。それは、彼女の深い愛情の裏返しであると同時に、彼女自身を苦しめる鎖でもある。由季の抱える葛藤や脆さを知っているのは、一真だけだ。そのことを由季は知っているからこそ、一真の前では安心して自分の弱い部分をさらけ出すことができる。


 一方、雄宇は、由季と離れ離れになっていた間の寂しさや、由季への複雑な思いを、一真へのひたむきな想いにぶつけている。雄宇にとって、一真は、由季とは違う、自分だけの特別な存在なのだ。


 そして自分。柚希は、幼馴染という特別な立場を、由季や雄宇に脅かされていると感じていた。柚希は、由季と雄宇への対抗意識から、一真を独占したいと強く願っている。しかし、柚希は、一真が由季と雄宇、どちらも大切に思っていることを知っている。


 柚希は、由季や雄宇と同じ土俵で戦うのではなく、幼馴染として、一真の心を一番深く理解しているのは自分だということを、一真に証明する必要があると考えた。


 柚希は、由季と雄宇が席を外した隙を見て、一真に声をかけた。


「ねえ、一真。由季や雄宇と違って、あたしは一真のすべてを一番よく知ってる。だって、あたしたち、ずっと一緒だったんだから」


 柚希の言葉には、由季と雄宇への対抗心と、一真を独占したいという強い独占欲がにじみ出ていた。


「ああ、柚希の言う通りだ。柚希は、俺の特別な存在だよ」


 一真は、柚希の正直な感情を受け止め、彼女を優しく抱きしめる。一真の温もりに触れ、柚希は安堵した。


「柚希、俺は由季も雄宇も大切だ。だから、二人とも、俺にとって一番だ」


 一真の言葉に、柚希は少しだけ不満を覚えた。しかし、一真が自分を特別扱いしてくれたことに喜びを感じた。


 柚希は、由季や雄宇とは違う、幼馴染としての一真との関係を、これからさらに特別なものにしていくことを心に決意した。そして、柚希は一真に、ある提案をする。


「ねえ、一真。今度、二人だけで旅行に行こうよ。もちろん、由季や雄宇には内緒で」


 柚希の言葉に、一真は驚きを隠せない。由季と雄宇、そして柚希という三つ巴の関係が、これからさらに複雑に絡み合っていく予感を、一真は感じていた。


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### 第11話:雄宇との添い寝の一夜


 柊家への引越しを終えたその日の夜、佐倉雄宇は自分の部屋のベッドの上で、なかなか寝付くことができずにいた。新しい部屋の匂い、家具の配置、窓から見える見慣れない景色。すべてが雄宇の心をざわつかせ、由季と離れ離れになっていた小学六年生の頃の寂しさが、胸の奥から蘇ってくるようだった。


 昼間は、由季や柚希もいて、引越しの手伝いという名目で賑やかに過ごすことができた。バスケを通して由季との絆を再確認し、一真と二人きりで話す時間も持てた。しかし、夜になり、一人きりになると、雄宇は新しい生活への不安に襲われた。由季は自分の母親と再会できたことを喜んでくれていたが、それは同時に、由季が一真の家に住むことになった雄宇に対して、複雑な感情を抱いていることを示唆しているようだった。そして、柚希。彼女は一真の幼馴染という特別な立場を、雄宇の目の前で誇示していた。


 雄宇は、由季や柚希に比べて、自分は一真のそばにいる時間が圧倒的に少ない。その事実が、雄宇の焦燥感をさらに煽った。このままでは、由季や柚希に一真を奪われてしまうかもしれない。そんな不安が、雄宇の心を締め付けていく。


 雄宇は、静かにベッドから抜け出すと、そっと自分の部屋のドアを開けた。廊下には、一真の部屋のドアが見える。雄宇は、一真の部屋のドアの前で立ち止まり、ドアノブに手をかけた。一真に嫌われてしまうかもしれない。そんな不安が、雄宇の胸をよぎる。しかし、一真に会いたい。彼の温もりに触れたい。その想いが、雄宇の不安を打ち消した。


 雄宇は、ゆっくりと一真の部屋のドアを開けた。一真は、ベッドの上で読書をしていた。一真は、ドアを開けた雄宇を見て、少し驚いた表情を浮かべる。


「雄宇、どうした? 寝れないのか?」


 一真の優しい声に、雄宇の瞳から涙がこぼれ落ちる。雄宇は、一真の胸に顔をうずめ、震える声で語り始めた。


「一真くん……怖いの。新しい家、新しい生活。何もかもが怖いの」


 雄宇は、一真の胸に顔をうずめ、由季と離れて暮らしていた間の寂しさや、由季への複雑な思いを語る。


「由季ちゃんが、あたしがここにいることを喜んでくれたのは嬉しかった。でも、由季ちゃんは……あたしが一人で由季ちゃんの分までお母さんを独占してるって思ってるんじゃないかって……」


 雄宇の言葉に、一真は静かに彼女の頭を撫でる。


「そんなことない。由季は、雄宇が新しい家族と幸せに暮らせることを、心から願ってる」


 一真の言葉は、雄宇の心を癒していく。雄宇は、一真の胸に顔をうずめ、彼の温もりを全身で感じていた。


「一真くん……お願いがあるの」


 雄宇はそう言って、一真の瞳をまっすぐに見つめた。


「添い寝して欲しいの。由季ちゃんには言えない、あたしだけの秘密」


 雄宇の言葉に、一真は少し戸惑いながらも、その純粋さを受け止めようと努める。一真は、雄宇の願いを聞き入れ、彼女の隣に横になった。


 雄宇は、一真の胸に顔をうずめ、彼の温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。由季と離れ離れになっていた間の寂しさや、由季への複雑な思いが、一真の腕の中で、少しずつ溶けていくようだった。


 静かに雄宇の頭を撫で、彼女の孤独な心を癒す一真は、由季と雄宇の双子の姉妹としての深い絆を改めて意識する。二人は、同じ顔、同じ声、同じ背丈。しかし、二人が抱える心の傷は、それぞれ違っていた。


 一真は、由季と雄宇、そして柚希という三人のヒロインが、それぞれ違う形で自分に心を寄せていることを改めて実感する。そして、その三人の気持ちを、どう受け止めるべきか、一真は静かに考えを巡らせていた。


### 第12話:女子会と三つ巴の誓い


 柊一真が父の誠一郎と買い物に出かけた日の午後、由季の部屋では、由季、雄宇、柚希の三人による女子会が開かれていた。窓から差し込む柔らかな光が、三人の複雑な心情を静かに照らし出す。一真という共通の存在を介して、それぞれが抱える想いと、これから始まる高校生活への期待と不安が、この小さな空間に渦巻いていた。


 最初はたわいもない話から始まった。由季が通う高校の校則や、雄宇が転入してきたばかりで慣れない環境に戸惑っていること、そして柚希が女子バスケ部での練習について語る。しかし、会話は次第に、三人の核心に触れていく。


「ねえ、由季。一真くんのこと、本当に好きなんだね」


 雄宇が、由季にそう尋ねた。雄宇の瞳は、由季の瞳をまっすぐに見つめている。その瞳には、由季への複雑な感情が入り混じっていた。


「うん。だって、中学一年の時、クラス委員の仕事で一緒になって。一真くんの誠実なところに惹かれたんだ。高校に入って、ようやく付き合えるようになったんだから」


 由季は、そう言って、一真との出会いを語る。その表情は、一真への深い愛情に満ち溢れていた。


「あたしは、小学校の頃から一真のことが好きだったんだから。由季には負けないよ」


 柚希がそう言って、由季に宣戦布告する。柚希の言葉には、由季への対抗心と、一真を独占したいという強い独占欲がにじみ出ていた。


「あたしだって、由季ちゃんには負けない。一真くんは、あたしが中学時代に困っていた時に助けてくれた、あたしだけの王子様なんだから」


 雄宇もまた、柚希の言葉に反発し、一真への想いを語る。


 三人は、一真をめぐる複雑な関係について、互いの想いを「諦められない」と共有した。


「あたしと柚希は、小学校の頃からずっと一緒だった。バスケを通して、たくさん喧嘩して、たくさん仲直りして」


 由季は、そう言って、柚希との思い出を語る。


「あたしと雄宇は、離れ離れになっていた時間が長かったけど、バスケを通して、また姉妹としての絆を再確認できた」


 由季は、そう言って、雄宇の瞳を見つめる。


 三人は、それぞれの過去と、一真との絆を語り合い、互いの感情を吐露する。由季と柚希、そして雄宇。三人は、それぞれの形で一真を愛していた。


「ねえ、由季。このままだと、一真くんが苦しむだけじゃないかな」


 雄宇がそう言って、由季に尋ねた。


「うん。だから、あたしたちが、一真くんを苦しませるようなことはしたくないの」


 由季はそう言って、三人に一つの提案をする。


「とりあえず仲良くしながら、それぞれの気持ちを大切にしよう」


 由季の言葉に、雄宇と柚希は頷いた。三人は、一真をめぐる複雑な関係の中で、互いを尊重し、支え合うことを決意した。この「休戦協定」は、単なるライバル関係ではなく、互いを尊重し、支え合う新しい友情の形を築くための第一歩となる。一真という共通の存在を介して、複雑でありながらも強い絆で結ばれていくことを予感させる。


### 第13話:それぞれの胸の内


 女子会で「休戦協定」を結んだ翌日、柊一真は、由季の部屋で、彼女が描いた高校バスケの戦術ノートを眺めていた。由季は、一真の隣で、ノートに書き込まれた図やメモを指差しながら、熱心に解説してくれる。彼女の瞳は、バスケについて語る時、いつも以上に輝いている。


「ね、一真くん、どう思う? この戦術」


 由季がそう言って一真に尋ねると、一真は少し考えた後、彼女に自分の考えを伝えた。


「由季、この戦術はすごく面白いと思う。でも、もし相手がゾーンディフェンスを敷いてきたら、どうする?」


 一真の言葉に、由季は一瞬戸惑った表情を浮かべる。由季は完璧主義者で、自分の考えた戦術に絶対の自信を持っていた。しかし、一真の指摘は、彼女が気づかなかった弱点を突いていた。


「……確かに。ゾーンディフェンスは想定してなかったな」


 由季は、そう言って、少しだけ悔しそうな顔をする。一真は、そんな由季の姿を見て、彼女の肩にそっと手を置いた。


「由季、一人で完璧な戦術を考えなくてもいいんだ。俺も一緒に考えるから」


 一真の言葉に、由季の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。由季は、感情を表に出すのが苦手だった。しかし、一真の前では、自分の弱い部分をさらけ出すことができた。一真は、由季の完璧主義な性格の裏に隠された、繊細で脆い心を知っていた。そして、その心を支えてあげたいと、心から願っていた。


 一方、リビングでは、雄宇が柚希にバスケの練習に誘い出されていた。


「柚希ちゃん、本当にありがとう。由季ちゃんに負けないように、たくさん練習しないと」


 雄宇は、そう言って、柚希に感謝の言葉を述べた。


「いいのよ。あたしも、由季には負けたくないから」


 柚希はそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべる。柚希は、雄宇が由季と離れ離れになっていた間の寂しさや、由季への複雑な思いを、一真へのひたむきな想いにぶつけていることを知っていた。柚希は、雄宇のそのひたむきな想いを、自分と一真の関係を進展させるための「共闘関係」に利用しようと考えていた。


 柚希と雄宇は、二人でバスケの練習に励む。雄宇は、柚希の力強いパスを受け、正確なシュートを決める。柚希は、雄宇の素早い動きに、驚きを隠せない。二人は、バスケを通して、言葉を交わさずとも、互いの気持ちを通じ合わせているようだった。


「ね、柚希ちゃん。もし、あたしと由季ちゃんが、一真くんのことで喧嘩になったら、どうする?」


 雄宇がそう尋ねると、柚希は一瞬考えた後、彼女に自分の考えを伝えた。


「あたしは、由季と雄宇、どっちの味方もしない。だって、二人とも、一真にとって大切な存在だから」


 柚希の言葉に、雄宇は安堵したような表情を浮かべる。柚希は、由季と雄宇への対抗心から、一真を独占したいと強く願っている。しかし、柚希は、一真が由季と雄宇、どちらも大切に思っていることを知っている。だからこそ、彼女は、中立の立場を保つことで、一真との関係をさらに特別なものにしようと考えていた。


 夕方になり、一真が買い物から戻ってきた。リビングには、柚希と雄宇が汗だくになって座っていた。一真は、二人の姿を見て、微笑んだ。


「二人とも、頑張ったな」


 一真は、そう言って、二人に冷たい飲み物を渡す。柚希と雄宇は、一真の優しさに心を温める。


 由季と雄宇、そして柚希。三人のヒロインは、それぞれの形で一真を愛していた。そして、一真は、その三人の気持ちを、どう受け止めるべきか、静かに考えを巡らせていた。三人の気持ちに応えたいという想いから、一真は、それぞれの気持ちを大切にしようと決意する。


### 第14話:由季と雄宇、二人だけの時間


 女子会で結ばれた「休戦協定」の翌日、由季は、一真の家で雄宇と二人きりで過ごすことになった。一真は、由季と雄宇、そして柚希の関係が、これからさらに複雑に絡み合っていく予感を抱きつつ、由季と雄宇が二人きりで話せるようにと、気を利かせて外に出ていった。由季は、一真の優しさに心を温めながらも、これから雄宇と何を話せばいいのか、少し戸惑っていた。


 由季と雄宇は、リビングのソファに並んで座っていた。窓から差し込む夕日が、二人の間に、まだ少しぎこちない空気を生み出している。由季は、雄宇の横顔を見つめる。由季と雄宇は、まるで鏡のようにそっくりな顔立ちをしていた。しかし、由季の瞳が、どこか憂いを帯びた光を宿しているのに対し、雄宇の瞳は、活発で、少し生意気な光を宿している。


 由季は、勇気を出して、雄宇に話しかけた。


「雄宇……、今まで、ごめんね」


 由季の言葉に、雄宇は驚いた表情を浮かべる。


「由季ちゃん、どうして謝るの?」


「だって、あたし、雄宇のことをずっと探してたのに、見つけられなかったから」


 由季の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。雄宇は、由季の言葉に心を打たれ、彼女を強く抱きしめる。


「由季ちゃん、謝らないで。あたしは、由季ちゃんがどこにいても、由季ちゃんのこと、ずっと大好きだったから」


 雄宇はそう言って、由季の頭を優しく撫でた。由季と離れ離れになっていた間の寂しさや、由季への複雑な思いが、雄宇の言葉を通して、由季の心に伝わってくる。


 由季は、雄宇の腕の中で、涙を流す。由季と雄宇は、バスケという共通の話題を通して、距離を縮めていく。


「雄宇、バスケ、本当に好きだね」


「うん!だって、バスケをしてる時だけは、何もかも忘れられるから」


 雄宇はそう言って、由季に微笑んだ。その笑顔は、中学時代に一真が雄宇に好意を寄せていることを知り、由季に対抗意識を燃やすようになるきっかけとなった、雄宇の笑顔だった。


 由季は、雄宇の笑顔を見て、彼女の気持ちを理解した。雄宇は、由季が何を言いたいのか、すぐに理解した。由季は、両親の離婚や、双子の妹である雄宇と離れ離れになったこと、そして完璧な自分でなければならないというプレッシャーから、逃れたいと願っているのだ。


 由季と雄宇は、互いの心をさらけ出し、涙ながらに姉妹としての再会を喜び合う。離れていた間の寂しさや、由季をずっと探し続けていたことを打ち明ける雄宇に、由季も複雑な感情を抱く。由季は、雄宇のひたむきな想いに心を打たれ、彼女を強く抱きしめる。


 由季と雄宇は、一真という共通の存在を介して、複雑でありながらも強い絆で結ばれていく。


### 第15話:柚希の再戦と秘密の旅行計画


 柊一真と立花由季、佐倉雄宇が、姉妹としての絆を再確認し、由季の部屋で穏やかな時間を過ごしていた日の夜。東雲柚希は、自室のベッドに寝転がりながら、スマートフォンをじっと見つめていた。由季と雄宇が二人きりで過ごしたという事実が、柚希の心をざわつかせていた。二人の間に流れる空気が、以前とは比べ物にならないほど温かく、そして親密なものに変わったことを、柚希は敏感に察していた。


 由季は一真の恋人であり、雄宇は一真の新しい家族。そして由季は、雄宇の双子の姉。この三つの関係性が、強固な三角形を形成していくのを、柚希は感じていた。幼馴染という、誰にも負けないはずの特別な関係が、その強固な三角形の外に置かれてしまうかもしれない。そんな焦燥感が、柚希の胸を締め付けていた。


「このままじゃ、一真が由季と雄宇に全部持っていかれちゃう……」


 柚希はそう呟き、強く唇を噛んだ。由季と雄宇は、お互いの過去と、一真への想いを共有することで、新たな同盟関係を築いた。その同盟は、柚希にとって大きな脅威だった。柚希は、由季や雄宇と同じ土俵で戦うのではなく、幼馴染として、一真の心を一番深く理解しているのは自分だということを、一真に証明する必要があると考えた。


 翌日、柚希は一真を誘って、二人きりで富岳市の中心部にあるショッピングモールへと出かけた。平日の昼間、学生の姿はまばらで、落ち着いた時間が流れている。一真は、由季とのデートで訪れた体育館とはまた違う、都会的で洗練された雰囲気に、少しだけ戸惑っていた。


「ねえ、一真。由季や雄宇には内緒だよ」


 柚希は、そう言って一真の手をそっと握った。彼女の指先は、一真の掌に絡みつき、温かい。一真は、柚希の言葉に頷きながらも、由季や雄宇に嘘をついているような罪悪感を覚えた。


 二人は、ウィンドウショッピングを楽しんだり、カフェで話をしたり、映画を見たりした。柚希は、一真が由季や雄宇といる時とは違う、少しだけリラックスした表情を見せていることに気づき、満足そうに微笑んだ。


「ねえ、一真。由季と雄宇、最近すごく仲良くなったよね」


 柚希がそう尋ねると、一真は少し考えた後、彼女に自分の考えを伝えた。


「ああ。離れ離れになっていた時間が長かったから、きっと二人の間には、俺たちには分からない絆があるんだと思う」


 一真の言葉に、柚希は少しだけ寂しそうな顔をする。


「そう……。でも、一真には、由季や雄宇には言えない秘密を、あたしには話して欲しいな。だって、あたしと一真は、ずっと一緒だったんだから」


 柚希はそう言って、一真の瞳をまっすぐに見つめた。彼女の瞳には、由季と雄宇への対抗心と、一真を独占したいという強い独占欲がにじみ出ていた。柚希は、由季と雄宇の姉妹としての絆に、幼馴染という自分たちだけの特別な絆で対抗しようと考えていた。


 柚希は、一真に旅行のパンフレットを差し出した。それは、温泉地や遊園地、そして少し遠方のリゾート地など、さまざまな場所が載っていた。


「あたしと一真で、二人だけの思い出を作りたいの」


 柚希の言葉に、一真は驚きを隠せない。由季と二人きりでデートをしたばかりだった。由季は、一真の恋人として、自分との時間だけを特別だと感じてくれることを望んでいるだろう。しかし、柚希の真剣な瞳を見て、一真は彼女の気持ちを無下にはできなかった。


「分かった。柚希。二人で、最高の思い出を作ろう」


 一真は、柚希の手に乗せられた旅行のパンフレットを手に取った。そのパンフレットは、由季と雄宇に内緒で、柚希との関係をさらに特別なものにしていくための「秘密の旅行計画」の始まりを告げていた。


 柚希は、一真が自分の提案を受け入れてくれたことに安堵し、満面の笑みを浮かべる。しかし、一真の心の奥底では、柚希の行動が、由季と雄宇との関係に新たな波紋を広げることを予感していた。三人のヒロインとの関係が、これからさらに複雑に絡み合っていく予感を、一真は感じていた。


### 第16話:女子たちの「休戦協定」


 ゴールデンウィークが始まり、柊一真は父の誠一郎と買い物に出かけていた。由季や雄宇、そして柚希との複雑な関係に、一真は少しだけ疲れを感じていた。三人のヒロインは、それぞれが違う形で一真を愛していた。由季は恋人として、雄宇は新しい家族として、柚希は幼馴染として。一真は、三人の気持ちに応えたいと願っていたが、その優しさが、結果的に三人を傷つけてしまうのではないかと恐れていた。


 一方、柊家のリビングでは、由季、雄宇、柚希の三人による、三度目の女子会が開かれていた。窓から差し込む柔らかな光が、三人の複雑な心情を静かに照らし出す。一真という共通の存在を介して、それぞれが抱える想いと、これから始まる高校生活への期待と不安が、この小さな空間に渦巻いていた。


 最初はたわいもない話から始まった。由季が通う高校の校則や、雄宇が転入してきたばかりで慣れない環境に戸惑っていること、そして柚希が女子バスケ部での練習について語る。しかし、会話は次第に、三人の核心に触れていく。


「ねえ、由季。一真くんのこと、本当に好きなんだね」


 雄宇が、由季にそう尋ねた。雄宇の瞳は、由季の瞳をまっすぐに見つめている。その瞳には、由季への複雑な感情が入り混じっていた。


「うん。だって、中学一年の時、クラス委員の仕事で一緒になって。一真くんの誠実なところに惹かれたんだ。高校に入って、ようやく付き合えるようになったんだから」


 由季は、そう言って、一真との出会いを語る。その表情は、一真への深い愛情に満ち溢れていた。


「あたしは、小学校の頃から一真のことが好きだったんだから。由季には負けないよ」


 柚希がそう言って、由季に宣戦布告する。柚希の言葉には、由季への対抗心と、一真を独占したいという強い独占欲がにじみ出ていた。


「あたしだって、由季ちゃんには負けない。一真くんは、あたしが中学時代に困っていた時に助けてくれた、あたしだけの王子様なんだから」


 雄宇もまた、柚希の言葉に反発し、一真への想いを語る。


 三人は、一真をめぐる複雑な関係について、互いの想いを「諦められない」と共有した。


「あたしと柚希は、小学校の頃からずっと一緒だった。バスケを通して、たくさん喧嘩して、たくさん仲直りして」


 由季は、そう言って、柚希との思い出を語る。


「あたしと雄宇は、離れ離れになっていた時間が長かったけど、バスケを通して、また姉妹としての絆を再確認できた」


 由季は、そう言って、雄宇の瞳を見つめる。


 三人は、それぞれの過去と、一真との絆を語り合い、互いの感情を吐露する。由季と柚希、そして雄宇。三人は、それぞれの形で一真を愛していた。


「ねえ、由季。このままだと、一真くんが苦しむだけじゃないかな」


 雄宇がそう言って、由季に尋ねた。


「うん。だから、あたしたちが、一真くんを苦しませるようなことはしたくないの」


 由季はそう言って、三人に一つの提案をする。


「学生の間は、妊娠を理由に一真に責任を押し付けて勝敗を決めるようなことはしたくないの」


 由季の言葉に、雄宇と柚希は驚いた表情を浮かべる。由季の言葉の真意を理解した二人は、由季の提案に頷いた。由季は、妊娠という、一真に責任を押し付けるような事態だけは避けたいと考えていたのだ。


「じゃあ、あたしたち、三人で『避妊を徹底すること』を誓い合おう」


 由季がそう言うと、雄宇と柚希は、由季の真摯な眼差しに心を打たれ、頷いた。


 この「休戦協定」は、単なるライバル関係ではなく、互いを尊重し、支え合う新しい友情の形を築くための第一歩となる。一真という共通の存在を介して、複雑でありながらも強い絆で結ばれていくことを予感させる。




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