第5話 触れ愛
「ふー、ただいまー」
良汰は当然のように誰も居ない真っ暗な部屋に
向かって言った。きっと習慣なのだろう、
静まり返った部屋は少しの寂しさが残る。
すると、良汰は振り向いて笑顔で晴奈に
声をかけた。
「晴奈くん、ただいま!」
晴奈は少し驚き、首を傾げた。
どうして、ただいまなのだろう、
自分はあくまでも客人でおかえりではなく、
お邪魔します。が一般的なのだと、
だが、こんな考えも彼の目を見るとすぐに
解決した。彼の中では晴奈はただの客人ではなく
立派な恋人なのだ。それを理解した晴奈は
照れた様子で、良汰に返した。
「おかえり。」
晴奈の言葉に良汰は、深く頷いたあと
何かモノ欲しげに晴奈の顔を見た。
晴奈は良汰が求めているものを全て悟った。
きっとキスを求めているのだと。
そんなベタな事あるのかと、自分の中で自問自答した、それでも行き着く答えは同じだった。
晴奈は頬を赤らめて、良汰に言った。
「ちょっと、屈んで。」
その言葉に良汰はキョトンとした顔で屈んだ。
屈んだ良汰にゆっくりと近づいたあと、
二人は口付けを交わした。照れて俯く晴奈に
良汰は驚いた表情で言った。
「えっとー、ただいまって言って
欲しかったんだけど。」
晴奈の中で時が止まった。最適解だと
思っていた事が違かったのだから無理もない。
勇気を振り絞って、とった行動で返ってきた
言葉がまさかの言葉だった時の恥ずかしさは、
尋常ではない。本来ならその場から逃げ出したいくらいの事だ。先走ってしまった自分に対し、
恥ずかしい気持ちで押し潰されそうだった。
そんな中、良汰は嬉しそうに言った。
「初めて晴奈くんからされた気がする。
人からされるってこんな気持ちなんだね。」
またもや、予想していない言葉だった。
その言葉に晴奈はクスッと笑ってしまった。
笑ったまま良汰に言った。
「良汰さん、ただいま!」
その笑顔は真っ暗な部屋を明るく照らす
まるで太陽のように眩しいく、柔らかく、
無邪気な笑顔だった。そんな笑顔に不意を
付かれた良汰は言葉が漏れてしまった。
「可愛い」
この先、この笑顔を一番近くで見るのは
自分が良いと心底思った。ずっと無邪気な笑顔で
笑ってほしいと、そしてこの笑顔は自分が
守り続けたいと思った。そんな事を考えてる時、
晴奈が声をかけた。
「中入ろうよ、ここ寒い。」
「そうだね、入ってご飯でも食べようか
新しいお茶碗も買ったしね!」
二人が家に帰ってようやく部屋の
明かりを付けた。時間的には、ほんの数分のことだろう。それても二人はこの数分の時間を
これからも大事にしていきたいと思った。
二人は、台所へ向かうと晩御飯の用意を
始めた。
「適当に食材買ったけど、今日何する?」
「寒いし、鍋とかは?締めにラーメンにしよ!」
晴奈の言葉に、良汰は固まった。
「え、晴奈くん鍋の締めラーメンって
冗談でしょ?」
「冗談じゃねえよ、え、もしかして良汰さん
雑炊派?」
二人の間に、初めての対立が生まれた。
これは男なら絶対に譲れないものなのだ。
「俺は絶対に譲らねぇぞ!
締めはラーメンだ!」
「いやいや、最後に胃を落ち着かせる為に
締めは雑炊でしょ。」
一歩の譲らない両者に、良汰が一人の案を
出した。
「分かった。ジャンケン一発勝負
勝った方の締めにしよう。」
「いいねえ!じゃあ早速!」
二人は声を合わせた。
「ジャンケン!」
勝ったのは晴奈。締めはラーメンに決まった。
こんなくだらないやり取りに
きっと読者の方々は思っただろう。
(どっちでもいい)とただこれはどうしても
譲れないものだと理解していただきたい。
話は戻り、二人は暖かい部屋で鍋つつきあった。
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