天使の独白
この世界とは少しズレた場所で、彼、あるいは彼女なのかもしれない。それは笑う。
彼は——名前なんて覚えていないけれど——面白いことをしてくれた。
僕が「ただのシミュレーションだ」と言うだけで、あんなにも異常な行動に走ってくれるとは。
こんなに上手くいくことなんていつ振りだろうか。
ここ最近はずっと、面白みのない人にしか当たっていなかった。
現実じゃないと騙されても、せいぜいが高級品を買う程度。一回だけ犯罪に走るやつはいたが、それも結局未遂に終わってしまった。
今回の彼も、最初明らかに脈のない告白をした時はつまらないと失望した。大それたことにはならなかった、と。
しかしその後の行動は嬉しい誤算だった。本当に人生を根本から変えてしまうとは。
それにあの、捕まった後の醜態。
24時間経っても「シミュレーション」が終わらないと知るや暴れ出し、周囲の人間を驚かせていた。
その上現実だと認められず、それからも「これは現実じゃない」とか喚いていて実に滑稽だった。
最終的に異常者だと認められて。まあ、異常者ではあるか。あんなに簡単に信じるようなのが普通だったら、僕ももっと楽だったのにな。
それは——グシオンは、常に退屈している。
過去と未来の全てを知るその堕天使は、それ故に新しい刺激に飢えていた。
しかしその知識にはただ一つ例外があった。
それは、自身の介入。
それ自身が関わった結果何が起きるかは、その管轄外だった。
しかし、現実へ直接介入することはできない。だからそれは、眠っている人の意識に働きかけることで少しだけ未来を変えた。
その結果、それにとって初めての「知らないこと」が起こった。すぐに夢中になり、ずっと見ていられるとまで思った。
だが、変化が小さければその未来もすぐに分かってしまう。それに意識への介入も、あまり頻繁に出来るものでもない。
一瞬で退屈したグシオンは、色々な人のところを転々とし始めた。
目の前で背中を向けて立つ女の人が、気がついたみたい。周りとか身体を見回して、不思議そうにしている。
こちらを振り向いて僕を見たタイミングで、声をかける。
「あ、お目覚めかな?じゃあ——」
こないだの彼みたいに、楽しませてくれるといいな。
現実シミュレーション きせのん @Xenos
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