1貯水池
細谷さんの長女 小学五年生の美夏ちゃん(11)が行方不明になり両親から捜索願いが出された。捜索が始まってから6時間後、団地の北西に位置する貯水池の西岸、歩道脇の茂みの中意識不明の状態で発見されました。警察は事件性も視野に入れ地域住民に不審者の情報提供と注意を促している。
○○県○○市の山間部を切り拓き高度成長期に開発された団地群は、インフラ施設も充実したニュータウンとして入居者を増やしていった。建設から20年以上経ち建物の老朽化、新棟の増築などで団地全体の外観は少しづつ変貌していったが、今だに若い入居者も大勢いて賑やかだった。
谷間にある古い集落を避けるように開拓された団地は、上空から見ると南北に細長い台地で、その上に棟は建てられていた。谷と台地は北西部辺りで交わりその奥には森が広がっていた
貯水池は住民から沼と呼ばれていた。貯水池といっても人工物ではなく、明治時代に谷に住む農民が農業用水を得るため周辺を整備した程度で、岸付近に打たれた杭や、朽ち果てた小舟などがその名残りと思われる。
水深も深い所で3m程度のその沼は、繁盛した樹々に囲まれその外周をぼやかし、森の奥に黒い水面がどこまでも広がっているように見えた。実際は周回1km程度の真円に近い形で、そのことは明治時代の開拓による工事も関係し、元々はもっと小さな沼だったかもしれない。
美夏ちゃんの早期発見に繋がったのは、団地住民の目撃情報と子供達の話からで、沼周辺の捜索が重点的に行われた為であった。
Aさんの証言(9号棟住人 40代女性)
買い物の帰りに美夏ちゃんを見かけました。ええ16時前でした。砂場の前にある時計で見たので間違いありません。県道沿いの塾に通っているのは知っていたのでこの時間に出かけるのに不自然さは感じませんでした。ただ県道とは反対の方に向かって歩いていたので同じ塾に通うお友達を誘って行くのかなあ、なんて思っていたんですが………(少し言葉を詰まらせ)
こんなことになっちゃって……(ハンカチで涙を拭う仕草)
私がもうちょっと見てあげてたら、ああ、
おまわりさん!美夏ちゃんを…美夏ちゃんを見つけてください!お願いします。
……………………………………………………………………………………………
子供たちの証言(クラスメイト他数名)
「細谷なら沼に行ったんじゃないのかな?」
「あすこ本当は先生から学区外なんで行くなって言われてるんだけど」
「森の奥で狼の遠吠えが時々聞こえてくる」
「沼には怪獣が潜んでる。ケルピー……」
果たして美夏ちゃんは無事発見されたが、意識不明の状態が続いており市内の病院に入院することになった。美夏ちゃんの両親は憔悴していたが娘の回復を信じて気丈に振る舞っていた。
美夏ちゃんの当日の足取りは、何らかの目的があり件の沼に向かったと思われるが、地域の巡回ルートの拡大と強化を図ることとし事件は終わりを迎えた。
翌日、住民たちは美夏ちゃん発見の報を聞き安堵し、意識の戻らない少女の回復を祈った。それと同時に子供たちの間ではある噂が広まっていた。
沼には怪獣が潜んでいる
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