~始まりの村~ 14 氷風落とし、氷を砕け

 ———その直前に俺は、手をヌシ様の魔法に向けて紡ぐ。


「ウォーターウォール!!」


 唯一俺が習得する魔法である水属性の障壁魔法を。

 アイスバーストの軌道上、ヌシ様の頭上付近の、放たれてもすぐにぶつかるであろう場所に。


 俺が展開した水の障壁が、アイスバーストに衝突した。

 そして破裂。

 ヌシ様の頭上で、アイスバーストによる氷風が爆発した。


「———!?」


 ヌシ様を中心として吹雪が巻き起こり、周囲のあらゆる物が凍てついていく。

 草木や土さえも凍える冷気で白の彫像へと化していく。

 それを暴力的な冷風が抉り砕き、氷の粉として氷風の一部となる。

 そのまま世界を極寒の地へと染め上げていった。


 幸いにも俺達からは距離があったため、巻き込まれることはなかった。

 だが、あの範囲内の万物を凍てつかせんと荒れ狂う氷風を見てると、事前に対処法を考えておいて、心底よかったと思えてくる。


「ナイスだバンカ。ひさびさに役に立ったな」

「ひさびさでは無いだろうが!俺も少しは活躍してるぞ。例えば斬撃当てたり、時間稼ぎしたりしてんだろうが」

「はいはい。それよりも、ヌシ様ってどうなったんだ?吹雪で見えない……見えてきたな」


 やがて魔法の余波が収まり、後には無傷で憎々しげに睨みつけるヌシ様の姿が現れた。

 自分の魔法、しかも上級魔法を受けても傷1つないのは、身に纏う氷鎧のお陰か?

 だが、そのことを考える必要はないかもしれない。


 ———なにせ、そんなヌシ様に対し、攻撃の機会を持ち続けていた奴がいた。


「さーて、仕切り直しだなぁ、ヌシ様?」


 ラピスが跳躍し、ヌシ様へと得物を叩きつける。

 強烈な打撃により、氷の鎧を粉砕してなおヌシ様自身にも確かなダメージを与えた。

 俺もそれに続いて斬りかかる。


「し———ッ」

「クォッ」


 クッソ、外した。さっきからまったく当たらねぇ!?


「おいおーい、何やってんだよバンカー、しっかり当てろよ~」

「クオッ!!」

「はい、余裕の回避。当たらなければどうってことないない」


 ヌシ様のアイスストライクを余裕で避けるラピス。

 その姿はどこか楽しげで、ヌシ様を完全に翻弄していた。

 流石だな。あの動きを見てると、今のところ戦いにあまり貢献できていない自分が恥ずかしくなってくる。


「クォオオ―ン!!」


 ヌシ様は緑の輝きを放ち、自身の傷を回復させた。

 再生胞子による回復。ラピスが今与えたダメージがすべて回復された。

 しかも氷の鎧を纏い直しており、再び頑強な防御を備えている。


「そぉい、や―――ッと!!」

「クォッ!?」


 ……しかし、ラピスの再びの跳躍からの殴打が氷の鎧を砕き、その身にダメージを与えた。

 先程の光景の焼き直し。今度こそ決める!


「ハァ―――ッ」

「クォン」


 また軽やかな動きで避けられた。

 今のところ、俺って最初以外は回避と魔法の遮断ぐらいしかできてないんだが?

 けれど、ヌシ様は確実に追い詰められていた。


 ヌシ様がラピスに対して、尾による薙ぎ払いを行う。

 再度、展開した氷の鎧が砕かれた。だからか、ヌシ様は魔法を撃っても回避か妨害されて、魔力の無駄になると判断したのかもしれない。

 理由は定かではないが、近接攻撃を仕掛けてきたヌシ様に、ラピスは……


「———02でクリティカル。カウンターだ」


 完璧なタイミングで回避を行い、反撃を繰り出した。

 鉄の棒がヌシ様の顔面を捉える。

 不意の一撃をくらったヌシ様は、一度転倒したが震えながらも立ち上がろうとする

 ……しかし、限界が来たのか地面に倒れ込み、意識を手放した


「……よし、撃破」

「まさか……倒したのか、あのヌシ様を……?」


 現実身のない光景に、思わずその場から動けなくなる。

 しかし、ヌシ様の身体から光の粒子が抜け出し、宙に消えていった。その光景を見届けた瞬間、俺は倒れ伏すヌシ様に駆け寄った。


「ヌシ様!」


 ヌシ様の様子を観察する。


 カランカラン……。

 37成功


 ………呼吸は安定している。命に別状は無さそうだ。

 手に持っていた中級ポーションを取り出して、処方しようとする。

 だが、この場には俺だけでは無かったことを思い出し、今回最大の貢献者である彼女の方を見る。


「頼む、ラピス。ヌシ様に回復ポーションを使っても」

「いいぞ、事情知ってるし、命まで取ったりしないぞ」

「……感謝する」


 俺は中級ポーションをヌシ様に振りかける。


 カランカラン……。

 応急手当93失敗 2→8



 すると、完全ではないがヌシ様の傷が癒えた。

 続けて下級ポーションを持っている分を全部使う。


 カランカラン……。

 応急処置84失敗 8→14  


 以前、ラピスを治療した時のような回復力は見せなかったが、それでも傷はしっかり癒えていた。

 これでひとまずは大丈夫だろう。安静にしていれば治るハズ。

 そう思った俺は、途端に気を緩める。

 ……いや、その前にするべきことがあったな。


「……ラピス、改めて本当にありがとう」


 俺はラピスに頭を下げて感謝を伝える。

 彼女がいなければ、彼女が手伝ってくれなければ、俺達は森の異常に気付かずに今も村でのほほんと過ごしていただろう。

 または、ゴブリンの対処に手間取っていたか……。

 何にせよ、彼女のお陰で俺達の恩人…恩獣であるヌシ様をゴ=ミとかいう異形共の魔の手から救うことができたのだ。感謝しかない。


「今更何言ってんだ。それより、この後どうすんだ?村に帰るのか?」

「………いや、ヌシ様が心配だ。今夜はヌシ様の住処に泊まって様子を見ることにする」

「なら私も付き合うわ。もしまた暴れだしたら、またぶん殴って止める必要があるし」

「そうか……ありがとな」

「いい、それよりも帰ったら報酬寄こせ」


 相変わらずのがめつさに安心感を覚える。

 そうだ、ラピスの要求は正当な物だ。

 だから俺達は、彼女の成したことへ報いなければならない。


「分かってる、村長を言いくるめて報酬をふんだくってやるさ」

「おっ、そん時は私も参戦させろ。たまに言いくるめロールをするのも楽しいかもしれんからな」

「またよく分からんことを……」


 それにしても、ここまで森を歩いたり戦闘したりで疲れたな。

 俺は疲れでおぼつかない足を動かし、ヌシ様の元へ行く。

 そのまま白いふかふかの毛並みの尻尾に向かって、仰向けで倒れ込んだ。


「すまん……流石に疲れた。……しばらく寝る」

「いいけど、起きたら私と代われよ~」


 ヌシ様すみません。ですが、少しだけお借りします。

 己の守り神への不敬に申し訳なく思うも、疲労で下がる瞼に耐え切れず、心地よい毛並みの感触と眠気にその身を委ねるのだった。


 ―――――――――――――――

 戦闘フェーズ

 行動順:空狐(ヌシ様)→白→バンカ→空弧

 ラウンド1

《空弧の特性、暴走胞子を発動。このラウンドでの攻撃力を1D3上昇させます》

 空弧(かぎ爪47成功 5ダメージ → バンカ)

 バンカ(回避24成功)

《空弧の鋭い爪がバンカの肉体を引き裂かんと迫る。しかし、軽々とした動きでその爪撃を避ける》

 白(鉄パイプ85成功MA77失敗跳躍62成功 5ダメージ → 空弧)

 空弧(回避85失敗)19→14

《空弧に鉄パイプで殴打する。痛みに体を震わせたが、未だに倒れる気配はない》

 バンカ(刀剣33成功 8ダメージ → 空弧)

 空弧(回避84失敗)14→6

《空弧を剣で斬りつける。胴体に渾身の一撃を受けた空弧は体を揺らし、少しだけふらついた》

 空弧(上級魔法:アイスストライク 9ダメージ → バンカ) MP21→15

 バンカ(回避47成功)

《空弧の上級魔法、アイスストライクがバンカに向かって放たれる。しかし、バンカはすんでのとこで躱すことができた。次のラウンドへ移行します》

 ラウンド2

《空弧の特性、再生胞子を発動。自身のHPを1D3+1D3回復します。空弧のHPが6回復しました》6→12

 空弧(氷鎧 炎以外に+6の装甲獲得)

《空弧が自身の身に冷気を纏わせる。その冷気はやがて形となり、氷でできた鎧を形成した。炎以外の攻撃に対して装甲+6を得ます》

《ふざけてません、マジです。なお、その装甲は打撃、炎、爆発の系統の攻撃を受けるとダメージ関係なく剥がれます。それ以降の攻撃には装甲は適用されません》

 白(鉄パイプ38MA74失敗跳躍97ファンブル 2ダメージ → 白)13→11

《ラピス・ホワイトの跳び殴打は明後日の方角へと飛んでいき、大樹に頭から衝突しました。2D3です、やっと跳躍失敗しましたね。ですが何故最低値……まぁいいです、次行きます》

 バンカ(刀剣93失敗)

《バンカの剣は空を切りました》

 空弧(中級魔法:アイスウォール)MP15→11

《空弧の周囲に耐久4の氷の壁が出現しました。この壁を破壊できなければPLの攻撃は届きません。次のラウンドへ移行します》

 ラウンド3

《空弧の特性、魔活胞子を発動。自身のMPを1D3回復します。空弧のMPが3回復しました》MP11→14

 空弧(尾76失敗)

《空弧は氷の壁の隙間から尾を伸ばし、探索者達を叩きつけようとした。しかし、壁に囲まれていたせいか見当違いの方向へと攻撃する》

 ラピス(鉄パイプ49成功MA63失敗 4ダメージ →アイスウォール)

《身の程を知ったラピスの控えめな殴打が氷の壁を砕いた》

 バンカ(刀剣41成功 14ダメージ → 空弧)

 空弧(回避07成功)

《バンカが鋭い剣撃を叩き込むが、空弧は軽やかな動きで回避する》

 空弧(尾65失敗)

《空弧は再び尾による叩きつけを放つが、誰もいない場所を打ちつけた。次のラウンドへ移行します》

 ラウンド4

《空弧の特性、暴走胞子を発動。このラウンドでの攻撃力を1D3上昇させます》

 空弧(上級魔法:アイスバースト 17ダメージ → 白、バンカ)MP14→10

《空弧は尾を使い、氷の魔力でできた白い玉を練り上げる。そして、上級魔法、アイスバーストが放たれる。全体攻撃の魔法です、回避をする場合は-20の補正となります》

 バンカ(中級魔法:ウォーターウォール)MP11→7

《……バンカは白い玉が放たれる直前に、軌道上に水の壁を展開する。すると、放たれた白い玉は水の壁に衝突し破裂。あなた達の元に氷の息吹が届くことなく術者の周囲を凍てつく零度の風が吹き荒れた》

 白(鉄パイプ45成功MA36成功跳躍36成功 12ダメージ → 空弧)

 空弧(回避63失敗)12→6

《ラピス・ホワイトの跳び殴打が、今度は外れることなく命中する。それにより、空弧の纏っていた氷鎧は砕かれ、本体も防げなかった分のダメージを負った》

 バンカ(刀剣86失敗)

《バンカの剣が空を切る》

 空弧(上級魔法:アイスストライク 12ダメージ → 白)

 白(回避15成功)

《上級魔法の氷塊がラピス・ホワイトに放たれるが、難なく回避することができた。次のラウンドへ移行します》

 ラウンド5

《空弧の特性、再生胞子を発動。自身のHPを1D3+1D3回復します。空弧のHPが6回復しました》6→12

 空弧(氷鎧 炎以外に+6の装甲獲得)

《空弧が再び氷鎧を纏う》

 白(鉄パイプ16成功MA33成功跳躍64成功 12ダメージ → 空弧)

 空弧(回避54失敗)12→6

《飛び殴打が空弧の氷鎧を再び破壊し、ダメージを与える》

 バンカ(刀剣20成功 12ダメージ → 空弧)

 空弧(回避08成功)

《バンカの鋭い剣劇を軽やかな動きで回避する》

 空弧(尾27成功 12ダメージ → ラピス)

 ラピス(回避02クリティカル )

《ラピスは空弧の振るう尾を完璧なタイミングで避ける。カウンターまたはクリチケ獲得です。カウンターの場合は自動成功となりますが、MAと跳躍による補正はありません》

 白(鉄パイプ自動成功 4ダメージ → 空弧)

《空弧にカウンターの一撃が叩き込まれる。震えながらも立ち上がろうとしていたが、とうとう力尽きたのか地面に倒れ込み、意識を手放した》

《戦闘終了です、お疲れさまでした》



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