~始まりの村~ 9 中層域の探索

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【マジで雑な中層域の地図】         

           西━東

    ↑浅層域へ     

| 1 | 2 | 3 |

      運河

| 4 | 5 | 6 |

    ↓深層域へ

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「……なぁ、もっと凝った地図は作れないのか?何だこの1分で書けそうな適当な地図」

「仕方ないだろ、誰にとっても見やすく作ったらこうなったんだ、大目に見てくれよ。それはそれとして、どのルートを通っていく」


 この中層域には様々な脅威となるモンスターの縄張りが多くある。

 普段は縄張りの外に出ないため、浅層域に出没することも村を襲うこともないが、この先の深層域に行くためには必ずどこかのルートを通らなければならない。

 しかも、その途中には森を区切る様に巨大な運河が流れているため、どこかで船か何かを用意する必要がある。

 それについては、村長が用意してくれた人が6人乗れそうな船があるから問題ない。

 白髪女のバックに、何十倍もの大きさの船がスルスルと入るさまは驚いたが……。


 その運河の先にも3つの区間があるが、基本的にまずは1,2,3のいずれかの区間を通れば運河へと辿り着けるので、まずはそれを決めるのがいいだろう。

 ということで、俺達が今から取る選択肢は、区間1,2,3のいずれかのルートを取るかだ。


「それだけじゃ判断できん、もっと説明プリーズ」

「ぷりーず?」

「情報が足りないから寄こせって言ってんだ、1,2,3とかにはどんな違いがあるんだよ」

「お前……自分がこの森を抜けて村に来たって話、もう忘れてるよな……」


 いやまぁ、少しは説明してやるか。


「区間1はウルフってモンスターの縄張りだ。普通のオオカミよりも大きな体躯を持っていて、集団で襲い掛かってくる厄介な奴らだな。なので、この場所を通るのはオススメしない」

「ふ~ん。……ゴブリンとどっちが強い?」

「ウルフに決まってるだろ、ゴブリンなんか餌でしかねぇよ。ゴブリンが最近まで村を襲わなかったのは、そこに縄張りを作ってるウルフが一因でもあるんだからな」

「そっか、次の2は何かいんの?」

「やけにあっさりと………まぁいい、区間2は特に決まったモンスターの縄張りがあるわけじゃない。強いて言うならば、いつもヌシ様が村付近まで来るときの道、獣道だ。普通の獣道とは違って、人間が複数人通れるくらいの広い道幅が広がっている。だから、この道が一番オススメだ」

「……一応聞くけど3は?」

「ヒールビーっていう治療効果のある蜂蜜を作るモンスターが生息してるな。その蜂蜜を舐めるとポーション並みの治癒効果を持ち、肌に塗ると切り傷が癒える上に味も美味な魔法の蜂蜜。そのため金持ちにとって高値を出して手に入れたがる、垂涎物の高級品だ」

「よし、3で行くぞ」


 案の定、こいつは蜂蜜に喰いついて来た。

 相変わらず現金な奴だ。だが、残念なことに区間3の説明は終わっていない。

 とりあえず、白髪女へと説明の続きを教える。


「……だが、そこはグレゴリベアという巨大な体躯の化け物熊が縄張りにしてる。強さはウルフ30匹の群れを1体だけで返り討ちにできる。そのため、この道は危険だから止めた方が」

「関係ないね、さあ行くぞ!」

「ウッソだろ、お前……!?」


 苦言を言おうとするが、お前に拒否権など無いと言わんばかりに全力疾走で区間3へと向かう。

 ……今この森では何が起こるか分からんことを忘れてないだろうな、あの白髪女馬鹿

 しかたがないので、俺も急いで後を追い区間3へと向かうのだった。




「・・・」


 ・

 ・

 ・


「まったく……お前はもっと慎重に進め、何が起こるか分からないんだぞ」

「それはどうでもいいとして、ヒールビーの蜂蜜ってどこで採れるんだ?」

「聞けよ」


 白髪女の危機感の無さに呆れる。

 それは、グレゴリベアというモンスターがどういう存在なのかを知らない故なのか、それとも、遭遇しても問題なく切り抜けれる自信があるのか分からない。

 何にせよ、こいつには一言言っておかなければならないようだ。


「白髪女、今回の目的は把握してるのか?」

「してるしてる。確か、ヌシ様っていうモンスターの様子を見てくるのが目的だったよな。なら、多少の寄り道くらいいいだろ。それに、ここを通ってもいけるんだし」

「俺は今、蜂蜜の入手を試みることを時間の無駄だと思って言ってるんだが……。それに、ここはさっき言った通りグレゴリベアの縄張りだ。多少腕に覚えがあるようだが、人間にも強さに限度があるから油断すんな」

「心配いらんだろ、聞き耳で判断するし」

「……何だ、その聞き耳とかいうのは」


 カランカラン……。

 白14成功 

 バンカ47成功

 

 そろそろ白髪女にたまに口にする謎言語の意味を問い詰めようとしようとしたのだが、ここで最近になってよく聞くようになったダイスの音が鳴る。

 何だ、今度は何に反応した?

 咄嗟に武器を取り出して周囲を警戒する。

 ……しかし、一向に何も出てこないし音もしない。

 気のせいだったのか?


 そう思った直後だった。


「……ッ!おいバンカ、あれって……」

「何だ、何か見つけたか!」


 白髪女が何かを見つけた。

 俺は白髪女が指さす方を見て、その正体を確認する。

 それは………大きな蜂の巣だった。


「敵じゃねぇのかよ!」

「おい、あの蜂の巣ってヒールビーって奴らの巣か」

「……あぁ、そうだよ。俺も久しぶりに見たが、間違いないな」


 新米の頃に連れられらが、その時に見た物と同じだ。

 当時は発見してすぐにグレゴリベアに見つかって追いかけまわされたから採取できなかったが、今回は周りに何もいなさそうだ。

 俺自身もラピ…白髪女同様にヒールビーの蜜が気になる。

 警戒は緩めないが、この機会を逃すのはもったいないから諫めるのは止めておこう。


「俺が周りを見ておくから、さっさと蜂蜜採取しておけ」

「へぇ、止めないんだ」

「……いいから早くしろ、グレゴリベアが出る前にここを抜けたい」

「へいへい」


 白髪女は手慣れた手つきで、ヒールビーの巣から蜂蜜を採取していく。

 流石は自称冒険者といったところか、自然物の採取が手慣れている。

 危うげなく瓶2本分の蜜を採取して、自身の懐に入れてから戻ってくる。


「終わったか」

「見れば分かるだろ、それよりこの蜜って実際いくらで売れんの」

「そうだな…‥大体30万Gゴールドくらいって、そんなことしてる場合じゃない。モンスターに見つかる前に早く進むぞ」

「グレゴリベアってヤツか、どんくらい強いんだ?」

「Cランクだ」

「ほ、ほ~ん………」


 白髪女はランクを聞いた途端、微妙な顔をした。

 こいつ、もしやよく分かっていないな。


「ちなみに、ゴブリンがEランクで亜人系がDランク、ヌシ様がBランクとかだったはずだ」

「なんだ雑魚か」

「どうしてそうなる!」


 こいつ、本当に冒険者なのか?

 冒険者にとってランクは生存する上で重要な判断情報だろう。

 Cランクは普通、中級以上の魔法を習得していない人ではどうしようもない相手だって知らないのか、こいつ……?

 ……そういやこいつ、魔法覚えてたな。


「とにかく、さっさと抜けるぞ」

「はいはい、仕方ねぇな」


 しぶしぶといった様子で俺の後をついてくる白髪女。

 そのまま俺達は、俺の先導の元に区間3を抜けた。

 その道中、グレゴリベアに出会わないどころか、気配すら感じることはなかった。





 ・区間C → 運河


 区間Cの森を無事に抜けた俺達は、運河の見える川原に辿り着いた。

 目の前には巨大な運河が、広大な森の中域を遠くに見える向こう岸とこちら側で分断するようにゴウゴウと音を立てて流れていた。

 俺達の目的地はこの先の向こう岸にある森の、さらに奥深くにある。

 そのため、この運河を渡るのは必須だ。

 だが、この運河を渡るには泳ぎでは無理だと悟る。渡るには船が必要だ。


「てことで、ラピス。村長から借りた船を出してくれないか」

「はいはい、了解了解」


 俺の言葉に応じて運河に近づく白髪女。

 すると、カバンに手を突っ込んで小型の船を取り出して水面に浮かべる。

 やっぱこいつの力、やべぇな。


「ほら、さっさと乗るぞ」

「お、おう」


 促されるままに乗る。

 ……さて、漕ぐか。


「なぁ、これどうやって進むんだ」

「漕ぐに決まってんだろ、当たり前のことを聞くなよ」

「……やっぱこの船、魔術とかかってたりしないか?例えば、自動的に向こう岸まで進むとか」

「そんな便利な魔法ないし、そもそも船の魔道具なんて高級品を買えるか。文句言ってないで、漕いで進むぞ」


 そう言って俺がオールを渡すと、不服そうに受け取る。


「ラピス、お前って船の漕ぎ方知ってるか」

「知ってるわ。それとお前、私をいつの間にか名前呼びになってっけど、何でだ~?」

「……進むぞ」

 カランカラン……。

 白04クリティカル 

 バンカ17成功


 ラピ…白髪女の言葉を無視して、船を漕ぎ始める。

 すると、グンッ!と船が大きく前に進んだ。


「この程度、楽勝だァ―――ッ!」

「うぉっ!」


 白髪女の奴、船を漕ぐのが想像以上に上手い!

 力任せの様に見えて、ちゃんと技術面での上手さを感じさせる見事な腕前だった。

 こいつ、やっぱり只者じゃないな(n回目)。


「もう3分の1を超えた……!」

「よし、この調子で行くぞ」


 せーので2人揃ってオールで漕ぐ。


 カランカラン……。

 白78失敗 

 バンカ86失敗


 すると、さっきまでの腕前が嘘のように拙い漕ぎになった。

 ……俺含めて。

 そのせいでボートは進むことなく、その場でぷかぷかと留まったままに……。


「おい、そっちちゃんとしろよ」

「いやお前も下手になってんだろ、さっきの関心を返せよ!だけど俺も失敗したからごめんな、もう1回やるぞ!」

 カランカラン……。白95失敗 バンカ87失敗


 今度は船がその場でくるりと一回転。

 

「「失敗した!」」

「も、もう1回だ」

「「そいっ!」」

 カランカラン……。

 白94失敗 

 バンカ89失敗


 もう一度くるり。


「また失敗した―――!」

「も、もももう1回……、次こそは」

 今度も息を併せて船を漕いだ。


 カランカラン……。

 白13成功 

 バンカ03クリティカル


 ―――すると、俺の腕が覚醒した。

 さっきまでの下手さが嘘のように巧みなオール捌きを発揮し、船が最初と同様に大きく前進した。


「な、なんだ……いきなり俺の腕が、自分の物だと思えないくらい巧く動いたぞ……!」

「それがクリティカル効果だろ。それよりも何か嫌な予感がするんだけど、何でか知らないか」

「知らない……って言いたいが、この運河にも水棲モンスターが住んでるし、そいつが襲って来る可能性もあるっちゃある」

「そっか、なら後ろに見えるあのぶくぶくは件の水棲モンスターのものだな」

「え」


 後ろの水面を見ると、水面には黒い影が映っていた。

 それを認識した瞬間、水面から影の正体が飛び出す。

 大口を開けた悪魔の様な形相の巨大魚、モンスターフィッシュだ。それが5匹、俺達に向かってきていた。


 カランカラン……。

 白48成功 

 バンカ66成功


「くっそ、バンカさっさと進むぞ!」

「いや、迎撃した方が」

「馬鹿、船の上でいつも通り戦えるわけないだろ。早く漕げ」

「———ッ、すまん」


 確かにモンスターフィッシュが後ろにいるとはいえ、まだ距離があるから逃げるまでの猶予がある。ラピスの判断こそが正しい。

 自分の不甲斐なさを自覚しながら、剣の柄に伸ばしかけた手を戻してオールを握り直す。

 そのまま一気に漕ぐ———!

 

 カランカラン……。白78失敗 バンカ17成功


「あやべ、失敗した」


 ラピスの声と共に、船が止まった。


「は?……うわっ危なっ!?」

「マジですまん、それと魚が来るぞ!」

「!」


 俺は咄嗟に船の縁に捕まり身をかがめ、急停止した船から弾き飛ばされないようにした。

 だが、獲物が止まったという襲撃の機会を逃がさんとばかりに、モンスターフィッシュ×5は俺達に襲い掛かって来た……!


 ―――――――――――――――

《それにしても、この2人クリティカルとファンブルの頻度、多すぎやしませんか?因果律やらを弄るの大変なんですよ?》


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