まだまだ半人前だったことに気づいた
澄ノ字 蒼
第1話 また公募に落ちた
「ははっ、今回も落選か」
ある青年がとある美術雑誌の一部を凝視してしばらくしてからふっとつぶやく。そして、
「まあもう慣れっこだけどな」
へへっ、とあざけるように笑うと、へたれた青いベレー帽を深くかぶり足早に立ち去った。
へたれた青いベレー帽をかぶり、ずっとひとりで絵を描き続けている画家がルートム国にいた。画家の名前はヘーレント。ヘーレントは心の病気にかかっていて薬を飲まないと生きていけない身体だった。生きている意味ってあるのかなと思い悩み、いつしか髪の色は抜け、そしてはげてしまったのは遠い昔。
今は床屋に行くお金もなく自分で髪を切って坊主頭にしていた。
身長も低く、週4日6時間働いてお金は稼いでいることは稼いでいるが、お金も無く、健康でもない。そんなヘーレントが生きている理由、それは生き続けている限り絵を描けるからだ。
しかし、人生はうまくいかないものである。今回も公募に向けて絵を描いて応募したのだが落ちてしまったのだった。公募というのは一般公開で作品を応募している作品展のことをいう。
家に帰ると取ってきた写真機の写真を現像した。絵の題材にするのである。馬車をひいている馬の写真、リーエル湖と呼ばれるこの辺の水源の一手を引き受けている湖で魚釣りをしている青年達が魚を釣った瞬間を撮った写真。そんな写真を現像していると、ふっと今日、また公募に落ちてしまったことを思いだし気持ちがおもくなった。鼻水が垂れてきたので思い切り、ずずっ、と鼻をすする。
隣の部屋に行き窓を開ける。厚い雲が空をおおい、夏だというのに冷気を放つ雨が、ざーざー、と降りしきっていた。
公募に落ちて気持ちがやさぐれて尖っていた。その尖った心とほてった身体には雨の冷気は心地よかった。
降りしきる雨を眺めながらヘーレントは一本のタバコを取り出して口にくわえる。そして、下級精霊である炎スライムを召喚すると、タバコに火をつけた。ヘーレントは昔、いろんなことにチャレンジしたものだった。召喚士と呼ばれる職業についたこともあった、柔術を習ったこともあったりもした。けれどもどれも永続きしなかった。召喚士に関しては下級モンスターである炎スライムを召喚が出来るだけで終わってしまった。
唯一永続きしたものといえば絵を描くことだけだった。しかし、何十年も諦めずに絵を描き続けても評判も実力も鳴かず飛ばずにしかならなかった。
タバコの煙を、すうっ、と吸いこむ。メンソールの味がおいしい。
そして、降りしきる雨の匂いをかぎながら外を眺める。外にはもう人一人出ていない。びちゃびちゃと屋根から水が落ち地面に落ち土がはねている。遠くではごろごろと雷が鳴っている。
タバコの先から煙が出ている。煙の先を追うと、途中で空気の中に溶け込んでしまった。タバコを吸っているうちに自分は何をやっているのだろうかとか、いつまでこんな宙ぶらりんな生活を送るのかとか、将来自分はどうなってしまうのかとか、そんなことをいろいろと考えてしまい悲しくなってしまい、へたっ、と座り込んでしまう。
そうだ人生そんな甘くはないし、夢がそんな簡単に叶ってしまったら人生面白くないな。と自分に言い聞かせた。
それにこれは自分で選んだ道だ。
それでもどうしても人には言えない、どす黒い感情が渦巻いてしまう。
思わずこんな言葉をつぶやいてしまった。
「俺、才能ないのかなあ」
つぶやいてはっとした。
こんな気持ちじゃダメだ。ダメだ。景気づけに明日晴れたら公園に行って絵を描こう。明日は仕事がちょうど無いし気持ちを切り替えるのにはちょうどいい。
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