第37話 ノームと彼ら
マーストンは、ノームの住みかで、彼らの中に昔の知人を見た。
『地下の堅実な王へルモンド』と呼ばれた彼は、今も王なのだろう。
以前と変わらない姿を見て、マーストンはそう思い描く。
「マーストン変わる」
声に気付き、馬車の横を見ると、ダークエルフさんが反対側から乗り込んで来る。
馬車は彼女の重みで、少し傾き、少し軋んだ音を出した。
「ありがとう」
そうマーストンは言うが、視線はヘルモンドを捉えていた。
ノーム、円錐の帽子、農民の服。
彼らの形をかたどった像を見るが、ほぼそのままの姿の彼ら、静かに僕たちの前に立っている。
そしてやはり――。
ヘルモンドは長く、豊かな髭とともに顎を何度もさすっている。
その視線の先には、ダークエルフさんがいる。
近い種族のエルフからも扱いの悪い、彼女の種族。
それについて慎重に、ノームを観察する必要があるかもしれない。
そう思いながら馬車を降りると、前から商人の彼がやって来て、荷台側にはニンフがいた。
商人の彼はダークエルフさんに、部屋の動きだした扉を、真っ直ぐにのびた手のひらと指先で指し示す。
「馬車はあちらに入れる様に、お願いします」
「わかりました」
二人の会話を聞き、慌ててニンフに手を差し出す。
ニンフがゆっくり手を差し出す手を引き寄せ、背中を支え、急いで邪魔にならない様にその場を離れた。
僕が近づくと、ヘルモンドは、「もうその歳で、綺麗どころを二人も従えたか、相変わらずモッシャー家は、たらしの家系だな?」
そう言って満足そうに、マーストンの腰を叩いた。
その時、不意にアレックと目が合い彼はにやりと笑う。
――そして僕は、なぜか、不自然に動揺してしまっていた。
「マーストンは、これでもなかな面倒見がいいからな」
「そういうところは祖父譲りだな、そして再会するごとにやっかい事を抱え込んでいる。だが、そいうところがモッシャー家の面白みよ!」
そう言って、へルモンドはガハガハガハと笑う。
そこへ商人の彼と、ダークエルフさんも集まると、彼は「では、案内しよう」と、今では大きく開かれている扉の向こうへと、彼らを案内した。
入って目に付くのが、高い天井ととても広い空間だった。
そこには緑が直接生えていたり、清浄な水が流れている。
見回すと、向こうの方へ、芝生で覆われた床まである。
「我らノームは何故か火山地帯に追いやられている。それは何故だか知っているか?」
「えっ、あ……何故だ?」
そうアレックが聞き返す。
「今、それを問題にしているんだろうー、仕方ない奴め」
「私は知ってますよ」
「それはな、お前は初めてじゃないだろう!」
そう、商人の彼をへルモンドは指さした。
「戦争?」
「違う、違う」
そう僕の答えをあっさり否定し、ダークエルフさんと、ニンフさんを見回すが、目をぱちくりと開いているダークエルフさん。
そして感心なさげなニンフは気に入った、花のもとへ行って座り込んで見つめたりする。
ノームの王は、マーストンを歩きながら振り返り、どうなっているのだと目は語っていた。
へルモンドはすぐに前へと向き直る。
そして蟻の巣の様な迷路の先の一室を指さす。
すると、そこにいた、細身のノームがうなずくと、僕らを連れて扉を開けて部屋の中へ入っていく。
「床で座ることになるがいいか?」
「ええ、大丈夫です」
そう商人が答える。
それを聞いたへルモンドは通路を右へと進む。
そして進んだ先の扉を開けると、絨毯を何層にもひいた部屋があった。
壁には、へルモンドやいろんなノームの絵が飾られている。
僕ら円の形に置かれたクッションのあいているクッションへ別れ、皆がクッションの前に立ったのを確認すると、へルモンドを先頭に次々座っていった。
しかしニンフはクッションを、マーストンの隣へ持って来てそこへ座った。
実は、座る前にマーストンの膝を枕にして、寝ようとした。
「ニンフ」と、彼に名前を呼ばれ首を振られたので、大人しく隣に座ったようだった。
「相変わらずだな」
「ニンフをご存じなんですか?」
「旧知の仲だ。お前は学校へ行っていた間、召喚される側の先輩として呼ばれ、お茶の相手を付き合わされた。人間の世界に残りたがるその精霊を心配してだろうが、いつでも腹いっぱいになると花を見てたり、寝ころがったり、俺の手に負えんと言ったが、ま、ま、ま、そう言わないでとお前の祖父はいい、外の世界へ触れさせるために、わしをその娘の話相手にしたかったようだったがな」
「祖父が、そんな事を……」
そう言ったマーストンは、ニンフを見たが彼女はすました顔で、先ほど置かれた丸いお椀の陶器から、お茶をゆっくり飲んでいる。
「まぁ、あいつは世話焼きだったからな」
「もう、1つ質問があります。ニンフと祖父との契約を解除する方法をしらないでしょうか?」
それを聞くと、へルモンドはおかしそうに笑う。
「契約を結ばされている側が、知っていると思うか? 無効にされる可能性があるのに?、高名な魔法使いや召喚師、それこそお前の母に聞けばいいだろう」
「うーん、母が教えてくれるとは思えません。召喚は、召喚師が絶対主義ですから、祖父や、僕の様な召喚される側に、友好的な立場を嫌っていましたから」
「ふっ、お前にはそう見えるかもしれん。大体あいつはそんな性格だしな……。よし! あいつに教えて貰うのは諦めろ! 次行け! 次!」
「は、はぁ……」
――僕には見せない、別の姿があると思ったが、いや、実際はあるかもしれない。しかし僕の前でのみなのか、へルモンドはなにやら、何かについて匙を投げたようだ。
さすが、母は難しい……。
その時、扉が開き、頭に一輪の黄色の花をつけた女性のノームが、礼をして部屋へ入って来た。
一同の後ろをまわり、半円を歩いてへルモンドの後ろに寄り添い、書類を渡す。
へルモンドは顔を上げ、彼の視線の先に商人いる。商人もまた同じようにみつめている。
そこへ先ほどのノームがそのまま続きの円を描くように、商人の元へと行って書類を手渡す。
それを一枚一枚、丹念に商人は見ると「心得ました」と、彼女に伝えた。
「そうだった。先ほどの話を忘れていた。なぜ、我らがここに来たかだが、簡単だ。人間がポカをやったからだ。種族の争いが絶えない時代、人々はその日に食べるのに困る有様だったものもおった。しかし人間は別だった。人間はすさまじい速さでこの世界に繁殖し、世界を平和にすると言い出した。そして全種族会議が行われ、我々が定められた土地はここだった。そして我々は抗議した。なぜ、戦争に参加もしなかった我々が、こんな土地に行かねばならいのかと、そしてなんと言ったと思うか? ふぅ~……商人変わりに答えて見てくれ」
「あっ、はい、もう、何度も言わされているので、口上も大変上手くなりましたよ。その当時の人間はこう言ったそうです。『えっ、ノームさん、武器の生成が得意な貴方がたは、火山地帯に住むんじゃないんですか?』 そしてノームは答えたそうです。『それはドワーフで、我々は草花と農耕を愛するものです』『えーすみません、ノームさんのもと居た場所は』しかしそこには、中の悪いエルフとドワーフが半分ずつ土地を分けていたので、どちらも引かず、この場所になったそうです。悲しい話ですね」
そう言って商人はハンカチを取り出して、涙を拭った。
それを見たノームはフッと、鼻で笑う。
「相変わらず人間の商人は、商売のためには涙も自由自在か」
「いえ、いえ、とんでもない」
「そう言うわけで、この事実を人間界で広めて、今後、間違いのないように」
「もっともでございます」
その時、アレックの肩が小刻みに揺れている。
僕が目をやると、彼は一言「懐かしい」と言った。
――ふん、どうやら、世界には冒険者の知らない世界がとても多く広がっている様で、僕はひとつどうやら勉強になったようだ。
続く
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