第34話 竜退治

  そう、僕らは謎のエルフと渡り合うためには、Sランクにならなければならない。


 だが、このクエストは適正レベルなのか?


「マーストン、これはヤバいぞ!?」

 そう言ったアレックスは、ドラゴンの頭上にいる。


 あらためて辺りの様子に意識をむける、と微かに肉食獣と放つ匂いと、同じ匂いが辺りに立ち込めていた。


 しかし海から流れて来る風と、海水に匂いがさらわれているためか、その岩の様な鱗から流れる獣の様な匂いに、気付くのが遅れたようだ。


 アレックは何とか難を逃れたが、彼も竜の顔の前に落ちれば、今度は無傷ではすまないかもしれない。

 

 だから、僕らの行動で、彼の危険を増やす事は避けたい。


 しかし海の風が、消してしまっている匂い。

 それに今はまわりに流れる、獣の匂い。そこから危険はまだ何処かに潜んでいるのだと直感のようなもの告げている。



 今回のギルドクエスト。

【クエストの内容は、人里に降りて来た竜に、少し痛い目を見て貰い帰ってもらう】


 地図に書かれた場所は、街から海岸沿いの道を東へ向かうと、崖っぷちと道を隔て、針葉樹の深い森が広がる。


 その間を縫って海岸線へ向かう道を降りると切り立った崖の下に海外線まで砂浜がひかれている。


 その様子は東西に伸びた後、突き出た岩肌でとざされている。


 そこを僕らは、アレックスを先頭に、海岸線にそって歩いていた。

 しかしその海岸線まで迫りでた崖、それに阻まれ海の中を入らなければ進めない場所へと来てしまった。


 崖の上の道から、目撃された竜がこの向こうに居る可能性が高い。


「まず、俺が行って来る」

「気を付けて」

「頑張ってね」

 そしてニンフ、はアレックスの鎧に、こぶしをあわせ無事を願っているようだ。


「みんなの事、頼むな」


 そう言ってニンフの金色の髪を、ワシャワシャとしてしまった。アレックに、今日の三つ編みを乱されたニンフは、『むぅ!』というよう顔を歪めた。


 そして波は、足に押し寄せる波に足をつけながら、波打ち際を歩いて行った。



「わぁー!?」

 ――グワシィン!


 彼の悲鳴と、何か不気味な物がかち合う音。


 その2つが、彼の進んだ先から聞こえて来た。


 急に鼓動が早く脈打つ。息は浅く。

 拭い去れない、恐怖と不安が足を引きずる。


 しかし何も考えず、同じ行動をする事は出来ない。

 その思考の浅さが、次の危険にさらされる原因となる。


 しかしそれでも気は焦り、僕たちは誰ともなく、急ぎひざ下まで海を掻き分け進む。


 そこにニンフもいる。彼女の見逃す事は、今回、絶対あってはならない。


 海上へでて、アレックの向かった先を確認する。


 ――そこでの彼は、わりと無事な状態でいた。


「大丈夫ですか!?」

「大丈夫ー?」


 幸い無事ではあるが……。


 後続の僕らが、海の中から見たものは、青い2足歩行の竜の頭上に、掴まりながら立っているアレックスの姿だった。


「こいつ、口を開けて待ってやがった!」


 そう言う彼は、赤い燃えるような髪をなびかせ、大変余裕のある顔で心底ほっとする。


 

 僕らのまわりにあった、ピンとのびた糸のような緊張が少しだけ緩むのがわかる。



 そんな僕らの気持ちのやり取りもお構いないしに、アレックスの下の竜は、頭をゆっくりとだが左右へ振り、彼を振り落とそうともがく。


 だか、竜の固い鱗のせいか、構造上の関係か、その動作は人間の目でもゆうに捉えられる速さでしかない。

 体を鍛え、体幹のしっかりしている、アレックスを慌てさせるほどではないらしい。


 彼は次の場所へと移ろうと、目線は安定感のある胴を見つめて、手を伸ばす。


 そしてチャンスはやって来る!


 アレックスを頭上から落とすのを諦めたのか、先に、僕らに目標を定めた竜の顔がこちらへと向いたのだ。


 竜の琥珀色の気持ちの通じない目と、涎のしたたる口もと。


 そして踏ん張り、何かを仕掛けて来る気配が濃厚になる。


 ――その時を

 狙ったかのように、アレックスは胴へと滑り落ちる様に移る。


 そして剣を抜き、太陽から光を受けた剣の輝きは、こちらへも届いた。

 竜、その硬い鱗に覆われた背へ、彼は力いっぱい剣を差し入れた!


 ギゥ――――ゥッ!

 竜が声をあげ体を起こした。


「揺らめく炎、内側からその対象者を焼きつくせ! ファイアーハートボム」


 僕の手の間際から、魔法の圧が放たれ、足元の海面に空気の道を作る。


 そのままそれは一直線に、痛みによって体を起こした、竜の弱点である顎の下へと薄っすらと青い炎をまとい飛んで行く!


 そしてその炎は鱗を弾き飛ばす、花火のなって弾けた。


 僕の攻撃による、爆発の煙りが、薄くたなびき海の上を渡る。


 ピャッ! ……ピャッ! ……ピャッ! ……、海の水弾く足音。

 その間隔は長く……。


 海上のなびく魔法の煙を打ち砕き、竜のもとへダークエルフさんは辿り着いた。、

 そして走ってきたスピードを殺すため、砂浜にザーッと半円を描き止まる。


 そして次の瞬間には、彼女は抜刀し、ドラゴンの顎を貫き、彼女の髪が空に舞った。


「次!」


 後方で戦場の状況の出来る僕は叫び空を指さす


 それはせり出した崖の上から現れた!


 砂浜に影から伸びる影を見た。

 それは勢いをまして落下、いや、速度を上げて滑空してくる。


 僕は声と共に、魔法を浴びせた。

 砂浜に降り立つ間際のそれは、後方へと吹っ飛ぶ!


 そして3匹目に出現していた、新たなドラゴンの下へと飛び込んでアレックの真横へとドドオ――――ン! 音をたててめり込んだ!?


 彼には当たりはしなかったが、安全を考えてだろうか?


 こちらへと踏み込み、こちらへとスピードを緩めずやって来た。


「これ何匹いるんだ!?」

「情報では、はぐれものだろう。って事でしたが、繁殖してしまったのかも?」

「ダークエルフさん!」


 僕のふっとばした、竜にとどめを刺した彼女に、アレックスの前に居た竜が飛びこむ。


 彼女はそれを足でけり入れ方向をずらすと、すかさずこちらへとやっている。


「凄い……」

「俺の自慢の弟子だからな」

 うんうん、ニンフがうなずく。彼女はここに居れは危ないが、ここから離すのも危ないジレンマ。


 そして僕らの前にやって来るダークエルフさん、僕らの前に直角に避け。


穿うがて、土の牙よ!」

 僕らの前にやって来た竜の顎を、地面から突き出た岩が刺し貫く。


 アレックは、真ん中に居たニンフをひょいと掴み、後方と逃げしてくれた。


「おわりですかー?」


 ダークエルフさんもこちらへとやってくる。

 崖の岩肌と海が攻めぎ合う海岸。


「海岸線を見た感じこの辺りのは居なさそうだ」

「予定と頭数が増えていた点を考え、崖の上の探しておきましょうか~」


 そう言って僕らは太陽の横で光を閉ざす、崖の上を見つめたのだった。


 ◇◇◇


 そして今、ギルドへと戻った。


「お疲れさまでした。海岸沿いの竜の生態はどうでしたか?」


 朝と変わらない元気さでチトセは言う。


「竜はいたけれど、数が3匹も多かった」

「そしてこれ、巣を見つけて、卵を集めて持ってきました」


 そう言うと、彼女は、「えぇー!?」体をのけぞらせ驚いていたのだった。


 続く


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