第31話 友だちのつくり方

  

 昨日の迷宮の騒動の後、過酷な迷宮で一緒に戦った『ブラックファイアー』はお金を、クエスト1回分を迷宮へ置き去りにしてしまったようだった。


 通常通りだったら、しばらくすれば異物として迷宮の消失とともに、地上へと戻される。

 

 しかし今回の異常事態がまだ未確認ながら、うちのパーティーに関わる事と、結構仲良くなったのだからと、僕らは目くばせし、アレックスが彼らに声をかけた。


「お金に困っているのなら、しばらくうちに泊ればいい」

「いいのか?」

 そう寡黙な剣士ラスクが返事をした。


「いいですよ。ギルドで身分は保証されてますし、問題ありません」


 話はとてもスムーズだったので、僕はアレックスに関心する。

 相手に気負いを負わせず、気軽に声をかける。

 簡単なようで、僕にはとても難しい事だ。

 


 そして昨日の夜は、迷宮の中と同様に騒がしかった。

 具体的にはイックさんが騒がしかったが、それを後の2人が見守り、阿吽の呼吸でいろいろなものが、彼らのまわりで飛び交っていた。


 例えば、彼らが料理を作れば、剣士の包丁さばきでラスクが野菜を切る。

 

 そうすれば次、切るべき野菜が彼の前に飛び、その間に切らてた野菜が置かれているまな板は運ばれ、大鍋の中に野菜がは投入れらる。、

 

 そしてまな板は、もと通りの位置に戻される。


 『はい』、『ほい』、『あれとって』、『何か言え、言わずにかわかるか!?』、『ありがとう』、『わかってんじゃん』、『たまたまだ!』


 見ていて面白いので、彼らの寝るための寝具を、リビングの端に用意しながら見ていた。

 

 そして念のため、隣に住む、大家さんであるブルーノさんにアレックスが報告に行くと、鍋いっぱいの林檎と、マルロネちゃんをひょこひょこと連れて帰って来た。


 そしてごはんの時には、みんなで作った林檎のうさぎが、皿いっぱいに盛られていた。

 

「すごぉーい」

「すごいね」

「食後だからな」


「俺もここに住みたーい」

「ずうずうしい」

「同じパーティーメンバーとしてちょっと……」


「なんで、お前たちそんな時だけ雄弁に語るんだ!?」

 と、食卓でも楽しく過ごし、そしてあっという間に眠っていた。


    

   ◇◇◇◇


 

 次の日、街中、混む前のギルドで朝食を食べて、そのまま『ブラックファイアー』のみんなと受付へ行く。

 

 説明はみんなで受けて、報酬はパーティーごとで受け取る。


 そこで、『ブラックファイアー』とは「また、今度一緒に潜りましょう」と言って別れた。

 

 まぁ……僕らの鞄が地下から、上がってこなければ、彼はまたやってくるだろうけど。

 いざという時の保険の治療費は、ヒーラーが居てもあって困るものではないのだから……。

 

 彼らが今日泊まりに来なくても、定住の場所が定まっていない。冒険者はギルドに手紙をまわせばだいたいは連絡がつく。

 

 クエストを指定すれば、こちら側からでも、向こう側からでも潜る希望は伝えられるので、彼らと一緒に潜る事は難しくないだろう。

 

「うーん……」

「マーストンどうした?」

「お腹痛い?」


「いえ、今回はアレックスの能力によるところは大きいですが、友達というものはこうやってなるのか……、と、複雑というか、その道筋が不思議といいますか」

「やはり前のパーティーとは、そんなに親しくなかったのか?」


「いえ、最初は親しかったですよ。でも、クエストをこなすうちに友情が、仕事に置き換わってしまったというか、生活することは大切ですからね」

 

「あのリーダーじゃ仕方ないかもな……」 


 アレックスはそう言った。そうだろうか? 僕も仕事をしていた。懸命に、僕の心の中にも友情はあっただろうか?


「難しいところですね……。で、話がかわりますが、エルフの領事館やってますかねー?」

 

「午後3時に終わるんだ。さすが、朝早く起きて隣の弓矢を扱う店はやっているだろう……だろう……」


 アレックスの中にも戸惑いを見る。

 アレックスをも振り回す、ホワイトさんにも、興味は尽きない。


 彼の中では、短い時を生きる僕らは友達になりうるのか? そう考えながら、僕の幼馴染のニンフと、ダークエルフさんを見た。

 彼女の中でも僕の一生を終える時ではなければ、僕の意味は……。


 たぶん……、僕が彼女たちの中の、僕の意味に、僕自身は一生辿り着けないだろう。


 だから、僕らのためにホワイトさんの友だちを目指してもいいかもしれない。

 短命、彼よりはたぶん、先に逝くのだから。


 そんなことを考えながら中央通りの繁華街を海と逆へ曲がり、いまだ目を覚まさぬままの、商店街へとやってくる。


 そして弓矢を扱う店も、領事館も扉は固く閉じ、まだ営業中の看板は裏返されたままだ。


 「あら」

 「張り紙もない。さすがに7時前は早かっただろうか?」

 

 僕たちは領事館の前に置かれた。ベンチへ座るとアレックスが「これって……」と言ったが、僕は「まさか……」と答えたが……。


 このベンチはホワイトさんを待つことが常であるから、置かれたのではないはず。


 だが……。


「貴方、ホワイト様は今日もここへは来ないらしいわよ。用があれば、王宮へ来て欲しいって言っていたわ」

「そうなのですか?!」

「そうよー。『僕は、しばらくは王宮へ行くから来てねん』と言ってしまったわ。しばらく会ってないから、おばぁちゃんも寂しくなっちゃった」


「えぇ……、そうなんですね

「大丈夫。貴方たちもなれるわ」


 そうホワイトの同じ姿を何十年も見ているだろう、彼女は笑った。

 彼女は慣れるのに、どれくらいの時間がかかったのだろう?

 

「「ありがとうございます……」」

 そう礼を言い僕らは別れ、王宮を僕らは目指すこととなった。


  続く

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