第23話 彼らの夢
ギルドのレストラン側から、料理のやけに旨そうな匂いが流れてくる。
夕暮れ間近のギルドに、レイソンたちパーティーの面々が、椅子に座り順番を待っている。
彼らの受付担当のラドルは、彼らの前に受付へと立ったパーティーと、やけに長い商談中で、時折パーティーの苛立ちの声が聞こえて来ていた。
「すみません。ラドルさんが受付を担当している『ジャスティス』の皆さんですよね。あちらの受付担当のチトセと申します。私で良かったらお早く受付可能なのですがどうされますか?」
ウェーブのかかった髪を弾ませて、このギルドで若い方の受付嬢が、レイソンたちに声をかける。
「じゃー頼む」
そう言うと、レイソン達は重い腰をあげて、チトセに続き受付へと歩き出す。
「すみません。最近、時期が少々早いのですが、迷宮が発見されまして、改めて皆さんに活動について再確認をしています。しばらくこういうことがありますが、ご容赦ください」
「あぁ、わかったよろしく頼む」
「「よろしくお願いします」」
リーダーの後ろに付くて歩く、パーティーメンバーは人当たりも良くニコニコと挨拶を返してくれた、
「では改めて、今回受付を担当します。チトセです。よろしくお願いします」
チトセは上品で当たり障りのない笑顔を返すと、書類に目をやり、少しだけ考える仕草をした。
そして前のめりにジャスティスのメンバーの前で話し始める。
「皆さん! Bランクという事で、皆さん大変優秀という事はわかります」
「ああ、で?」
「ですが、ご存じの通り、Bランク級のヒーラーの不在は深刻になっております。ですのでCランク級のランク差を気にしないヒーラーの皆様を紹介していたわけですが、うーん、正直言って、評判が良くありません! 突っ込んでいく戦い方は見直した方がいいです。後、金銭の分配の際には、ヒーラーの方々に多く料金を分配することや、魔法薬を手渡すなどした方がいいですねー。 それが行えるパーティー皆さんがヒーラーを勝ち取っていますよ」
「なんで、そこまでギルドが口を出して来るんだ?」
そう言ったレイソンの目は、獲物を狩る目になっていた。
最近のギルドのそういった押し付けに、いい加減うんざりしているところだ。と、でも言いたげに。
「募集を出す時には、報酬は等分と書いてあるし、問題がないはずだろう?」
「大ありです。紹介できるヒーラー様がこの調子で減って行くと、それでも気にしないて方と組んでもらうわけですが……、毎回その方を『ジャステス』の皆様と組んでいただくように、こちらからは組み合わせは出来ません。ですから、今の内に少しでも可能性が広がるよう、ヒーラーについての考え方を改善ください」
「いやだ。主義に反する。なんで、下のランクの奴の方が報酬が上なんだ。それでなくてともヒーラーはランクをかけ上げって行くのに、このままではヒーラーの素質の薄い奴まで高レベル帯へと入って行くぞ」
「えっ……、今の御自分たちの食いぶちより、ヒーラーの未来を憂いてるんですか?」
「そんなわけではない。不公平はうちのパーティーでは許されないってだけだ」
チトセは目の前の自信と、何かしらの確信を持ったような、レイソンの顔を見つめ、その後にいるパーティーのメンバーの顔を見た。
目を輝かせて彼を見る剣士と、目が合うと、目を反らしてしまった黒魔術師。
そしてチトセは口をとじて、書類を重ね、トントンと机に打ち付ける。
「レイソン様が言う問題も無くはありません。難しい問題です。答えの出ないような……。ですので、通常業務に戻ろうと思うのですが、いいでしょうか?」
そう言うと、パーティーのリーダーの彼は何か言いたげな暗く、鋭い眼差しの顔に、彼女の額に汗がうかぶ、そして口の中に渋みを感じた。彼はそのまま何も言わず、視線を落とした。
「お願いする。ヒーラーの希望のギルドクエストには丸を付けておいた。当日希望するクエストには二重丸を」
丸が付けられているものは、皆、Bランク相当のものになっている。
Aランクまでいくグループはだいたい、それまでに固定を組んでいるパーティーが殆だ。そのためヒーラー不足も解決され、彼の言う問題にも直面する。
しかし結局は、ヒーラーのことも考えられるパーティーが、良質なヒーラーと組んでいった結果だと考えているのかなー? とチトセは、頭を悩ます。
彼らの選んだ、Cレベルの狩場による、大量の素材集めのクエストの手続きをこなしつつ、担当への引き継ぎの内容を、徐々に頭の中で構築していく。
「はい、お待たせしました。書面のご確認お願いします。希望者のヒーラーが現れない場合、希望にそう結果になりませんがご了承ください」
「ああ、わかっている。そしてこれで大丈夫だ。ありがとう」
「「ありがとうございます」」
そう言うと彼らは帰っていった。
――彼らはパーティー名の様に正しくはあるけれど、……とにかく死んでほしくない。同じ年頃の子たちには、身近な分、こちらの心にダメージを負うからだ。
うーんと、背伸びを一度すると、次のパーティーの名前を呼んだ。
彼らは、英雄に近づきつつあるS級ランカーだ。
彼らが偉大な分、『ジャステス』と、違う意味で、心の負担にはなるが、彼らの夢の中の一部として、自分がいられることがとても魅力的だ。
けれどここには夢が多く転がっていて、『ジャステス』の夢の中にも私はいる。それを忘れてはならない。
続く
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